テレビ朝日・政治記者の知られざる実像

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《聞き取りで浮上 報道ステーション「セクハラ横行」の疑い》――。本日発売の「週刊文春」(9月19日号)で再び報じられたテレビ朝日の報道番組「報道ステーション」の男性番組スタッフによる複数のハラスメント疑惑。「魚は頭から腐る」というが、番組の最高責任者である桐永洋チーフプロデューサー(CP。現在更迭)からして、出演する女性アナウンサーに対する"キス・セクハラ"に手を染めていたのだから、麾下にあるデスク他、番組の男性スタッフの度し難いモラルハザードは推して知るべしと言える。

ただ、セクハラがバラエティなどの娯楽番組で罷り通ってもよいとは言わないが、こと、清廉性が求められる報道番組において、そのような野獣の所業が横行していたとなると、事情は大いに違ってくる。果たして、今後、報ステはセクハラ問題を真正面から報じることが出来るのか。それどころか、局面次第では時の政権との対決も余儀なくされるはずの報道番組が、そのような破廉恥行為で足元を掬われることの社会的損失はあまりに大きい。

しかし、テレ朝の報道部門はその清廉性を自ら放棄しようとしているようなのである。これまでの報ステ関連記事に加え、今回は小誌「ZAITEN」2019年6月号(同5月1日発売)で報じた《安倍官邸に踊る「テレ朝」政治記者の倫理観》(ジャーナリスト・濱田博和氏寄稿)を無料公開したい。安倍政権中枢の菅義偉官房長官、今井尚哉首相秘書官(当時、9月11日の内閣改造で首相補佐官を兼務)に接近、"走狗"ぶりを見せるテレ朝政治部記者の振る舞いを描いた同レポートは、永田町界隈で大いに注目を集めたが、果たして、公共の電波を預かるテレ朝の報道姿勢は大丈夫なのか......。

なお、下記URLの通り、小誌ブログではテレ朝関連記事を無料公開しています。こちらもぜひともご覧ください。

・【9月4日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(1)

・【9月5日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(2)

・【9月7日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(3)

・【9月9日公開】
テレビ朝日「報ステ」セクハラに沈黙する早河会長

1906tvasahi_imai_suga.jpg今井尚哉首相秘書官と菅義偉官房長官
(「ZAITEN」19年6月号掲載写真)

 令和おじさん――。新元号「令和」を発表した安倍晋三・自民党政権の官房長官、菅義偉は今、若い世代からこんな愛称で呼ばれているのだそうだ。だがその素顔は、学校法人の森友学園と加計学園を巡る一連の問題、さらには閣僚の不適切発言などに対するメディアの追及を巧妙にかわし、定例会見で厳しい質問を連発する東京新聞社会部記者の望月衣塑子を「あなたに答える必要はない」と突っ撥ねる、厚顔無恥な第2次安倍政権の〝防波堤〟である。全国紙の政治部記者が解説する。

「政権のスポークスマンを務める菅長官は、テレビの影響力の大きさを熟知しています。朝食会では、5時半起きで新聞とテレビをチェックした秘書官から報告を受け、テレビに出ているコメンテーターらと連日会食する。その際は『先生のおっしゃる通りです』などと下手に出てプライドをくすぐるので、コメンテーターらも悪い気はしない。メディア支配の手法が実に巧妙なんです」

 この菅とともにメディア支配の役割を担うのが、第1次政権時代からの「安倍の懐刀」政務担当の首相秘書官、今井尚哉。NHK解説委員の岩田明子ら、お気に入りの記者を露骨に贔屓する一方、意に染まない番記者を恫喝や無視。優等生揃いの番記者は怖気づき、今井の掌の上で踊る。菅とは一味違う「恐怖による支配」である。

「育ちの良い安倍首相と、キャリア官僚の今井秘書官は、学歴が高く礼儀正しい記者がお気に入り。逆に地方議員からの叩き上げで苦労人の菅長官は、エリート臭の強い記者や女性記者がNG。『特定の女性記者に甘い』と指弾されないよう用心しているのです。さすがに官邸クラブから不満が上がり、最近は各社の女性記者が菅長官を囲む会合が持たれるようになりました」(前出の政治部記者)

安倍シンパのテレ朝記者

 こうした第2次安倍政権が支配を目論んだメディアのひとつが、1985年10月の『ニュースステーション』(Nステ)放送開始以来、一貫して歴代自民党政権に批判的な論調を展開してきたテレビ朝日と、Nステの後継番組『報道ステーション』(報ステ)だ。Nステや報ステのシニカルな報道姿勢や、報道局長(当時)の椿貞良の「『何でもよいから反自民の連立政権を成立させること』を狙って局内をまとめていた」との発言が波紋を広げた椿事件(93年)などが原因で、自民党政権とテレ朝との関係は長年冷え切っていた。

 安倍政権はそうした状況を打開し、仇敵の報ステを骨抜きにしようと目論む。それにはテレ朝政治部内にシンパを作るのが何より手っ取り早い。その対象になったが、第1次政権下(2006年9月~07年8月)で内閣記者会(官邸記者クラブ)に配属されていた吉野真太郎だった。

 79年生まれの吉野は久留米大学附設高校(福岡県)、東大経済学部を卒業して03年4月にテレ朝に入社した学歴エリート。入社当初は報道情報局社会部で警視庁記者クラブに所属したが、わずか1年で政治部に。10年7月に報ステに異動するまでの6年間を官邸クラブで過ごした。吉野を知る他の民放キー局の政治部記者が語る。

「吉野は政治部記者としてではなく、一個人として安倍さんの熱狂的なファンなのです。07年9月に安倍さんが参院選の敗北や体調悪化を受けて政権を投げ出したあと、吉野は高尾山の登山に同行するなどして、親交を欠かしませんでした。報ステ異動後の吉野が11年に結婚した際、安倍さんは『吉野君は私が最も信頼するテレ朝の記者』というビデオメッセージを送った。吉野がそれを披露宴で自慢げに流したことで、政治部記者の間で話題となり、顰蹙を買っていました」

 12年12月の第2次安倍政権誕生に伴い、吉野は翌13年7月にめでたく政治部に復帰、再び官邸クラブに所属して現在に至る。大手メディアは、特定の相手との癒着関係を防ぐため、長くても3年で担当替えするのが不文律だ。ところが吉野の官邸クラブ在籍期間は前後11年9カ月に及び、昨年7月からはキャップとして5人の部下を統轄する。そのうちの一人で内閣府特命担当大臣の片山さつきらを担当していたのが、同僚の夫がありながら、週刊誌にNHK記者との〝禁断愛〟を報じられた元局アナの村上祐子。全国紙の政治部デスクは驚きを隠さない。

「自民党担当の平河クラブや野党クラブを一度も担当せず、中央官庁で政策取材の経験もない政治部記者が、官邸クラブのキャップになるなど、通常はあり得ない。吉野と安倍政権との親密さは永田町界隈では周知の事実だが、それを放置しているテレ朝政治部の堕落ぶりは醜悪と呼ぶ他ありません」

報道局内のアンタッチャブル

 今井の方から吉野に「総理の報ステ出演はどうだ?」などと持ち掛け、意を汲んだ吉野が報ステと交渉することもあるという。その姿は〝官邸の走狗〟そのものだ。さらに、報ステスタッフ作成の政権関連原稿は吉野がチェックすることになっているのだが、官邸クラブ関係者によると、なぜか、その内容が官邸側に漏れているとの疑念まで燻っているという。

 とはいえ、今井が吉野に特ダネを提供するわけではない。前出の政治部デスクが解説する。

「メディアとしての〝格〟を重視する今井秘書官は、テレ朝に特ダネを与えるような真似はしないが、吉野が他社の特ダネを後追いする際は、優先的に裏取りさせています。自民党政権から相手にされない時代が長かったテレ朝政治部にとっては、自力でスムーズに後追いできること自体、画期的。今井秘書官に利用されているのが見え見えとはいえ、吉野を替えようにも替えられないようです」

 こうした吉野の傍若無人ぶりを如実に示す出来事が、17年4月に報じられている。『週刊ポスト』によると、今井番だった吉野は同年1月、今井の不興を買っている朝日新聞記者を大手紙記者とともに呼び出し、「君が(夜回り取材に)来ると今井さんが対応してくれないから、もう来ないでくれる? その代わり(今井氏とのやり取りを記した)メモは回すからさ」などと要請したという。

 そしてその後、件の朝日の記者は今井番を外れた。記事中では「テレビ局の番記者」と名前が伏せられたが、事態を把握したテレ朝のコンプライアンス関連部署は吉野を注意。それでも政治部が吉野を官邸クラブから外すことはなく、逆にキャップに昇格させた。

 また昨年10月半ば、内閣府特命担当大臣の片山の国税庁への口利き疑惑を『週刊文春』が報じた際、報道番組から片山の直撃取材を依頼された吉野は「片山番は担当になったばかりで、朝から追い掛け回すと信頼関係を築けない」として当初はこれを拒否。テレ朝1社だけ直撃映像が存在しない「特落ち」になりかけたが、安倍政権に対する吉野の忖度を叱責する声は上がらなかった。ちなみに、この片山番は前述した元局アナの村上。吉野は彼女に対しても、何かしら忖度する理由があったのか。

 さらに読売新聞が昨年10月14日、「安倍首相が19年10月の消費税率引き上げを予定通り実施する方針を固め、15日の臨時閣議で表明して増税の影響を和らげる対策の検討を指示する」と報じた際も、吉野は「引き上げは既定路線」と後追いを拒否した。他社は揃って後追いしたが、テレ朝関係者によると、この時も吉野が叱責されることはなかったという。

 17年5月24日に行われた安倍とテレ朝会長兼CEO(最高経営責任者)の早河洋との会食にも、吉野は取締役報道局長(当時)の篠塚浩や政治部長の伊井忠義とともに陪席した。前出のテレ朝関係者は「政治部だけでなく報道局全体のアンタッチャブル的な存在となった吉野は、政治部デスクを『紙屑さん』と公言して憚らない。増長の極み」と嘆息する。

菅ファミリーの記者も存在

 そしてテレ朝政治部にはもう一人、安倍政権の〝走狗〟が存在する。吉野と同期の03年入社で、昨年7月から平河クラブキャップを務める小西弘哲。13年7月に官邸クラブの菅番を終えたあと、ワイドショー『モーニングバード』(現・羽鳥慎一モーニングショー)のスタッフ時代に娶った姉さん女房は何と、菅の横浜市議時代(87~96年)から付き従ってきた最側近の私設秘書だった。番記者の小西が菅事務所に出入りしているうちに関係を深めたという。

 自民党所属の元大阪府議を父に持つ小西は、兵庫県の灘校を卒業して同志社大経済学部に進学。お笑い番組の制作を志してテレ朝に入社すると、バラエティ番組担当の編成制作局制作1部に配属されたが、07年7月に報道局社会部に異動、司法記者クラブや横浜支局に所属した。11年7月から2年間は政治部で野党クラブや官邸クラブを担当、4年間のワイドショーのスタッフのあと、17年7月に政治部に復帰した。小西を知る他の民放キー局の政治部記者が語る。

「お調子者で大の競馬好きですが、菅長官は優等生タイプの記者を好まず、何より安倍政権が取り込みを目論むテレ朝政治部の記者。長年付き従ってくれた女性秘書が結婚を望めば、止める理由はありません。『小西の前で安倍政権批判はタブー。たちどころに菅長官に伝わる』というのが、昨今の政治部記者の常識です」

 安倍と今井の後ろ盾を持つ吉野と、ポスト安倍の有力候補に躍り出た菅と家族同然の付き合いをする小西。部長の伊井さえ、もはや2人には何も言えない。舵取りを失ったテレ朝政治部は、小西の部下へのパワハラも相俟って危機的状況にあるという。安倍政権のテレ朝対策は、当初の期待を上回る成果を挙げたようだ。

 なおテレ朝は、報道番組の内容の官邸への漏出などは事実無根で、不適切な取材はしていない旨回答した。(敬称略。年齢等の表記は発売当時のまま)

190912tvasahi_shincho_suga.JPG令和おじさんの脇で仁王立ちの小西記者
(「週刊新潮」19年4月25日号記事より)

菅、今井の両氏が共に影響力を盤石にした安倍政権の内閣改造に、最も安堵しているのは、彼ら政治部記者たちなのだろう。永田町劇場の舞台裏をどれだけの国民が知っているのだろうか。

なお、テレ朝側は上記レポート掲載の「ZAITEN」19年6月号発売後に、従業員に対する名誉棄損および侮辱行為とした上で、官邸側に情報が漏れていることはない、特定の個人・団体の意向によって報道が左右されている事実は一切ないなどといった内容の「警告書」を小誌編集部に寄せている。
加えて蛇足ながら、テレビ朝日は報ステ番組サイト内で「週刊誌報道等について」と題した声明を出している。しかし、一般には気づき難いと思われるので、以下にサイトURLを告知させて頂く。

https://www.tv-asahi.co.jp/hst/contents/info/0007/index.html