「ゴルフ」と一致するもの

テレビ朝日・報道ステーション「参院選報道お蔵入り」の深層

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「残念。極めて重く受け止めている」――。テレビ朝日の早河洋会長兼CEO(最高経営責任者)は9月24日の定例会見で、同局の看板報道番組「報道ステーション」のチーフプロデューサー(CP)、桐永洋氏(現在、CPは更迭。BS朝日に出向)が引き起こした"セクハラ事件"について初めて言及した。加えて、再発防止策として社内に「ハラスメント対策会議」を設置、早河会長直々に議長に就任したという。

とはいえ、これまで週刊誌の取材に対し、自宅でゴルフの素振り中のところを直撃されても無視(週刊新潮9月12日号)、自宅にベタ付けした社用車に乗り込むところを記者に直撃されても黙殺(写真週刊誌「フラッシュ」9月17日号)で、臨んできた早河会長。週刊誌等の各メディアが取材に動き始めて早1カ月が経とうかという時期になってようやく、最高実力者の肉声が発せられたということ自体に、テレ朝におけるハラスメント対策の本気度が窺い知れる。

加えて、明日10月1日発売の小誌「ZAITEN」11月号でも報じている通り、報ステスタッフをはじめ、テレ朝内部でもセクハラ事件の詳細な事情説明は行われていない。早河ハラスメント対策議長がどのような施策を持ち合わせているのかは知る由もないが、少なくとも社内において"事件"に関する認識を共有することが、ハラスメント撲滅の第一歩のはずだ。

"共通認識"で言うと、今回の桐永CPによる鬼畜の如きセクハラ行為の告発を巡っては、報ステ番組内部の"権力抗争"に原因を求める背景説明が週刊文春をはじめ、一部メディアによって流布されている。曰く、「(桐永CPが進めた報ステのワイドショー化が)硬派なディレクターらと桐永氏の軋轢を深めた」(週刊文春9月12日号)。それ故、"反桐永"の女性スタッフが中心となって桐永CPのハラスメント行為を殊更に騒ぎ立て、追放を画策。そして、7月17日の報ステにおける参院選報道の"ドタキャン"騒動が、その直接的な引き金になった――という構図である。

このドタキャン騒動とは、参院選静岡選挙区において、国民民主党候補の榛葉(しんば)賀津也氏と立憲民主党の徳川家広氏の野党両党の候補者が2位での当選を巡って激戦を繰り広げる中、菅義偉官房長官が国民・榛葉氏への協力を要請していたという安倍官邸の関与を窺わせる疑惑について、7月17日の報ステは新聞のテレビ欄において〈"大物が続々応援"激しい駆け引き......静岡選挙区〉と銘打ち、報道を予告にしていたにもかかわらず、突如、桐永CPの指示でニュースがお蔵入りになってしまったことを指す。つまり、静岡選挙区の報道を取り止めた桐永CPに硬派とされるスタッフが造反した結果、セクハラ事件が炎上したと臭わせているのである。事実、週刊文春の同レポートでは......

・桐永氏は選挙特別番組「選挙ステーション」にかかりきりで、同日の報ステの内容は、後任CPとなった鈴木大介プロデューサーに任せきりだった。

・「公平な選挙報道が求められる中、全国放送の報ステが投開票直前にあえて静岡を取り上げ、しかも、官邸の関与に焦点をあてれば偏って見える」などということで、報道をお蔵入りにした。

・放送終了後の反省会で、桐永CPは「(選挙報道の基本を記した)ハンドブックを読み、選挙報道の勉強会にも出てれば、こんな原稿を書けるわけない。こんな放送をしていたら間違いなく訴えらえる。BPO(放送倫理・番組向上機構)案件になったら番組が終わるんだよ。僕はこの番組の責任者として、中小企業の社長のオヤジとして、みんなを路頭に迷わせるわけにはいかない」などと発言した。

文春記事は、7月頭のセクハラ告発と同月17日のドタキャン騒動は〈時系列が矛盾する〉と指摘するものの、これら桐永CPを擁護するかのようなテレ朝幹部の発言やエピソードについては、まさに笑止千万なフェイクニュース。他方、小誌は文春に先立つ9月1日発売の10月号において同騒動の詳細を取り上げている。まずは、当該レポート《テレビ朝日・報ステCP「官邸忖度」の咆哮》(ジャーナリスト・濱田博和氏寄稿)を無料公開したので、お読み頂きたい。これがドタキャン騒動の真実である。

なお、下記URLの通り、小誌ブログではテレ朝関連記事を無料公開しています。こちらもぜひともご覧ください。

・【9月4日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(1)

・【9月5日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(2)

・【9月7日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(3)

・【9月9日公開】
テレビ朝日「報ステ」セクハラに沈黙する早河会長

・【9月12日公開】
テレビ朝日・政治記者の知られざる実像

20190717hstation_kirinaga.jpg7月17日の「報ステ」のテレビ欄と桐永洋氏(写真はマイナビニュースサイトより)
(19年10月号掲載写真より)


 この民放局を報道機関と見做すのは、もはや悪い冗談なのかも知れない。ほんの数年前まで「権力に物申すテレビ局」と期待されていたテレビ朝日のことだ。小誌は今年6月号で、安倍晋三・自民党政権の走狗と化した同社報道局政治部の実情を伝えたが、今回は看板報道番組『報道ステーション』で7月17日に起きた、安倍官邸に対する〝忖度劇〟など、報道機関にあるまじきその実態を報告する。

 報ステの忖度劇の主役は、テレ朝の〝ドン〟と称される会長兼CEO(最高経営責任者)の早河洋(75)から直々に抜擢された同番組チーフプロデューサー(CP)の桐永洋(49)。硬派だった報ステのワイドショー化を恥ずかしげもなく進めてきたA級戦犯だ。

 事の発端は、時事通信が参院選投票日10日前の7月11日午後に配信した「立憲が国民に『刺客』=官邸参戦で対立激化−静岡」と題する、参院選静岡選挙区の情勢分析記事だった。

静岡選挙区に安倍官邸が介入

 改選数2の「2人区」の中で唯一、立憲民主党と国民民主党が競合する形となった同選挙区は、立憲候補の徳川家広が国民現職で同党参院幹事長の榛葉賀津也の追い落としを図る格好に。榛葉はかねてから自民党参院幹部と親交が深く、「ほぼ自民」と目されていたが、時事通信によると、今回の選挙では何と、安倍官邸が苦戦する榛葉のテコ入れに動いていた。

 その裏付けとして時事通信は、(1)安倍が6月、自民党静岡県連関係者に「立憲民主が当選したら困るよね」と問い掛けた事実、(2)榛葉と親しい官房長官の菅義偉が、企業や公明党の支持母体・創価学会に榛葉支持を働き掛けたとする複数の証言、(3)菅の動きを察知した徳川陣営関係者が「公明が怪しい動きをしている」と警戒を強めている事実――などの取材結果を挙げた上で、こう結論付けた。

「(憲法改正に拘る)安倍は、参院選後も自公や日本維新の会などの改憲勢力で発議に必要な3分の2を維持することが難しいと認めている。このため新たな改憲勢力を求めており、榛葉は格好のターゲットと映っているとみられる」

 するとその2日後の13日、地元の静岡新聞が朝刊1面トップで「野党激突に『不思議』な動き、官邸介入か」と報じる。自民党を支援してきた自動車大手、スズキ会長の鈴木修が疎遠のはずの榛葉支援を表明したことや、他の県内企業や団体の一部も榛葉の支援に回ったことを報道。「首相官邸からの依頼だ」との自民党関係者の証言を引いて、「榛葉に恩を売って改憲への協力を得る狙い」と言明した。

 さらにその2日後の15日、今度はテレ朝系列の静岡朝日テレビ(SATV)が夕方の報道番組『とびっきり!しずおか』で、「〝官邸参戦?〟静岡に異変」と銘打った約9分間のVTRを放送。榛葉支援を表明する鈴木の映像や、菅が関係者に電話で「榛葉氏を落とすわけにいかない。助けてやって欲しい」と直接要請してきたことなど、官邸介入の事実を強く窺わせた。ただ、榛葉本人が支援要請自体を否定する映像や、国民の前原誠司が「自民党が(榛葉に)手を差し伸べることはありえない」と話す映像も差し込み、バランスに配慮した完成度の高い構成になっていた。

 静岡選挙区を巡るこうした一連の報道、中でもSATVのVTRに飛びついたのが、キー局の報ステのデスクで政治部出身の梶川幸司だ。21日の投開票日夜の『選挙ステーション2019』のプロデューサーを兼任し系列局の選挙報道を閲覧できる立場の梶川は、このVTRを「このまま報ステで使える」と判断。映像素材と構成原稿をSATVから取り寄せることにし、CPの桐永の了解を得た。

 さらに梶川らは一連の報道について、政治部の官邸担当記者が翌16日午前の定例会見で菅に真偽を直接尋ねるよう、政治部デスクに要請した。官邸からのクレームに備えての発想だ。会見で「静岡選挙区で、選挙後の協力を見据えて、官邸が国民の榛葉候補への支援を行うよう、各所に要請しているという地元報道があるが」と尋ねられた菅は、「そうした事実関係はありません」と素っ気なく答え、次の質問に移ったという。

 SATVの取材が行き届いていたこともあり、菅のコメントを確認した梶川らは、翌17日の特集枠でこのネタを放送できると判断、番組に関する決定権を握る桐永の了承を得た。特集枠の担当ディレクターも16日中に決定。同日夜には17日付朝刊のラジオ・テレビ番組欄に載せる、この特集の見出しが決まった。「〝大物が続々応援〟激しい駆け引き...静岡選挙区」。これも桐永の了承済みであることは言を俟たない。

こんなの放送できるわけない!

 さて、放送当日の17日。担当ディレクターは、SATVから伝送された映像素材や前日の菅の会見映像、それにSATVの構成原稿をベースに、報ステで放送するVTRの構成原稿を執筆した。VTRの尺(長さ)は約6分だった。

 報ステでは毎日午後3時と5時、その日の放送内容に関するミーティングが行われる。前者では桐永と梶川ら番組デスク、後者ではこれに各ニュースの担当ディレクターとMCの徳永有美、富川悠太が加わり、各ニュースの取り上げ方や演出方法などについて打ち合わせる。複数の報ステ関係者は「この席で、参院選静岡選挙区の特集の内容修正を求めるような意見は特に出なかった」と口を揃える。

 ところが午後7時ごろ、状況が一変する。約3時間後の放送を前に、30人前後のスタッフが忙しく準備を進めている本社4階のニュースルーム。そこに血相を変えて駆け込んで来た桐永が、特集を担当したディレクターを名指しして「こんなの、放送できるわけがないだろ!」と怒鳴り散らしたのだ。報ステ関係者が内幕を語る。

「報ステをはじめ番組のディレクターが執筆したニュース原稿は、政治部や社会部など出稿部の担当記者が内容をチェックする決まりです。静岡選挙区の構成原稿は首相官邸が絡む話なので、政治部の官邸記者クラブの吉野(真太郎)キャップが確認しますが、何しろ安倍官邸ベッタリで有名ですから、あの時間帯なら、原稿内容について否定的な意見を付けてきても不思議はありません」

 その1時間後の午後8時すぎ、ニュースルームに「選挙のVを飛ばします」とのアナウンスが流れ、特集VTRは幻となった。別の報ステ関係者が明かす。

「コメンテーターの後藤謙次氏が、8時からのデスクとの打ち合わせの際に『この件では官邸が大変ナーバスになっている』と話したというのです。『放送はやめるべきだ』との意図はなかったと思いますが、元共同通信社編集局長で敏腕政治記者である後藤氏の情報なので、官邸の機嫌を損ねる報道は差し控えることが最重要課題の桐永CPはビビッて、お得意の忖度を働かせた。報ステからの依頼で送った、完成度の高いVTRを反故にされたSATVの担当ディレクターは、放送取り止めに激怒したそうです」

 約6分の特集VTRを飛ばした穴は結局、用意していた別のVTRの放送や、スタジオ演出の時間を少しずつ伸ばすことで対応。ラテ欄に掲載した予告内容を番組側の都合で変更したため、番組の最後に「番組の内容を一部変更しました」とのテロップが流された。

私は正しいことをしている!

 番組終了後のスタッフルームで開かれた恒例の反省会で、桐永は「何でこんなネタを持ってくるんだ! こんなの放送していたらBPO(放送倫理・番組向上機構)案件だ! 担当ディレクターは猛省してもらいたい」などと一人荒れ狂った。その言い草に呆れ果てたというスタッフの一人が話す。

「梶川デスクの提案を承認したのも、ラテ欄の文章を決めたのも、放送当日の2度にわたる打ち合わせで何ら疑義を挟まなかったのも、すべて桐永CP自身。そもそも担当ディレクターはネタを振られただけで、この特集の発案者でもない。それにこのネタがなぜBPO案件になるのか? 菅長官のコメントはあるし、SATVの取材も周到に尽くされている。猛省すべきなのは、土壇場で保身に転じた桐永CP自身のはずです」

 ちなみに反省会で桐永は、このニュースを放送するよう提案した梶川を咎めることはなく、一方、桐永に晒し物にされた担当ディレクターを梶川が庇うこともなかった。担当は制作会社から派遣された中堅の有能な女性で、桐永らの態度はテレビ局に典型的な「下請けいじめ」以外の何物でもない。

 また同じ7月17日の報ステでは、NHKが放送直前に報じた「ジャニーズ事務所が元SMAPメンバーの3人を出演させないよう民放局に圧力をかけていた疑いがあるとして、公正取引委員会が同事務所に注意した」との特ダネを、意図的に後追いしなかった。

「視聴率万年4位の時代が長かったテレ朝には、ジャニーズのタレントに出演してもらえなかった苦い過去があり、そのネガティブ情報を伝えることに関しては、他の民放局よりもはるかに臆病です。この日もNHKが報じたあと、報道局の記者が迅速に裏を取り、原稿を書き終えていたにもかかわらず、総合編成局から『後追いの必要なし』との指示が出され、桐永CPは何ら抵抗することなくこれに従いました」(テレ朝関係者)

 これらの〝事件〟から5日後の22日、報道フロアの幹部席で報道番組センター長の佐々木毅と言い争う桐永の姿があった。桐永は「私は正しいことをしているだけだ!」と声を荒げていたが、テレ朝の報道姿勢を貶めた張本人はいったい何を主張していたのか。

 こうした報ステの報道姿勢について、テレ朝広報部は「特に(小誌の取材に対し)お答えすることはない」と回答した。報ステCP就任から1年が過ぎ、桐永の「忖度病」はいよいよ病膏肓に入ったようだ。(敬称略。年齢等の表記は発売当時のまま)

なお、小誌の取材では、桐永氏が「選挙ステーション」にかかりきりになっていた事実がなかったことはおろか、参院選報道の取り止めについて「中小企業の社長のオヤジとして、みんなを路頭に迷わせるわけにはいかない」など、桐永氏が"浪花節"の発言をしたなどという美談調のエピソードも一切なかったことが確認できた。

少し調べれば簡単にバレてしまう嘘を臆面もなく口にできるという、桐永氏の早稲田大学雄弁会仕込みのセルフプロデュース能力については、小誌がこれまで言及してきた通りである。ハラスメント撲滅を掲げるテレ朝にまずもって求められるのは、正しい情報と認識の共有である。"笛吹き男"に騙されてはならない。

テレビ朝日「報ステ」セクハラに沈黙する早河会長

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《自宅を訪ねると、ゴルフのドライバーを手に素振り中。しかし、こちらの問いかけには一切応じることがなかったのである》――。テレビ朝日の報道番組「報道ステーション」の桐永洋チーフプロデューサー(CP、現在更迭)による女性アナウンサーへの"キス・セクハラ"問題を報じた「週刊新潮」(9月12日号)。同誌の直撃取材に"完全無視"を決め込んだのは、齢75、テレ朝の早河洋会長兼CEO(最高経営責任者)である。

本日9月10日発売の写真週刊誌「フラッシュ」でも、記者に一瞥をくれることもなく、無言のままハイヤーに乗り込む早河会長の写真が掲載されたが、そのタイトルは《恐怖の独裁》である。早河会長のテレ朝支配が"恐怖"であるかどうかは置くとして、今回の桐永CPのキス・セクハラのみならず、局の不祥事に際して、この最高実力者の肉声が伝わってくることはほとんどない。早河氏にとっては先輩格に当たる"お台場の首領"ことフジテレビの日枝久相談役が、曲がりなりにも雑誌取材に応じるのとは対照的だ。

ところが、今年2月、そんな早河氏が相好を崩すような一幕があった。テレ朝開局60周年記念式典である――。小誌「ZAITEN」は2019年5月号(同4月1日発売)で《テレ朝・早河会長「ワンマンショー」誌上中継》(ジャーナリスト・濱田博和氏寄稿)と題し、式典の一部始終を詳報。今回は同レポートを公開したい。

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・【9月4日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(1)

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テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(3)

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テレビ朝日・政治記者の知られざる実像

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式典に先立ち「テレビ朝日稲荷」を拝礼する早河会長
(テレ朝社報「tv asahi press」19年5月号より)

 さる2月4日。暦の上の春を迎えたこの日、東京・六本木ヒルズのテレビ朝日本社から程近い、同社直営のライブハウス「EXシアター六本木」に、部長級以上の社員やグループ会社幹部、さらには系列局の代表や広告代理店幹部らが集まった。業務を外れても支障のないテレ朝の一般社員までが参列を求められ、着席で最大920人を収容できる場内は熱気に包まれていた。

 2013年11月開場の同シアターは、スイッチを押すだけで座席を巻き取るロールバックチェア方式を採用し、立ち見なら1746人を収容可能。09年6月に同社初の生え抜き社長(14年6月からは会長兼CEO=最高経営責任者)に就任以来、10年の長きにわたってテレ朝グループに君臨する〝ドン〟早河洋(75)ご自慢のハイテク施設だ。早河が六本木ヒルズの本社周辺に構築を目指す「メディアシティ」の一翼を担っている。

 そのEXシアターでこの日午前11時から催されたのが、1959年2月1日に本放送を開始したテレ朝(当時は日本教育テレビ)の「開局60周年記念式典」だ。参列した若手や中堅の社員を「テレ朝はここまで個人崇拝の会社だったのか」と驚かせた「早河万歳=マンセー」式典の一部始終をダイジェストでお送りしよう。

 その前に開局60周年を迎えたテレ朝の現状をおさらいしておく。

女子アナはまるで「喜び組」

〝万年民放4位〟と揶揄された同社の視聴率は昨18年、全日帯の年間平均で7・7%の2位(ビデオリサーチ調べ・関東地区)。トップの日本テレビにわずか0・2ポイント差にまで肉薄し、3位のTBSとは1・4ポイント、4位のフジテレビとは2・0ポイントもの大差をつけている。また、同年10月クール(10~12月)の全日帯は7・8%と、5年半ぶりに日テレから1位を奪取した。

 この好調ぶりを支えるのが、プライム帯(19~23時)放送のドラマ群だ。10月期の連ドラで全局1位の『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』(10月クール平均15・8%)、2位の『相棒season17』(同15・5%)が大きく貢献、長寿ミステリー『科捜研の女』(同12・5%)も健闘している。

 だが肝心の業績は低迷が続く。減収減益を記録した19年3月期第3四半期(18年4~12月)は売上高、営業利益とも4位のまま。トップの日テレとは売上高で約902億円、営業利益で約234億円の大差をつけられ、視聴率の絶好調ぶりが業績に反映されない体質は一向に改善が進まない。

 とは言え、やはり視聴率ですべてが決まるのがテレビ局というものだ。あるテレ朝幹部は「万年4位の指定席を脱して、トップに肉薄する2位にまで押し上げた早河会長は昨今、卓越した経営者を自任するようになり、角南源五社長(62)ら側近のすり寄りぶりも一段と露骨になっている。開局60周年記念式典で早河会長を〝神格化〟する演出は、それを端的に物語っている」と話す。

 では、EXシアターの式典会場に戻ろう。シアター内の広いステージ上には客席から向かって上手前方に演台が据えられ、その壇上を丈の低いカラフルな花が覆う。演台後方にもピンク中心の豪華な花。ステージ後方の壁には巨大な横長のスクリーンが投影され、その両脇のブルー地に「60」の文字が浮かび上がる。

 司会進行役は視聴率好調の早朝の情報番組『グッド!モーニング』でMCを務める坪井直樹と松尾由美子。ともに早河お気入りのベテラン局アナウンサーだ。

 式典のメインイベントとなる早河の「開局60周年記念講演」に先立ち、ポップな衣装で統一した同局の若手女子アナたちが登場。テレ朝の社歌など複数の楽曲を歌いながら、軽快なダンスを披露した。これを見た参列者の一部からは「何だか北朝鮮の『喜び組』みたいだ」と失笑が漏れた。

 続いてステージ後方の巨大スクリーンに映し出されたのは、テレ朝60年の歴史を回顧するVTRだ。その中では『相棒』の水谷豊、『リーガルV』の米倉涼子、『科捜研の女』の沢口靖子、『TVタックル』のビートたけしなど、テレ朝の主要番組の主役を務める芸能人が次々と登場して祝辞を述べていく。

「早河会長、60周年おめでとうございます。今日の私があるのも、早河会長のお陰です」――。つまり、彼らが一様に賛美したのはテレ朝という会社ではなく、今も番組の主要出演者に関する最終決定権を握り続ける早河個人だったのだ。これを見てドン引きしたという若手社員が嘆く。

「いくら会長とはいえ、一個人をそこまで神格化して見せるのは、普通の会社でも異常。『これほど個人崇拝の会社だったとは......。この会社にいても大丈夫なのか』と、先行きが不安になりました」

北朝鮮の最高人民会議か

 さて、いよいよ式典のメインイベント、早河の講話が始まる。仕立ての良いスーツに白いシャツ、薄いグリーンのネクタイ姿。英国の作曲家エルガーの有名曲『威風堂々』が流れる中、スポットライトを浴びながら赤絨毯の上を颯爽と歩いて登場した早河は、テレ朝が出資する「新日本プロレスリング」のスター選手と見紛うばかりの迫力である。

 花に覆われた演台にセットされた椅子に着席し、進行役から「社員の総意として、会長の話を承ります」などと持ち上げられた早河は、A4の紙27枚に大きめの文字サイズで印刷された約1万1千字の講話を読み上げていった。テレ朝の開局式典にもかかわらず、ステージ上にいるのは早河ただ一人。完全なるワンマンショーだ。

 講話の内容は、文字やグラフとなって巨大スクリーン上に逐一投影されていく。スクリーンにはそれだけでなく、読み上げる早河の表情のアップや、長年低迷を続けた視聴率を2位にまで引き上げた「我らがヒーロー」のお話を有難く拝聴している参列者の姿まで、折に触れて映し出された。巨大なアリーナで行われるコンサートさながらの映像演出は、さすが本職のテレビ局のスタッフである。

 参列したある中堅幹部は「早河会長は北朝鮮の最高人民会議の金正恩(朝鮮労働党委員長)、もしくは中国の全国人民代表大会(全人代)の習近平(国家主席)にしか見えなかった。演出の担当者は、会長を新興宗教の教祖とでも見せかけようと考えたのかも知れません」と苦笑する。

 そして講話冒頭で早河が語った若き日の回想はいみじくも、85年10月の『ニュースステーション』(Nステ)の放送開始以来、「権力に物申すテレビ局」と認識されてきたテレ朝の現状と未来を示唆するものだった。関連個所をほぼ原文のまま引用しよう。

「私自身がテレビを志したのは大学時代に放送研究会に所属し、ドラマの脚本を勉強したのが大きなきっかけです。2年の時、初めて書いた脚本が20大学のドラマコンクールで、今で言えば橋田寿賀子さんのような大御所審査員に〝脚本はこれが一番〟と褒められ、学業成績が悪かったこともありまして、テレビを選択したわけです」「入社前にアルバイトをしていた日本テレビで、当時人気絶頂のエンターテインメント番組『シャボン玉ホリデー』を覗いたり、入社後は日本初のワイドショー『木島則夫モーニングショー』で働いたりと、若かりし頃のこの3種類の体験が後の私のテレビ人生に大きな影響を与え、番組をいろいろな角度から見られるようになり、テレビという世界の広がりや奥深さを学ぶことができた」

報道番組はワイドショーか?

 ここに早河というテレビ人の原点が凝縮されている。もともと脚本家志望だった早河はここで、自らが根っからのエンタメ志向であることを、巧まずして告白しているのである。Nステの初代局プロデューサーを務めたはずの早河が重視する報道番組の要素とは「ニュースとしての新鮮さ」や「ニュースの核心にどれだけ切り込めるか」などではなく、「表面的にいかに面白いか」に尽きている。

 換言すれば、早河にとっての報道番組とはニュースの本質をどう伝えるのかではなく、ワケ知り顔の評論家や芸能人らがニュースを材料に「ああでもない、こうでもない」と面白おかしく語り合うワイドショー路線のことなのだ。

「こんなエンタメ志向の早河会長が君臨し続けるテレ朝に、報道機関としての責任を期待したところで土台無理な話。だから昨今のテレ朝が批判を浴びている、安倍晋三・自民党政権に対するすり寄り姿勢にしても、早河会長にとって大した問題にはならないのです」(テレ朝報道局元幹部)

 早河の講話はこのあと(1)過去の悔恨を含むテレ朝の歴史、(2)自身が分析したテレビ離れの要因、(3)盟友のサイバーエージェント社長・藤田晋と協業する「AbemaTV」との緊密な連携の必要性―などとありきたりの内容に終始し、最後にこう結ばれた。
「60周年、還暦の本卦還りであり(中略)みんなで力を合わせ、新しい時代のテレビ朝日として生まれ変わりたい」

 この〝本卦還り〟が、エンタメ路線のさらなる追求を意味することは言を俟たないだろう。式典に続いて午後零時半からEXシアター2階の屋上庭園で開催された懇親パーティーでは、テレ朝社外取締役で東映グループ会長の岡田裕介の音頭で乾杯が行われたあと、ニュースでリポートする若き日の早河や角南らのVTRが流され、結婚式の披露宴さながらの盛り上がりを見せた。早河は一連の〝マンセー演出〟にすっかりご満悦だったという。(敬称略。年齢等の表記は発売当時のまま)

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記念式典で講演する早河会長の面持ち
(テレ朝社報「tv asahi press」19年5月号より)

開局60年の"本卦還り"のテレ朝を見舞ったのは、野獣の如きCPのセクハラ事件だった。そういえば、還暦は厄年でもある。

なお、テレ朝側は上記レポート掲載の「ZAITEN」19年5月号発売後に、早河会長と職員に対する人身攻撃ないしいわれなき誹謗中傷、式典での発言が事実と異なる、番組出演者のビデオメッセージは会社に向けられたもので、早河会長を賛美したものではないなどといった内容の「抗議文」を小誌編集部に寄せている。ちなみに、本編上にある早河会長の講演時の描写は、テレ朝社内で公開された映像に基づいている。

テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(1)

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明日9月5日発売の「週刊文春」および「週刊新潮」(ともに9月12日号)がそろって取り上げたテレビ朝日の報道番組「報道ステーション」のチーフプロデューサー(CP)桐永洋氏の"キスセクハラ"事件。その野獣の所業の一部始終は両誌をご覧頂きたいが、この桐永氏については、小誌も現在発売中の「ZAITEN」19年10月号(9月2日発売)で《テレビ朝日・報道ステーションCP「官邸忖度」の咆哮》と題し、7月の参院選報道で見せた"異様な忖度劇"を詳報している。しかし小誌はこれまでも複数のレポートで、昨年7月のCP就任当初から、桐永氏が、前身の「ニュースステーション」から続くテレ朝の看板報道番組の最高責任者として、およそ資質を持ち合わせていない人物であると警鐘を鳴らしてきた。

そして、ここにきて、同僚女性スタッフへのセクシャルハラスメントの語感をはるかに超えた蛮行の発覚......桐永氏が180センチを優に超える巨漢であることを考えると、被害者女性の味わった恐怖は計り知れない。

いずれにせよ、番組制作とはまったく別次元の醜聞で自滅した桐永氏だが、結果として、小誌レポート群はその末路を予言するような格好になったと言える。

そこで小誌編集部では、桐永氏の"報道人"としての資質、そして、そんな人物を抜擢した早河洋会長兼CEO(最高経営責任者)が齢75を超えてもなお君臨するテレ朝の"報道機関"としての資質を改めて問うべく、「ZAITEN」18年11月号(同年10月1日発売)で報じた《テレビ朝日"二人の洋(ヒロシ)"で「報ステ」自壊》(ジャーナリスト・濱田博和氏寄稿)レポートを以下に無料公開したい。

【編集部注】
9月5日に第2弾の記事を以下のブログにアップしました。
http://www.zaiten.co.jp/blog/2019/09/post-6.html

9月7日に第3弾の記事を以下のブログにアップしました。
http://www.zaiten.co.jp/blog/2019/09/post-7.html

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 7月12日深夜、東京・港区の六本木ヒルズにあるテレビ朝日本社5階のN会議室に、この日の放送を終えたばかりの看板番組『報道ステーション』のスタッフが集められた。着任したばかりのチーフプロデューサー(CP)、桐永洋(48)が〝所信表明〟演説を行うというのだ。局員と制作会社を合わせると総勢130人近いとされるスタッフを前に、桐永は冒頭から危機感を煽った。

「会社からは『報ステはこのままではピンチだから変えてくれ』と言われました。何がピンチか一言で言うと、視聴率の低迷です。報ステが看板番組である以上、有無を言わせぬ視聴率を取り続けるしかありません」

 確かに報ステの視聴率は桐永が指摘したように、メインキャスターが古舘伊知郎(63)から局アナの富川悠太(42)に交代した2016年4月以降、じり貧状態が続いていた。古館時代の視聴率は13~14%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)が当たり前で、16、17%台も珍しくなかった。

 だが、富川になって以降は良くて12%台、基本は1ケタ台に落ち、クール(3カ月)の平均視聴率も10%そこそこ。桐永は〝テレ朝のドン〟で会長兼CEO(最高経営責任者)の早河洋(74)から「報ステのクールの平均視聴率を11%台に上げろ」と厳命された上でCPに就任していた。

 テレビ局では、番組ごとの視聴率を1分単位で表示したグラフが各番組関係者に配布される。報ステのスタッフの間では、桐永が所信表明で視聴率推移に触れることは、ある程度予想されたことだった。だが、演説開始から7分が過ぎた頃、桐永が示した報ステの現状分析とその表現方法に、多くのスタッフが言葉を失った。

「やっている内容がちょっと小難しい。イメージで言うと偏差値70くらい。東大入れるんじゃないかという感じ。偏差値50の普通の庶民が報ステを見た時、何かすごく正しいことをやっていそうなんだが、理解できないから付いて行けない、重苦しくてチャンネル変えちゃおうとなっちゃってる」

 実際にこの演説を聞いたスタッフの一人が呆れ顔で話す。

「古館さんが去ってからの、報ステの視聴率低迷の原因は明確です。一つ目は早河会長の意向、そればかりか、菅義偉官房長官の顔色まで窺う篠塚浩・報道局長(56)の露骨な介入で、安倍晋三政権に対する批判的な報道がますます難しくなり、報ステに真っ当な政権批判を期待していた視聴者が離れていったこと。二つ目は、何の問題意識もない上にメインキャスターとして明らかに能力不足の富川アナの存在。勉強不足からくる的外れのコメントも多く、サラリーマン層が中心の視聴者から毛嫌いされています」

 別のスタッフは桐永の無神経さに嫌悪感を露わにする。

「世の中にはいろんな関心を持った、いろんな境遇の人がいる。その人たちに今起きていることを伝えるのが報ステの役割で、そのためには取材感のあるVTRを作ることが不可欠。そもそも偏差値を持ち出して表現すること自体、視聴者をバカにしている。あまりの幼稚さに愕然としました」

 さらに桐永は「我々がワクワクしてるから、富川や(サブキャスターの)小川(彩佳アナ=33)がワクワクしてる。そのワクワクが視聴者に届く」「自分の役割は整体師。皆さんの溜まった疲労というか、コリをポキポキッと動かすだけで見違えるように変わる」などと場違いな擬音語を連発、スタッフの失笑を買った。ある報ステ幹部は「桐永に嫌気が差した優秀なスタッフが辞めてしまうのではないか」と危惧する。

ロス支局長時代はゴルフ三昧

 報ステのスタッフを「無神経で幼稚」と呆れさせた新CPの桐永は1970年、広島県生まれ。中学、県立高校時代とバレーボール部に所属し、89年4月には、この年から始まった自己推薦入試制度を利用して早大社会科学部に入学した。予備校関係者が話す。

「社学部は今でこそ人気学部で、入試の偏差値も高いのですが、実は98年4月までは夜間学部で、『昼間学部は無理だが、早大卒のブランドが欲しい』という向きが入る穴場の学部でした。偏差値も他学部に比べて低く、学内では一段低く見られていた。しかも自己推薦入試なら、他学部よりかなり簡単な学力試験さえ課せられず、面接と作文で合格できる。初年度はハードルも相当低かったはずです」

 なるほど。「偏差値50の普通の庶民」などという大時代的な物言いの裏にはどうやら、桐永自身が自らの偏差値に対して抱く複雑な思いが存在するようだ。

 さて、社学部に入学した桐永はバレーボール部には入らず、政治家やマスコミ関係者を数多く輩出する早大雄弁会で活動、93年4月にテレ朝に入社した。桐永を知るテレ朝元幹部が語る。

「とにかく大変なゴルフ好き。報道局内でゴルフと言えば、真っ先に桐永の名前が挙がるほど。00年代前半にロサンゼルス支局長に赴任した際には、仕事は現地スタッフに任せて週3回はゴルフに興じていたそうです」

 ロスから帰国後、社会部で警視庁記者クラブのキャップを務めた桐永は、夕方のニュース『スーパーJチャンネル』のデスクを経て編成制作局(現・総合編成局)に異動。13年7月から15年6月までの2年間、同局編成部報道情報担当部長に就いた。この時期、桐永は自らのその後につながる番組編成上の〝策〟を施している。前出のテレ朝関係者が語る。

「午前4時55分から始まるテレ朝の情報番組の視聴率は、常に他局の後塵を拝してきた鬼門。早河会長の肝煎りで13年9月末からは『グッド!モーニング』(GM)と看板を掛け代え、MCにエース級のアナウンサーを投入したものの、視聴率は低迷が続きました。編成部の窮余の策が、『おはよう!時代劇』と銘打った時代劇の再放送枠をGMの前に設定し、未明に目覚める高齢者層を取り込むこと。名作時代劇を見せて、視聴率の〝発射台〟を嵩上げし、GM自体の視聴率も上げる。民放ではよくある小手先の手段ですが、この発案者が桐永だったのです」

 15年3月末の『おはよう!時代劇』スタートから約3カ月後の同年7月、何と発案者の桐永自身がGMのCPに就任する。編成部時代の彼の目論見はまんまと的中し、同年6月までの1年間は5時台が2・0%、6時台が4・6%、7時台が5・7%だったGMの平均視聴率は、桐永のCP任期3年目(17年7月~18年6月)には5時台で3・4%、6時台で7・1%、7時台では9・1%にまで上昇した。

 好調な視聴率が余程嬉しかったのか、桐永は前日の視聴率結果を誰彼となく自慢して歩き、社内の顰蹙を買っていたという。絵に描いたような〝自作自演〟だったが、早河の宿願を叶えた桐永は、その論功行賞として報ステCPに抜擢される。その直後に彼が行ったのが、件の所信表明だった。

「俺はアベ友じゃない!」

 その桐永のCP就任以降、報ステは安倍政権批判や重めの社会問題を取り上げる機会が激減、代わりに天気やスポーツといった軽めのニュースの比重が高まるなど、明らかに様変わりした。ネット上では「報道ステーションではなく、スポーツステーションお天気付き」などと揶揄される始末だ。

 例えば7月上旬の豪雨災害を巡る安倍出席の飲み会「赤坂自民亭」の問題。報ステは騒ぎになっても全く取り上げず、国会で追及された安倍が答弁した段階でようやく報道。同じ7月に自民党衆院議員の杉田水脈が行ったLGBTヘイト発言に対する大規模な抗議デモに関しても、取材しながら取り上げたのは1週間も後だった。

 また、一時は公開されていた桐永自身のフェイスブックには、元テレ朝アナウンサーで安倍側近として大臣にまで成り上がった丸川珠代(47)とのツーショットがアップされていたり、安倍の御用ジャーナリストで準強姦問題を報じられた山口敬之(52、元TBS政治部記者)と「友達」になっていたりしたため、桐永自身がネット上で〝アベ友〟と叩かれた。

 もちろん安倍官邸とのレポ(連絡員)役を務める報道局長の篠塚が報ステに介入してくる以上、部下の桐永がその意向に背くことは難しいのだろう。ただ、桐永の場合、アベ友とは少々事情が異なるようだ。報ステスタッフが話す。

「桐永自身はアベ友と称されることが我慢ならないようです。スタッフルームでは『何でそんなこと言われなくちゃいけないんだ。丸川とは同期だし、山口は警視庁記者クラブ時代に知り合った単なるゴルフ友達。オレは安倍が嫌いなのに、アベ友なんて書かれるのは迷惑千万。安倍批判はどんどんやって構わない!』と放言しています。それを聞いたスタッフは、またまた呆れ果ててしまうのです」

ニュース番組とは呼べない

 実は桐永CPの報ステが、安倍批判や重い社会問題をほとんど取り上げなくなった背景には、全く異なった理由が存在するという。別のスタッフが明かす。

「GMの視聴率が桐永CP時代に上向いたのは、桐永自身が編成部時代に〝発射台〟を高くしておいたことが大きいのですが、彼自身は『スタジオ演出に力を入れたから成功した』と吹聴しています。だから、時間帯や視聴者層が全く異なる報ステのCPになっても、取り上げるニュースを選ぶ基準はズバリ、スタジオ演出できるかどうか。そうでないニュースはせいぜい、短い『さまざまニュース』で済ませてしまうのです」

 事実、桐永は報ステをGM化する態勢を着々と整えている。古巣のGMで総合演出を担当していた系列制作会社のベテラン男性スタッフを報ステに異動させ、番組のスタジオ演出を一任。キャスターの顔触れが変わる10月以降、総合演出の担当者はさらに増える予定だという。GMから引き抜いたスタッフについて、桐永は「僕の考えていることをすべて実現してくれる。女性の好みまで知っている」などと軽口を叩いている。

 85年10月の『ニュースステーション』(NS)の放送開始から30年を超えたテレ朝の看板番組としては、俄かに信じ難い事態だ。

「確かに朝食や出勤の準備をしながらテレビを見ている視聴者が大半の早朝の情報番組なら、そうした手法が奏功することもあるでしょう。ところが、仕事先から帰宅して『今日の出来事をきちんと把握しておきたい』と考えるサラリーマン層が視聴者の中心を占める報ステの場合、小手先のスタジオ演出ではなく、きちんと取材したVTRでないと納得してもらえません。しかし、桐永CPになってから、スタジオ演出にやたらと人数を割いてスタッフを取材に行かせないので、VTRに取材感が全くない」(前出のスタッフ)

 スタジオ演出を極端に重要視する桐永の姿勢が、報ステの本番に悪影響を与えた具体例を一つ示そう。8月13日、月曜日。この日放送されたトピックスは(1)台風15号の動向を中心とする天気、(2)前日夜に拘留中の大阪府警富田林署から逃走した男の動向、(3)阿波おどりの運営を巡る一連の騒動――のわずか3本だった。

 特に(3)はスタジオ演出、VTR、さらには「総踊り」現場からの生中継と大展開した。その結果、安倍が前日夜の山口・下関での講演で「自民党の憲法改正案を秋の臨時国会で提出できるよう、議論を加速させたい」と発言した問題などは、短い「さまざまニュース」に落とされてしまった。前出のテレ朝元幹部は「7月以降、報ステを見ているだけでは重要な出来事が分からない。『ニュースを見たい』という需要に応えられない報ステなど、もはやニュース番組とは呼べない」と憤る。

 こうした方針転換の結果、制作会社所属のベテランスタッフの中には、来年3月末での契約解除を仄めかされたケースもある。NS時代から社会派のテーマを多数取り上げ、報ステでも原発や甲状腺がんの問題を提起していた50代前半の男性ディレクターAだ。

 番組を長年支えてきた実績があるにもかかわらず、Aは7月半ばにテレ朝の報ステ担当部長から「あなたの得意な社会問題の分野は今後あまり取り上げないので、契約更新は難しい」などと宣告された。これまで慣例だった次の担当番組の斡旋もなく、幼子を抱えるAは途方に暮れているという。

コメンテーターに〝アベ友〟か

 さて、こんな見当違いの桐永を看板番組のCPに抜擢したのは、 全番組の出演者に関する決定権を握る〝テレ朝の天皇〟、会長の早河であるのは言うまでもない。

 小誌は今年1月号掲載レポート「見城に踊る『早河テレ朝』軽薄の履歴書」でその実態を詳報したが、早河自身は若い頃から取材が苦手な内弁慶気質で、報道畑出身というよりは、ワイドショー(情報番組)のディレクター上がりと称する方が相応しいテレビ屋だ。

 テレ朝関係者によると、安倍政権の〝太鼓持ち〟、幻冬舎社長の見城徹(67)に籠絡された早河はかねてから、社会問題に強い関心を寄せるサブキャスターの小川を今年10月の番組改編期に交代させる意向だった。

 その後釜として早河は、3月末でNHKを退社したフリーアナウンサーの有働由美子にオファーを出したが、すげなく断られた。そこで早河が持ち出してきた〝隠し玉〟こそ、不倫騒動の末にタレントの内村光良と結婚して05年4月にテレ朝を退社したフリーアナウンサー、徳永有美(43)だった。同郷で同期の大下容子(48)を小川の後任アナに熱望していた桐永は、予想外の早河人事にひどく落胆したという。そもそも局アナ時代の徳永は、早河のお気に入り女子アナの一人だった。

「早河さんは編成制作局長当時、徳永アナが内村との不倫問題発覚で担当番組を降板したにもかかわらず、04年4月からスタートする報ステのサブキャスターに据えようと動いていた。古館プロの反対で結局、河野明子アナ(09年退社)に落ち着きましたが、それでも徳永は報ステの木・金曜日のスポーツコーナーを担当させてもらえたのです」(前出のテレ朝関係者)

 実は徳永のテレ朝退社時、早河は彼女に重要な助言をしている。

「退社の挨拶に来た徳永に『ギャラがかかるから、フリーになっても事務所に所属するな』と話していたそうです。ほとぼりが冷めたらテレ朝に復帰させる、という含意なのでしょう。でも、徳永の局アナ時代、報道向きの素顔を見たことなんてない。報ステ内では『小川が徳永に代わると、同じく問題意識のない富川とのコンビではニュースが伝わらない』などと早くも揶揄されています」(同、テレ朝は早河の発言を否定)

 報ステの驚愕人事はまだある。8月8日の新キャスター発表時には公表されなかったが、スポーツやエンタメ情報がメインとなる毎週金曜日のレギュラーコメンテーターに弁護士の野村修也(56)を起用するというのだ。

 野村は日本テレビ系の『情報ライブ ミヤネ屋』などのワイドショーや情報番組に出演し、大阪維新の会や安倍政権の応援団的な発言を繰り返す人物として知られる。ちなみにこの野村は中央大法学部出身、早河の後輩である。

 だが野村は、今年7月17日、第二東京弁護士会から業務停止1カ月の懲戒処分を下されている。野村は大阪市長(当時)の橋下徹に任命された大阪市特別顧問時代に、同市の職員を対象に政治活動や組合活動に関するアンケートを実施。これが弁護士の「品位を失うべき非行」に当たるとして懲戒処分を受けたのだ。このため、テレ朝は「処分期間中のコメンテーター起用の発表はタイミングが悪い」として、公表を先送りした。

 いくら野村本人が異議申し立ての意向を示したとはいえ、公に処分された弁護士を看板番組のコメンテーターに使うのは、コンプライアンス(法令遵守)の観点からもいかがなものか。

スポンサーからの厳しい声

 だが、早河や桐永のやりたい放題が罷り通るのかといえば、そこはスポンサーあっての民放のこと。関係者によると、報ステのスポンサーの中には突然の路線変更に不満を示すところが出ており、特にスポーツ・エンタメ路線に舵を切る金曜日のスポンサーからは「きちんとした報道番組と評価して提供してきたのに、話が違う」と厳しい声が聞かれる。テレ朝側は否定するものの、大手自動車メーカーなど数社がスポンサーを降板する意向を示し、営業部門が対応に追われた。

 加えて9月初めには、テレ朝社内に経費削減指令が出された。全日の視聴率は好調にもかかわらず、6月以降の毎月の売上高は前年同月比で最大5億円も減少しており、特にスポットCM(番組間CM)の落ち込みが、民放キー局の中で最も激しいという。報道局長の篠塚は「ネット時代が思ったより早く到来した」などと言い訳しているが、スポンサーのテレ朝離れが顕著になっているため、ついにネット企業に脱皮を図る方針のようだ。

 桐永のCP就任以降の報ステの視聴率は2カ月平均で11・0%と、前年度の平均をわずかに上回った。テレ朝関係者によると、小川との不仲ぶりを〝文春砲〟に直撃された富川は「誰が喋った? もう誰も信用できない!」などと疑心暗鬼に陥っている。その一方、文春報道で逆に好奇の目に晒され、視聴率的にまずまずのスタートを切れた桐永は「俺は正しい、間違ってない、数字を取ってる。何か言いたいなら(週刊誌でなく)俺に直接言って来い。文春でも新潮でも何でも来い!」などと怪気炎を上げている。

 その威勢がどこまで続くのか。「偏差値50路線」の報ステの舞台裏からは目が離せないが、小誌読者の視聴には耐えない番組に成り下がるのは必定だ。 (敬称略、年齢等は発売当時のまま)

桐永CPの「文春でも新潮でも何でも来い!」との雄叫びは、1年余にして現実のものとなった......

なお、テレ朝側は上記レポート掲載の「ZAITEN」18年11月号発売後に、政権の問題点について適切な報道をしている、スポンサーの離反はない、早河会長の名誉を棄損している、また、同会長と徳永アナの関係を否定するなどといった内容の「抗議文」を小誌編集部に寄せている。