【記事無料公開】さらば!安倍晋三&アッキー「最悪政権の大罪」(前編)

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8月28日の突然の辞任会見から1週間あまり。持病の悪化を理由に辞任を表明した安倍晋三首相は、「国民の皆さまの負託に自信を持って応えられる状態ではなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきではない」などと神妙に語ったが、戦後最長を記録した安倍治世が国民の負託に応えてきたかといえば、はっきり「NO」と断じざるを得ない。

あらためて安倍治世の「大罪」を振り返るべく、本誌「ZAITEN」2020年8月号で展開した特集《さらば!安倍晋三――アッキーともども早く消えてくれ》の巻頭レポート〈安倍「最悪」政権7年半の大罪〉(ルポライター・古川琢也氏寄稿)の前編を無料公開します。

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2019年5月のトランプ米大統領来日時の安倍首相Twitterより

 総額260億円をかけながら、配布される頃には存在意義を失っていた「アベノマスク」をはじめ、安倍政権が新型コロナへの対応で晒した数々の失態は、この政権がもともと持っていた無能さを一般国民にも知らしめた。

 コロナ禍で苦境にある自営業者を支えるはずの「持続化給付金」にしても、総額769億円に上る事業が経産省から「サービスデザイン推進協議会」(サ推協)なる社団法人に丸投げされ、さらに「97%」という再委託率で電通が孫請けした経緯が批判を浴びている。政権は例のごとく「委託はルールに則って行われた」と開き直るが、経産省OBの飯塚盛康氏は、この契約が異常である理由を次のように説明する。

「経産省には、委託事業で再委託率が50%を超える下請けを禁じる内規が少なくとも2017年頃までありましたが、仮に丸投げはOKとしてもこの契約はおかしい。なぜならこの事業で実際に給付を行うにあたっては、梶山弘志経産大臣も国会で答弁したように電通が750億円近い費用を立て替えているからです。

 それはそうでしょう。こうした事業を国が民間委託する場合、国が費用を前渡しすることはありません。ただ、国が一次契約を結んだ相手はあくまでサ推協です。つまり国は、入札資格Cランクの、従業員が21人しかいない組織に750億円もの費用を立て替えられると思っていたのか? という話になってしまう。

 サ推協は、16年5月に電通、パソナなどが共同で設立しています。16年といえば、電通が前年12月に発生した社員の過労死問題で大バッシングされ、労基法違反容疑で家宅捜索までされた年。サ推協は電通が、自社が政府の入札から事実上締め出されることを見越した上で、公共事業をトンネルさせるために作った可能性が高いと私は見ています」

 そもそも持続化給付金がこれほど大きな騒ぎになったのも、元はと言えば、給付金の支給が遅れに遅れたことが発端だった。生活困窮者の支援を行うNPO「ほっとプラス」の理事を務めている藤田孝典氏が言う。

「持続化給付金も、10万円の一律給付にしても6月に入ってようやく支給が始まったようなものですが、新型コロナの感染が広がってからすでに4カ月近くが経っており、すでに非正規雇用者を中心に多くの失業者が生まれ、自営業者たちも事業の閉鎖に追い込まれています。安倍政権は『スピード感』という言葉を好んで使いますが、今回のような緊急事態が起きて、あらためて内実の伴わない政権という印象を持っています」

 あまりの問題の多さから、野党は「新型コロナ対策を監視する必要がある」として国会の会期延長を求めた。だが与党は応じず、6月17日の会期末で予定通りに閉会した。

 東京電力株主代表訴訟の事務局長である木村結氏は、ここに安倍政権の不実な体質が露呈しているという。

「東日本大震災(3・11)は11年1月24日に招集された通常国会の会期中に発生しましたが、当時の民主党政権は当初の会期末だった6月22日から70日間も会期を延長、さらに10月20日には臨時国会を招集し12月9日まで開催し、野党との国会論戦に応じました。翌12年も1月24日に通常国会を招集して会期を79日延長、臨時国会も開いています。トータルすると、3・11から数えて野田佳彦首相(当時)が衆院を解散するまでの614日中、77%に当たる472日は国会を開いています。少なくとも大災害時に国民に向き合おうとする姿勢に関しては、民主党政権と安倍政権はずいぶん違います」

 それでも政権側は新型コロナ感染の抑え込みには「成功した」と胸を張るが本当なのか。皮膚科医で、感染症の問題にも詳しい帝京大学名誉教授の渡辺晋一氏が言う。

「日本も含むアジアの場合、欧米よりも感染率が低いのですが、日本の場合、PCR検査の実施数そのものが少ないので感染者の数が少なく出るのは当然。新型コロナによる死者が6月16日現在で927人という数字だって本当かどうかは分かりません。実際に新型コロナで死亡した力士は政府の統計には含まれていませんでした」

 安倍政権は、WHO(世界保健機関)が感染拡大防止のため幅広く実施するよう求めるPCR検査を忌避してきた。5月2日時点での各国のPCR検査数(人口1000人あたり)を比較すると、イタリア34・88件、スペイン28・9件、米国20・59件、韓国12・31件に対し、日本はわずか1・45件。先進国中最低クラスの検査しかしていなければ、感染者数がデータ上少ないのは当然である。

 その意味で注目すべきは、欧米各国では新型コロナの流行規模を把握するための真の指標と認知されつつある「超過死亡者数」だ。東京都が6月11日に発表したデータによると、都の4月の死者数は1万107人で、過去4年間の同月の平均死者数(9052人)を12%上回っていた。東京都の、4月の新型コロナ感染による死者数は公式には104人だが、実際はその10倍近い1000人近くが新型コロナで亡くなっていた可能性がある。

「感染症対策の手順は1に感染者の発見、2に隔離、3に治療。そんなことは世界の常識です。現政権がその常識に逆らい、患者数が少ない時期にしか意味のないクラスター対策に固執したのは本当に不可解。保健所が人手不足だから十分な検査ができなかったかのように言う人もいますが、保健所に頼らずともPCR検査を請け負える民間の検査会社はたくさんありますし、たとえ民間の検査会社がだめでも、PCR検査機器のない医学・薬学系の大学院など今どきありません。検査の手技だって、1カ月ほど訓練すれば大学院の学生にもできる程度のものです」(同)

 そうまで聞けば、安倍政権が検査数を絞り込んだのは、東京五輪を来年、確実に開催するために感染者数を低く見せたかったからだ、との説が真実味を帯びてくる。

「ほとんどの医師は、常識的に考えれば来年に五輪をやるのは無理だと思っていますよ。安倍首相はワクチンが開発されるので開催できるかのように言っていますが、治験が済めば使用できる治療薬と違い、ワクチンの場合は開発されても、有効性と安全性が確認できるまでには通常数年かかるからです。仮に1年後、国が『安全なワクチンができた』と発表しても、私は恐くて打てません」(同)

 もはや実現可能性はなくなった五輪。この開催に固執する安倍がトップに居続ける限り、日本のさらなる沈没は避けようもない。

アベノミクス「嘘八百」の深すぎる傷跡

 内閣支持率の支持の内訳を見れば、「他の内閣より良さそう」という消極的な支持理由が常にトップにある安倍政権。そうした巷の人々の思い込みの背後に、「アベノミクス」なる経済政策への漠然とした信頼があることは間違いないだろう。

 安倍肝いりの人事で2013年3月に日本銀行総裁に就任した黒田東彦は、同年4月より日銀が市場に直接供給する資金(マネタリーベース)を年間60兆~70兆円のペースで増加させる「異次元の金融緩和」を開始。20年5月末にはマネタリーベース残高は史上空前の543兆円に到達した。

 円が市中に大量に出回ったことで円安が進行し、異次元緩和前に1ドル=95円程度だった円ドル相場は15年には125円台になった。これにより、輸出に依存している国内企業の収益は大きく上向いたとされている。

 さらに第2次安倍政権発足前日の12年12月25日には1万80円だった日経平均株価が、18年10月には2万4270円の高値を記録したほか、名目GDP(国内総生産)は495・0兆円(12年)から553・7兆円(19年)へと増大。19年1月には、安倍政権下での景気拡大が「いざなみ景気」(02年2月~08年2月まで)の73カ月間を超え、戦後最長となったと発表されるに至った。

 こうしたアベノミクスの〝成果〟が華々しく宣伝されるたびに、多くの国民は「アベノミクスはうまく行っているらしい」と刷り込まれてきた。だが『アベノミクスによろしく』『国家の統計破壊』(ともに集英社インターナショナル)などの著者である弁護士の明石順平氏は、これらの指標が欺瞞に満ちていると批判する。

「安倍政権下での消費低迷は本当に悲惨です。特に日本の実質GDP(名目GDPから物価の変動による影響を差し引いた数値)の6割を占める『民間最終消費支出』(国内の民間支出の合計)の実質値は、これが伸びないと経済成長できない重要な指標であるにもかかわらず14年度にはリーマンショック時(08年度)を超える下落率を記録。15、16年度も下がり戦後初めて3年連続下落しました。19年度にようやく13年度の水準を僅かに上回りましたが、要はアベノミクスが始まった13年度からの5年もの間、消費が全く伸びていなかったということです。内閣府は16年12月にGDPの算出方法を変更していますが、この時、国際的なGDP算出基準に合わせるとともに、それと全く関係ない『その他』という項目でアベノミクス以降のGDPを嵩上げしています」

 明石氏によれば、消費が伸びないのは異次元緩和による円安インフレに消費増税の影響も加わり、国民の実質賃金(物価上昇率を加味した賃金)が下がり続けているからに他ならない。にもかかわらず、大手メディアは18年8月、厚生労働省が公表した同年6月の「毎月勤労統計」速報値をもとに名目賃金が前年比3・6%も伸びたと報じたが、これは後日発覚したように、同統計の18年1月以降の数値を不正に操作して出した嵩上げ値だった。

「実質賃金の大きな下落は、〝戦後最悪の消費停滞〟を引き起こしています。春闘のアンケートの対象でもない、大多数の国民に景気回復の実感がないのは当たり前です」(同)

「成長戦略」の真実

 消費がこれほど低迷しているにもかかわらず、日経平均が2万2000円台を維持しているのは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が年金基金を日本株の購入に大量投入しているほか、日銀が上場投資信託(ETF)を通じて日本株を年間約6兆円分も購入することで買い支えているからだ。

 アベノミクスでは「第1の矢」である異次元緩和でデフレマインドを払拭し、次ぐ「第2の矢」の財政政策で需要を喚起、最後に放たれる「第3の矢=民間投資を喚起する成長戦略」こそがアベノミクスの本丸であり、持続的な経済成長を実現すると謳ってきた。

 だが、経済産業省出身で政治経済評論家の古賀茂明氏は、アベノミクスの成長戦略はどれも失敗だったと切り捨てる。

「安倍政権が13年4月に発表した成長戦略の第1弾はそのあまりの内容の無さゆえに翌日の日経平均が暴落するほどでしたが、その失敗後に政権側が鳴り物入りで推し進めたのが原発と武器の輸出。もともと倫理的に問題があるこの2つが、どこの国からも相手にされていないのは不幸中の幸いです。今のところ唯一失敗せずに残っているのはカジノですが、基本的にカジノという産業はギャンブルで負けた人がいなければ成立しない。実現したとしても、国民を不幸にこそすれ、豊かにはしません」

 新しい産業がなかなか育たない反面、かつて日本経済を支えていた製造業が急速に没落し、他国にシェアを奪われていく光景も安倍政権下では何度も見られた。

「80年代には世界市場の過半を占めた日本の半導体は今や世界シェア6%まで落ちてしまいましたし、半導体の製造に欠かせない半導体露光機(ステッパー)の分野でも、かつて世界トップだったキヤノンやニコンが最新鋭機でオランダのASMLに敗れ開発を断念しました。日本で売られているテレビの画面は今や全て韓国製。シャープは台湾企業傘下に入り他社は液晶パネル事業から撤退した一方、液晶に代わる存在である有機ELは日本ではまだほとんど作られていません」

 だが安倍政権の何にも勝る失敗は、日本が生き残るための「将来の芽」までも摘んでしまったことだと古賀氏は言う。

「この7年の間に、日本の経済的な地位が急激に低下してしまったことを多くの指標が示しています。たとえば、世界銀行が毎年発表している『ビジネス環境ランキング』。このランキングは起業のしやすさに直結するとして安倍政権も20年までに『先進国(OECD加盟国)中3位以内を目指す』と謳い上げたものですが、毎年順位は下落し、最新20年版で日本は29位。香港(2位)韓国(5位)台湾(15位)にはるか及ばず、ロシア(28位)よりも下です。

 将来を担う優秀な学生もどんどん出にくくなっています。イギリス・タイムズの教育誌『THE』の『アジア大学ランキング』2020年版(6月3日発表)では、1,2位を中国(清華大学と北京大学)が占め、ベスト20に入った校数は中国7、韓国5、香港4。日本は2校(7位東大、12位京大)でシンガポールと同じですが、ランクインした東大、京大ともに同国の大学より下という悲しい状況です。日本の大学が世界的にあまり評価されていないのは昔からでしたが、もはやアジアの中でも高いとは言えないのです」

 安倍が日本経済に残した深すぎる傷跡は、安倍本人が退陣しても容易に埋められるものではない。(敬称略、肩書等は掲載当時のまま)