テレビ朝日・報道ステーション「参院選報道お蔵入り」の深層

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「残念。極めて重く受け止めている」――。テレビ朝日の早河洋会長兼CEO(最高経営責任者)は9月24日の定例会見で、同局の看板報道番組「報道ステーション」のチーフプロデューサー(CP)、桐永洋氏(現在、CPは更迭。BS朝日に出向)が引き起こした"セクハラ事件"について初めて言及した。加えて、再発防止策として社内に「ハラスメント対策会議」を設置、早河会長直々に議長に就任したという。

とはいえ、これまで週刊誌の取材に対し、自宅でゴルフの素振り中のところを直撃されても無視(週刊新潮9月12日号)、自宅にベタ付けした社用車に乗り込むところを記者に直撃されても黙殺(写真週刊誌「フラッシュ」9月17日号)で、臨んできた早河会長。週刊誌等の各メディアが取材に動き始めて早1カ月が経とうかという時期になってようやく、最高実力者の肉声が発せられたということ自体に、テレ朝におけるハラスメント対策の本気度が窺い知れる。

加えて、明日10月1日発売の小誌「ZAITEN」11月号でも報じている通り、報ステスタッフをはじめ、テレ朝内部でもセクハラ事件の詳細な事情説明は行われていない。早河ハラスメント対策議長がどのような施策を持ち合わせているのかは知る由もないが、少なくとも社内において"事件"に関する認識を共有することが、ハラスメント撲滅の第一歩のはずだ。

"共通認識"で言うと、今回の桐永CPによる鬼畜の如きセクハラ行為の告発を巡っては、報ステ番組内部の"権力抗争"に原因を求める背景説明が週刊文春をはじめ、一部メディアによって流布されている。曰く、「(桐永CPが進めた報ステのワイドショー化が)硬派なディレクターらと桐永氏の軋轢を深めた」(週刊文春9月12日号)。それ故、"反桐永"の女性スタッフが中心となって桐永CPのハラスメント行為を殊更に騒ぎ立て、追放を画策。そして、7月17日の報ステにおける参院選報道の"ドタキャン"騒動が、その直接的な引き金になった――という構図である。

このドタキャン騒動とは、参院選静岡選挙区において、国民民主党候補の榛葉(しんば)賀津也氏と立憲民主党の徳川家広氏の野党両党の候補者が2位での当選を巡って激戦を繰り広げる中、菅義偉官房長官が国民・榛葉氏への協力を要請していたという安倍官邸の関与を窺わせる疑惑について、7月17日の報ステは新聞のテレビ欄において〈"大物が続々応援"激しい駆け引き......静岡選挙区〉と銘打ち、報道を予告にしていたにもかかわらず、突如、桐永CPの指示でニュースがお蔵入りになってしまったことを指す。つまり、静岡選挙区の報道を取り止めた桐永CPに硬派とされるスタッフが造反した結果、セクハラ事件が炎上したと臭わせているのである。事実、週刊文春の同レポートでは......

・桐永氏は選挙特別番組「選挙ステーション」にかかりきりで、同日の報ステの内容は、後任CPとなった鈴木大介プロデューサーに任せきりだった。

・「公平な選挙報道が求められる中、全国放送の報ステが投開票直前にあえて静岡を取り上げ、しかも、官邸の関与に焦点をあてれば偏って見える」などということで、報道をお蔵入りにした。

・放送終了後の反省会で、桐永CPは「(選挙報道の基本を記した)ハンドブックを読み、選挙報道の勉強会にも出てれば、こんな原稿を書けるわけない。こんな放送をしていたら間違いなく訴えらえる。BPO(放送倫理・番組向上機構)案件になったら番組が終わるんだよ。僕はこの番組の責任者として、中小企業の社長のオヤジとして、みんなを路頭に迷わせるわけにはいかない」などと発言した。

文春記事は、7月頭のセクハラ告発と同月17日のドタキャン騒動は〈時系列が矛盾する〉と指摘するものの、これら桐永CPを擁護するかのようなテレ朝幹部の発言やエピソードについては、まさに笑止千万なフェイクニュース。他方、小誌は文春に先立つ9月1日発売の10月号において同騒動の詳細を取り上げている。まずは、当該レポート《テレビ朝日・報ステCP「官邸忖度」の咆哮》(ジャーナリスト・濱田博和氏寄稿)を無料公開したので、お読み頂きたい。これがドタキャン騒動の真実である。

なお、下記URLの通り、小誌ブログではテレ朝関連記事を無料公開しています。こちらもぜひともご覧ください。

・【9月4日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(1)

・【9月5日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(2)

・【9月7日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(3)

・【9月9日公開】
テレビ朝日「報ステ」セクハラに沈黙する早河会長

・【9月12日公開】
テレビ朝日・政治記者の知られざる実像

20190717hstation_kirinaga.jpg7月17日の「報ステ」のテレビ欄と桐永洋氏(写真はマイナビニュースサイトより)
(19年10月号掲載写真より)


 この民放局を報道機関と見做すのは、もはや悪い冗談なのかも知れない。ほんの数年前まで「権力に物申すテレビ局」と期待されていたテレビ朝日のことだ。小誌は今年6月号で、安倍晋三・自民党政権の走狗と化した同社報道局政治部の実情を伝えたが、今回は看板報道番組『報道ステーション』で7月17日に起きた、安倍官邸に対する〝忖度劇〟など、報道機関にあるまじきその実態を報告する。

 報ステの忖度劇の主役は、テレ朝の〝ドン〟と称される会長兼CEO(最高経営責任者)の早河洋(75)から直々に抜擢された同番組チーフプロデューサー(CP)の桐永洋(49)。硬派だった報ステのワイドショー化を恥ずかしげもなく進めてきたA級戦犯だ。

 事の発端は、時事通信が参院選投票日10日前の7月11日午後に配信した「立憲が国民に『刺客』=官邸参戦で対立激化−静岡」と題する、参院選静岡選挙区の情勢分析記事だった。

静岡選挙区に安倍官邸が介入

 改選数2の「2人区」の中で唯一、立憲民主党と国民民主党が競合する形となった同選挙区は、立憲候補の徳川家広が国民現職で同党参院幹事長の榛葉賀津也の追い落としを図る格好に。榛葉はかねてから自民党参院幹部と親交が深く、「ほぼ自民」と目されていたが、時事通信によると、今回の選挙では何と、安倍官邸が苦戦する榛葉のテコ入れに動いていた。

 その裏付けとして時事通信は、(1)安倍が6月、自民党静岡県連関係者に「立憲民主が当選したら困るよね」と問い掛けた事実、(2)榛葉と親しい官房長官の菅義偉が、企業や公明党の支持母体・創価学会に榛葉支持を働き掛けたとする複数の証言、(3)菅の動きを察知した徳川陣営関係者が「公明が怪しい動きをしている」と警戒を強めている事実――などの取材結果を挙げた上で、こう結論付けた。

「(憲法改正に拘る)安倍は、参院選後も自公や日本維新の会などの改憲勢力で発議に必要な3分の2を維持することが難しいと認めている。このため新たな改憲勢力を求めており、榛葉は格好のターゲットと映っているとみられる」

 するとその2日後の13日、地元の静岡新聞が朝刊1面トップで「野党激突に『不思議』な動き、官邸介入か」と報じる。自民党を支援してきた自動車大手、スズキ会長の鈴木修が疎遠のはずの榛葉支援を表明したことや、他の県内企業や団体の一部も榛葉の支援に回ったことを報道。「首相官邸からの依頼だ」との自民党関係者の証言を引いて、「榛葉に恩を売って改憲への協力を得る狙い」と言明した。

 さらにその2日後の15日、今度はテレ朝系列の静岡朝日テレビ(SATV)が夕方の報道番組『とびっきり!しずおか』で、「〝官邸参戦?〟静岡に異変」と銘打った約9分間のVTRを放送。榛葉支援を表明する鈴木の映像や、菅が関係者に電話で「榛葉氏を落とすわけにいかない。助けてやって欲しい」と直接要請してきたことなど、官邸介入の事実を強く窺わせた。ただ、榛葉本人が支援要請自体を否定する映像や、国民の前原誠司が「自民党が(榛葉に)手を差し伸べることはありえない」と話す映像も差し込み、バランスに配慮した完成度の高い構成になっていた。

 静岡選挙区を巡るこうした一連の報道、中でもSATVのVTRに飛びついたのが、キー局の報ステのデスクで政治部出身の梶川幸司だ。21日の投開票日夜の『選挙ステーション2019』のプロデューサーを兼任し系列局の選挙報道を閲覧できる立場の梶川は、このVTRを「このまま報ステで使える」と判断。映像素材と構成原稿をSATVから取り寄せることにし、CPの桐永の了解を得た。

 さらに梶川らは一連の報道について、政治部の官邸担当記者が翌16日午前の定例会見で菅に真偽を直接尋ねるよう、政治部デスクに要請した。官邸からのクレームに備えての発想だ。会見で「静岡選挙区で、選挙後の協力を見据えて、官邸が国民の榛葉候補への支援を行うよう、各所に要請しているという地元報道があるが」と尋ねられた菅は、「そうした事実関係はありません」と素っ気なく答え、次の質問に移ったという。

 SATVの取材が行き届いていたこともあり、菅のコメントを確認した梶川らは、翌17日の特集枠でこのネタを放送できると判断、番組に関する決定権を握る桐永の了承を得た。特集枠の担当ディレクターも16日中に決定。同日夜には17日付朝刊のラジオ・テレビ番組欄に載せる、この特集の見出しが決まった。「〝大物が続々応援〟激しい駆け引き...静岡選挙区」。これも桐永の了承済みであることは言を俟たない。

こんなの放送できるわけない!

 さて、放送当日の17日。担当ディレクターは、SATVから伝送された映像素材や前日の菅の会見映像、それにSATVの構成原稿をベースに、報ステで放送するVTRの構成原稿を執筆した。VTRの尺(長さ)は約6分だった。

 報ステでは毎日午後3時と5時、その日の放送内容に関するミーティングが行われる。前者では桐永と梶川ら番組デスク、後者ではこれに各ニュースの担当ディレクターとMCの徳永有美、富川悠太が加わり、各ニュースの取り上げ方や演出方法などについて打ち合わせる。複数の報ステ関係者は「この席で、参院選静岡選挙区の特集の内容修正を求めるような意見は特に出なかった」と口を揃える。

 ところが午後7時ごろ、状況が一変する。約3時間後の放送を前に、30人前後のスタッフが忙しく準備を進めている本社4階のニュースルーム。そこに血相を変えて駆け込んで来た桐永が、特集を担当したディレクターを名指しして「こんなの、放送できるわけがないだろ!」と怒鳴り散らしたのだ。報ステ関係者が内幕を語る。

「報ステをはじめ番組のディレクターが執筆したニュース原稿は、政治部や社会部など出稿部の担当記者が内容をチェックする決まりです。静岡選挙区の構成原稿は首相官邸が絡む話なので、政治部の官邸記者クラブの吉野(真太郎)キャップが確認しますが、何しろ安倍官邸ベッタリで有名ですから、あの時間帯なら、原稿内容について否定的な意見を付けてきても不思議はありません」

 その1時間後の午後8時すぎ、ニュースルームに「選挙のVを飛ばします」とのアナウンスが流れ、特集VTRは幻となった。別の報ステ関係者が明かす。

「コメンテーターの後藤謙次氏が、8時からのデスクとの打ち合わせの際に『この件では官邸が大変ナーバスになっている』と話したというのです。『放送はやめるべきだ』との意図はなかったと思いますが、元共同通信社編集局長で敏腕政治記者である後藤氏の情報なので、官邸の機嫌を損ねる報道は差し控えることが最重要課題の桐永CPはビビッて、お得意の忖度を働かせた。報ステからの依頼で送った、完成度の高いVTRを反故にされたSATVの担当ディレクターは、放送取り止めに激怒したそうです」

 約6分の特集VTRを飛ばした穴は結局、用意していた別のVTRの放送や、スタジオ演出の時間を少しずつ伸ばすことで対応。ラテ欄に掲載した予告内容を番組側の都合で変更したため、番組の最後に「番組の内容を一部変更しました」とのテロップが流された。

私は正しいことをしている!

 番組終了後のスタッフルームで開かれた恒例の反省会で、桐永は「何でこんなネタを持ってくるんだ! こんなの放送していたらBPO(放送倫理・番組向上機構)案件だ! 担当ディレクターは猛省してもらいたい」などと一人荒れ狂った。その言い草に呆れ果てたというスタッフの一人が話す。

「梶川デスクの提案を承認したのも、ラテ欄の文章を決めたのも、放送当日の2度にわたる打ち合わせで何ら疑義を挟まなかったのも、すべて桐永CP自身。そもそも担当ディレクターはネタを振られただけで、この特集の発案者でもない。それにこのネタがなぜBPO案件になるのか? 菅長官のコメントはあるし、SATVの取材も周到に尽くされている。猛省すべきなのは、土壇場で保身に転じた桐永CP自身のはずです」

 ちなみに反省会で桐永は、このニュースを放送するよう提案した梶川を咎めることはなく、一方、桐永に晒し物にされた担当ディレクターを梶川が庇うこともなかった。担当は制作会社から派遣された中堅の有能な女性で、桐永らの態度はテレビ局に典型的な「下請けいじめ」以外の何物でもない。

 また同じ7月17日の報ステでは、NHKが放送直前に報じた「ジャニーズ事務所が元SMAPメンバーの3人を出演させないよう民放局に圧力をかけていた疑いがあるとして、公正取引委員会が同事務所に注意した」との特ダネを、意図的に後追いしなかった。

「視聴率万年4位の時代が長かったテレ朝には、ジャニーズのタレントに出演してもらえなかった苦い過去があり、そのネガティブ情報を伝えることに関しては、他の民放局よりもはるかに臆病です。この日もNHKが報じたあと、報道局の記者が迅速に裏を取り、原稿を書き終えていたにもかかわらず、総合編成局から『後追いの必要なし』との指示が出され、桐永CPは何ら抵抗することなくこれに従いました」(テレ朝関係者)

 これらの〝事件〟から5日後の22日、報道フロアの幹部席で報道番組センター長の佐々木毅と言い争う桐永の姿があった。桐永は「私は正しいことをしているだけだ!」と声を荒げていたが、テレ朝の報道姿勢を貶めた張本人はいったい何を主張していたのか。

 こうした報ステの報道姿勢について、テレ朝広報部は「特に(小誌の取材に対し)お答えすることはない」と回答した。報ステCP就任から1年が過ぎ、桐永の「忖度病」はいよいよ病膏肓に入ったようだ。(敬称略。年齢等の表記は発売当時のまま)

なお、小誌の取材では、桐永氏が「選挙ステーション」にかかりきりになっていた事実がなかったことはおろか、参院選報道の取り止めについて「中小企業の社長のオヤジとして、みんなを路頭に迷わせるわけにはいかない」など、桐永氏が"浪花節"の発言をしたなどという美談調のエピソードも一切なかったことが確認できた。

少し調べれば簡単にバレてしまう嘘を臆面もなく口にできるという、桐永氏の早稲田大学雄弁会仕込みのセルフプロデュース能力については、小誌がこれまで言及してきた通りである。ハラスメント撲滅を掲げるテレ朝にまずもって求められるのは、正しい情報と認識の共有である。"笛吹き男"に騙されてはならない。