日本政策投資銀行「著作権侵害」の大罪 ――著作権料払わず、新聞・雑誌を組織的に大量コピー(記事要旨)

■ZAITENでは新聞・雑誌記事の違法コピーなどの著作権侵害を問題視し、次号7月号(6月1日発売)号では大手主要企業に対して著作物に対する意識調査を行った。著作権に対する意識は決して高いとは言えないのが現状である。問題意識の啓蒙のため、現在発売中の6月号にて掲載した日本政策投資銀行による悪質極まりない著作権侵害の実態を特別に公開します。

重大な著作権侵害の情報がもたらされた。それも「国策銀行」である日本政策投資銀行で――。悪いことだと知りつつも行われた、組織を挙げての〝犯罪行為〟は到底許されない。

「今朝の新聞の記事、会議で配るからコピーしておいて」―どこのオフィスでも飛び交っていそうな、ありふれた言葉かもしれない。だが新聞、雑誌の記事を商用目的でコピーすればたとえ1件、1枚でも「犯罪行為」になることを、果たしてどれほどの企業が把握しているだろうか。

 著作権法の規定では新聞・雑誌記事などの著作物を複写(コピー)する場合、同法が定める保護期間(原則として著作者の死後70年)を過ぎているか、私的使用などの例外を除けば著作権者の許諾を得なければならず、許諾を得ないままコピーしたりインターネットで配信すれば著作権のひとつである「複製権」や「公衆送信権」の侵害となる。

 これらの権利を侵害した者は刑事・民事両面で罰せられる可能性があり、被害者である著作権者が告訴すれば加害者(私人)には10年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金、またはその両方が科される。

 加害者が法人の代表者である場合や、その法人の従業員などが故意に著作権侵害行為をした場合は、行為者が右の規定に基づいて罰せられるほか、法人自体にも「最大で3億円以下」の罰金が課されることになる。

 著作権の問題に詳しい山岡裕明弁護士は、企業による著作物取り扱いの現状を以下のように分析している。

「残念なことではありますが、著作権侵害は日本社会全体で少なからず行われているのが現実です。1本の記事を企画し、取材・執筆して世に送り出されるまでにどれほどの労力と、時間的・経済的コストが投じられているか、読む側には想像し難いからでしょう。技術の進歩が、よりハードルを押し下げてしまっている面もあるでしょうね。今はどの会社のオフィスにもコピー機やスキャナが備わっていますから簡単に複製はできますし、デジタルコンテンツに至ってはコピー・アンド・ペーストするだけでできてしまう。しかし、どれだけ簡単にできることでも違法は違法です。仮に発覚し訴えられた場合、『どこの会社でもやっている』は通用しません」

元財務次官を戴く国策銀行の「犯罪行為」

 こうした著作権侵害の中でも史上最大級になると見られるケースが、財務大臣が100%の株式を保有する政府系金融機関である日本政策投資銀行(政投銀)であったことが内部告発により発覚した。政投銀は特殊法人であった旧・日本政策投資銀行を解散し、08年10月に株式会社として新たに設立された。当初予定では12~15年頃までに完全民営化されるはずが、何度も見送られて今日まで至っている。

 最近では三井住友、みずほ、三菱UFJの3メガバンクが東芝メモリホールディングスに最大1兆円の融資を行うにあたり、政投銀が3千億円の優先株を引き受けると報じられた。まさに「国策銀行」である。現在のトップ、木下康司代表取締役会長は、13年6月から14年7月までは財務事務次官の任にあり、任期中の14年4月には財務省の悲願である消費税率5%から8%への増税を実現した人物でもある。

 だが、そんな政投銀では内部告発によると02年3月から10年9月までの実に8年6カ月にわたり、「日本政策投資銀行」「政投銀」「D e v e l o p m e n t B a n k o f Japan」の名が記載されている新聞記事、雑誌記事を著作権者の許諾を得ないままスキャンしてPDF化し、それを「当行関連ニュース速報」などと題して、東京・大手町の本店や北海道から九州までの全国10支店に勤務する総勢約1200人の行員が閲覧できる社内イントラネットに配信していた。

 政投銀の内部事情に詳しい、ある関係者が証言する。

「政投銀のイントラネットには多い時で1日に何十件もの記事が配信されることがあり、10年1月に日本航空が破綻した時などは、その状態が毎日続きました。10年に法務部が検証して見直したことで、新聞社に対してはようやく許諾を得るようになり、現在では全国紙・地方紙・専門誌など合計32の新聞社に年間トータルで約600万円の使用料を払うようにもなったのですが、それ以前、つまり02年3月から8年6カ月の間、著作権違反をしていたことについては、政投銀は申告しませんでした。本当ならさかのぼって約5千万円を新聞社に支払わなければいけなかったのに、ダンマリを決め込んだのです。32紙以外の新聞社・雑誌社を含めれば、1億円以上の損害になります」

 政投銀が8年半の間に合計で何件の著作権侵害を行っていたか、その正確な件数は定かではない。だが、少なくとも09年4月~10年3月の1年間だけで朝日新聞の記事165件、読売新聞129件、毎日新聞128件、産経新聞114件、日本経済新聞社の記事541件をイントラネットに配信していたことが確認されている。

 なお、著作権侵害の時効は刑事と民事で異なるが、刑事上の時効は被害者が犯人を知ってから半年、または懲役10年未満の罪にあたるような著作権法違反の行為があった時から5年、懲役5年未満の罪にあたるような著作権法違反の行為があった時から3年。民事上の時効は損害や犯人を知ってから3年であり、小誌には今年に入ってから告発があったことから、19年5月現在、両者とも時効は成立していないことになる。

 仮に政投銀が新聞社に8年半分の賠償を済ませたとしてもまだ余罪はある。前述関係者の言う通り、政投銀は10年に「当行関連ニュース速報」のあり方を見直し、新聞社に記事使用料を払い始めたものの、これとは別に07年4月~13年3月までの6年間は自行で購入した雑誌数百誌の記事見出しを社内ネットワークに掲載していた。

 さらに、それを見た行員からの依頼に応じて、著作権者である出版社の許諾を得ないまま記事をコピー機で複写し、配布またはFAXで送信する「雑誌記事コピーサービス」なるサービスも行っていたからだ。

 以上の事実を踏まえて小誌が政投銀に取材を申し入れると、数日

後に同行の経営企画部広報室から「お尋ねの件は事実」と全面的に

認める回答があった。

犯罪であることは最初から認識

 五大紙、全国の地方紙(北海道から沖縄の地方紙まで各支店の行員が収集)、業界紙、洋新聞、雑誌170誌を10 年以上不正コピーし、約1200人もの行員が閲覧できるようにしていた政投銀の行為が、著作権侵害に関係した事件としては史上最大規模であることは間違いない。そして同行の犯行の悪質性をさらに際立たせているのが、同行が「当行関連ニュース速報」や「雑誌記事コピーサービス」を開始する前に、その違法性を認識していたことがわかる明確な証拠があることだ。

 政投銀では「本行関連ニュース速報」を準備中だった01年6月、同サービスで著作権法上の問題が生じないかどうか、知的財産権分野における第一人者とされる名越秀夫弁護士に助言を求め、同月に回答を得ている。当時やり取りされた書面を参照してみよう。

「情報センター(注=政投銀における担当部署)では、職員を対象に、下記ガイドラインの遵守を前提に『本行業務に係わる新聞等の切り抜きから構成される紙面(本行関連ニュース速報)』の配信を検討中である。この場合、著作権上の問題は生じないか」

 文書を読む限り当時の政投銀では、「本行関連ニュース速報の掲示は■(ママ)日間に限定し、それ以降は掲示しない」「当該画面の送信は行わない」などの条件を「ガイドライン」として付すことを検討しており、これらの制限を設ければ著作権に抵触しないと考えていたフシもある。だがそれに対し、名越弁護士は以下のように回答している。

「著作権は、私的使用(著作権法30条)などの特殊な例外を除き広範に及ぶと解釈される。著作権の及ばない私的使用は、個人や家庭内の使用に限定される。従って、設問の行為は、著作権法違反である。なお、〈会社で新聞をコピーし部内・班内を回覧する〉行為等も、コピー部数や閲覧者の多少によらず著作権法違反に該当する」

 つまり政投銀は、違法であることは十二分に教えられながら、結局は違法なサービスの開始に踏み切ってしまったのである。

 先の関係者が言う。

「不正に関わっていた行内図書館の行員たちには違法性の認識は間違いなくありました。社会保険庁職員の事件で国が敗訴した件など、過去に著作権法違反で裁判になった事例の詳細が書かれたデータを『危険な判例』というフォルダをつくって部署内で共有してさえいました。著作権の問題を指摘する行員もいましたが、『どこでもやっている』と相手にされませんでした。現在は行員が増えて約1300人在籍しているのに、新聞とは依然1200人分の契約しか結んでいないのも疑問」

 小誌取材に政投銀は〈確認された内容に基づき、顧問弁護士にも助言を受けつつ、社内で対応を検討し、以後著作権侵害に該当する行為を行わないよう対応を是正してまいります〉と述べているが、その言葉が嘘にならないことを願いたい。

「社会の木鐸」たる新聞社の責任は...

 ところで、この事件において政投銀とともに責任を問われなければいけないのは、一次的には被害者である大手新聞各社の存在だ。

 なぜなら、著作権侵害に遭った新聞・通信社のうち、朝日、日経、毎日、産経、東京、日刊工業、ジャパンタイムス、共同通信、時事通信の9社については、すでに昨年末から今年初めにかけて内部告発に基づき自社の被害を把握し、一部の会社については個別に政投銀に抗議し、すでに損害賠償を受けていたことが判明している。それにもかかわらず、現在までどの社も告発内容を取材し、報じるには至っておらず、結果的に政投銀の犯罪を見逃しているからだ。

 そこで小誌は右9社のうちの朝日、毎日、日経、産経に読売も加えた5社に対して質問状を送付、「政投銀の著作権侵害を知っていたか」「知っていた場合、何らかの問い合わせを行ったか」「報道する必要性があるか」などについて尋ねた。

 結果的に返ってきたのは「個別の契約については回答しない」という、見事なほどに横並びの回答であった。

 当該新聞社の1社に所属する、ある記者が言う。

「正直なことを言えば、自分たちも会議や取材のために他メディアの資料をコピーする、ということは頻繁にやっています。政投銀のことを記事にしたあと、実はうちの新聞も似たようなことをやっていた、などと週刊誌あたりに書かれたら目も当てられないことになりかねない。だから腰が引けたのかもしれません。政投銀のしたことは、件数や被害額から言って同列には論じられないはずではありますが......」

 なお、今年10月に消費税の10%への増税がなされる際、新聞は軽減税率が適用され、税率は8%に据え置かれることが決まっている。

 新聞への軽減税率適用が決まったのは15年12月のこと、でその頃には木下会長はすでに財務事務次官を退任していたが、新聞各社がそのずっと以前から軽減税率を業界あげての悲願として掲げ、木下次官時代にもロビー活動を行っていたことは周知の事実である。

 くどいようであるが、告発には右記9社だけでなく他の190ものメディアが著作権を侵害されている実態が記されていた。

 貴重な内部告発を受けながら自分たちだけ賠償を受けることで良しとし、他者の被害には目を瞑るなど、メディアの自殺行為ではないのか。

[執筆]ルポライター 古川琢也+小誌取材班         [ZAITEN2019年6月号]