【記事無料公開】ワタミ渡辺美樹「会長復帰」に異議あり

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かつて「ブラック経営者」の称号を欲しいままにしたワタミ創業者の渡辺美樹氏。2019年10月7日に会見を開き、再びワタミ会長に復帰した。しかし、参議院議員生活6年間で歳費を貪り食った無責任男の現場復帰は会社経営に暗い影を落とす――。2020年3月号で掲載した《ワタミ渡辺美樹「会長復帰」に異議あり》を無料公開します。

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 居酒屋チェーン「ワタミ」創業者の渡辺美樹が参議院議員選挙に出馬し、自民党議員となったのは2013年7月。その後、『週刊東洋経済』(2015年11月28日号)インタビューでは「ワタミに戻ることは1000%ない」と公言していたはずだが、人の言葉とはかくも軽いものか。

 昨年、渡辺は「残念ながらこの6年間、公約した財政再建や原発ゼロについて何一つ力を発揮することができなかった」「政治家としての自分への評価は0点」などと総括して政界を引退し、同10月1日にはワタミの代表取締役会長兼CEO(最高経営責任者)に就任、経営トップの座に舞い戻った。

 かつて「ブラック企業」との批判を浴びて主力である外食部門の売上が不振に陥ったワタミは、14年3月期の決算で上場以来初となる49億円の赤字を計上。翌15年3月期も128億円の赤字で債務超過寸前となり、当時グループの稼ぎ頭だった介護部門売却を強いられる創業以来最大の経営危機に直面した。

 その後、16年頃から、「和民」や「わたみん家」といった既存店舗を「ミライザカ」「三代目鳥メロ」など別ブランドに衣替えする〝ワタミ隠し〟を徹底。さらにかつては一貫して存在価値を否定してきた労働組合が社内に発足するなど、体質是正のための一定の取り組みを行ったことで、19年3月期の決算では営業利益が前年同期比6割増の10億円となるなど、ようやく回復基調に乗り始めていた。

 そうした努力により払拭されつつあった負のイメージが「再燃するのでは」との懸念が渡辺の会長復帰発表以来、SNSなどで渦巻いている。昨年10月7日に東京都内で開かれた復帰会見でも、案の定記者からそうした質問が上がったが、これに渡辺は「反省すべきところは反省する。これからのことを見て欲しい。今までのことは一切振り返らない」と断言した。

ブラック批判は過労自殺から

 広辞苑で「反省」は、〈自分の行いをかえりみること。自分の過去の行為について考察し、批判的な評価を加えること〉とある。「今までのことは一切振り返らない」と言い切る人間が何をどう反省するのか甚だ疑問だが、渡辺がこの復帰会見とほぼ同時に刊行した『警鐘』なる著書を読むと、その疑念はますます強まる。

「国会議員としての卒論」と称し、政府の財政危機を憂いてみせる同書の第3章で、渡辺はワタミの経営危機を次のように語っている。

〈こうした危機はわたしが議員になったあとに起こりました。会長の職を辞して経営から退いたのはワタミがすでに確かな成長路線に乗っていたからです。実際にわたしが参議院議員になった2013年は過去最高益を記録したほど業績が好調でした。ところが、当選と時を同じくして、ワタミに対する「ブラック企業」批判が巻き起こったのです〉

 まるで自分が会長にいる間は何も問題はなく、退任後にあらゆる問題が噴出したかのような筆致だが、事実は全く異なる。そもそもワタミに対する「ブラック企業」批判は、同社の女子社員が過労自殺した08年の事件に関して、神奈川労働者災害補償保険審査官が労災適用を決定し、これに渡辺がツイッターで反論して炎上した12年2月に始まった。この時、渡辺は当然まだワタミ会長だった。

 これを口火に、「たとえ無理なことだろうと、鼻血を出そうがブッ倒れようが、無理矢理にでも一週間やらせれば、それは無理じゃなくなる」「(部下を叱る際には)ビルの8階とか9階とかで会議をしている時、『いますぐ、ここから飛び降りろ!』と平気で言います」といった過去の発言が判明。

 さらに渡辺が参院選出馬を表明して以降、『週刊文春』が〈自民党参院候補 ワタミ渡辺美樹会長は〝Mr.ブラック企業〟これだけの根拠〉と題する記事を皮切りにワタミ糾弾キャンペーンを6週連続で展開するに至ったのである。

 渡辺は自分が会長だった13年3月期の決算を根拠に、経営危機は自分が議員になった後に起きたとしらばっくれるが、「ワタミ批判」とは、即ち渡辺個人への批判とほぼ同義であり、14年3月期決算での赤字転落も、世間が渡辺個人に浴びせた鉄槌に他ならない。渡辺が会長を辞任した13年6月末時点のワタミは、〈確かな成長路線に乗っていた〉どころか、トップ自身の手で破滅させられかけていたのだ。

いまだ過労死への謝罪なし

 第三者から見れば明白な経緯がありながら、渡辺はあくまで元部下への責任転嫁に余念がない。

〈2014年に業績が悪化したとき、自分が選んで任せた桑原豊社長を代えるかどうか悩みに悩みました。なんとか事業承継を成功させようと思い、必死になって桑原社長を支えてきたからです。しかし、事業承継なんて考えていたら、会社がつぶれてしまいかねませんでした〉(前出『警鐘』)

 このグロテスクな言い草には既視感がある。渡辺は参院選出馬表明後の13年8月2日の朝日新聞のインタビューで過労死について問われ、〈なぜ(自殺した社員を)採用したのか。なぜ入社1カ月の研修中に適性、不適性を見極められなかったのか。なぜ寄り添えなかったのか。本当に命がけの反省をしている〉と、一見反省するかのような態度を示しつつ、被害者を侮辱したのだ。そもそも渡辺は「批判を浴びたこと」への反省はたびたび述べる一方、過労死させた従業員やその遺族への謝罪の言葉は著書には一言もない。要するにこの男は、自分が悪かったとは思っていないし、自らの傲慢さがワタミを潰しかけたという事実をいまだに認められずにいるのだ。

 渡辺はかつて、自らが理事長を務める郁文館夢学園において教員への成果報酬を導入し、「いじめが起きたクラスの担任教師は給与を下げる」(『SAPIO』12年8月22・29日合併号)などと述べ、実際に生徒からの評価の低い教員の給与を下げている。この成果主義原則に従うなら、参院議員としての任期で「政治家として0点」を自認する渡辺は、6年間で受け取った議員歳費を返納すべきだ。

 また、自らの言葉に責任を持つ気が少しでもあるのなら、今からでも会長兼CEOを退くのが最低限の良心であろう。また、ワタミに対し、いくつかの質問を送ったが、同社広報は「取材はお受けしません」と回答した。(敬称略、肩書等は掲載当時のまま)

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