テレビ朝日「報道ステーション」スタッフ一斉追放の深層

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 小誌「ZAITEN」で再三にわたり指摘してきたテレビ朝日のガバナンス不全と、看板番組「報道ステーション」におけるモラルハザードの実態......。今年2019年は、番組の最高責任者たるチーフプロデューサー(CP)が鬼畜の如き"セクハラ事件"まで引き起こし、視聴者はもちろん、スポンサー筋からの不信も頂点に達した。そんな中、報ステを巡って、また新たな動きがあったという。

 一部週刊誌等で報じられている通り、報ステスタッフの「全面リニューアル」問題である。

 そこで小誌では急遽、同問題についてのウェブ限定記事を公開する。寄稿は、これまでのテレ朝追及記事を手掛けてきたジャーナリスト・濱田博和氏である。

 なお、下記URLの通り、小誌ブログではテレ朝関連記事を無料公開しています。こちらもぜひともご覧ください。

・【9月4日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(1)

・【9月5日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(2)

・【9月7日公開】
テレビ朝日・報道ステーション"キスセクハラ"プロデューサーの素顔(3)

・【9月10日公開】
テレビ朝日「報ステ」セクハラに沈黙する早河会長

・【9月12日公開】
テレビ朝日・政治記者の知られざる実像

・【9月30日公開】
テレビ朝日・報道ステーション「参院選報道お蔵入り」の深層

・【11月1日公開】
テレビ朝日「やらせ会見」と「報ステ"セクハラCP"処分」経営責任の平仄

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 権力のチェックに努める看板報道番組『ニュースステーション』『報道ステーション』を抱えて、巷間は「物申す民放局」と目されてきたテレビ朝日。だが2012年末の安倍晋三自民党政権の発足以降、同政権との軋轢を極度に忌避する会長兼CEO(最高経営責任者)、早河洋(75)の意向に受けて、その報道姿勢はここ数年で「安倍ベッタリ」に様変わりした。

 その早河から報ステのチーフプロデューサー(CP)に抜擢された桐永洋が、番組の女性スタッフらに度重なるセクハラ行為を働き、着任からわずか1年あまりの19年8月末に更迭された経緯は、小誌11月号で詳細に伝えた。だが、その桐永に対する処分はわずか3日の謹慎とBS朝日への異動に過ぎず、セクハラに対する早河ら経営陣の問題意識の甘さを浮き彫りにした。大手報道機関の中でも、これほど無定見でお粗末極まりない組織は他に類を見ないだろう。

 そのテレ朝報道局がまたもや、報道機関にあるまじき醜態を晒した。12月10日放送の報ステは、政治問題化した安倍主催の「桜を見る会」に関するニュースを取り上げる際、この日行われた自民党参院幹事長の世耕弘成の定例記者会見での発言をVTR中で使用。ところがそのVTRに対して、世耕自身から「印象操作とはこのこと」「切り取りは酷い」などとツイッターで繰り返し非難され、狼狽したテレ朝報道局は翌11日夕方、報道局長が世耕を訪ねて「誤解を招く表現」があったと直接謝罪した。さらに同日夜の報ステでも、アナウンサーの富川悠太が世耕と視聴者にお詫びする事態となった。

 世耕の批判には明らかに"言いがかり"としか思えない部分があり、テレ朝側には反論の余地が十分ある。だが「事なかれ主義」を旨とする報道担当常務の篠塚浩(57)が率いるテレ朝報道局は謝罪に終始し、世耕の"かまし"にいとも容易く屈服した。政権側のブラフに反論もせずに屈して、恭順の意を示すなど、報道機関にとって自殺行為以外の何物でもない。

 さらにテレ朝報道局はこのあと、報ステの人心一新を理由に意味不明の"暴挙"に出る。日々のニュース報道に携わる「ニュース班」所属の派遣契約ディレクター約40人のうち、在籍10年以上のベテラン約10人に対して、来年3月末での契約打ち切りを一方的に通告。社員に関しても来年1月1日付で、桐永の後任として9月から報ステCPを務める鈴木大介を降板させ、政治ニュースのデスクの梶川幸司も経済部に異動させるなど、現場の実態を無視したデタラメな人事異動を敢えて行うというのだ。

世耕の批判は単なる屁理屈

 それではまず、世耕から「印象操作」「切り取りは酷い」と批判されたVTRを検証してみよう。関連部分は画面右肩に「幕引き?与党内から早くも...『桜を見る会』で2つの閣議決定」とのテロップが出され、映像は以下の順で進んでいく。

(1)定例会見でコメントする官房長官の菅義偉
「国民の皆さんに説明しきれない問題点が指摘されているわけですから、そこを中心に理解を頂けるような対応を取っていきたい」
→コメント終わりで「ただ、政権幹部とは対照的に...』とのナレーション

(2)定例会見で世耕を中央に着席中の自民党参院幹部議員3人雑観
「続いて与党内には早くも年越しムードが」とのナレーション。
 画面右下に「年越し」と大きめサイズの文字テロップ

(3)コメントする世耕の顔アップ
「(総理は)説明できる範囲はしっかり説明をしたと」

(4)定例会見で世耕を中央に着席中の自民党参院幹部議員3人
 記者「(年内の定例会見は)いつまでやるんですか?」
 世耕(机に置かれたドリンク缶を取り上げ、タブを開ける動作をしながら)「えっ? もう『よいお年を』というか...」
 周囲から笑い声が上がり、世耕も破顔一笑

 映像はこのあとスタジオに戻り、キャスターの徳永有美が「これだけ納得できないという声があがっているのに、『よいお年を』迎えられませんよ、という気持ちになってしまうんですけど」と発言すると、コメンテーターの後藤謙次が「そうですね(以下略)」と答える展開となる。

 これを見た世耕は放送後の10日夜以降、次のようにツイートした。

「今夜の報道ステーションの切り取りは酷い。私は定例記者会見が終わった後、今日の会見が今年最後になるかもしれないという意味で『良いお年を』と言っただけなのに、それを桜を見る会をと絡めて、問題を年越しさせようとしているかのように編集している。印象操作とはこのことだ」

「今日の世耕の会見の『総理は十分説明した』というコメントと、会見終了後に今年最後の会見の可能性があるので『良いお年を』と言ったことは時間的にも、文脈的にも繋がっていない。なのに#報道ステーションは『総理が説明したから、良いお年を』という風に繋げて編集している。印象操作」

「脈絡の異なる話を無理に繋げて編集し、しかも後段は会見終了後の映像を使用している。酷い編集だ」

 12日夕方までに投稿された世耕の10ツイートについて、テレ朝とは異なる民放局の政治部記者が呆れ顔で話す。

「世耕議員の主張は『VTRの最後の部分は会見を終えた後の内々の懇談であり、そこを使うのはルール違反』という、彼自身が勝手に考えついた屁理屈に過ぎません。記者会見は『会見者が会場に入ってから出ていくまで』というのがイロハのイ。例えば短気で有名な麻生太郎財務大臣は、会見で不本意な質問をされたあと、苦虫を噛み潰したような表情で退出することがよくあります。テレビカメラはその表情まで収めており、その様子はニュース番組でもよく使われます。世耕議員もそんなことは常識として百も承知のはず。しかも与党の有力政治家である世耕議員の、公の場での発言。メディアが取り上げることに何一つ問題はありません」

 全国紙の政治部デスクもテレ朝報道局の対応に疑問を呈する。

「桜を見る会についての『(総理は)説明できる範囲はしっかり説明をした』との発言と、最後の『もう、よいお年をというか』との発言は、その間に別の案件に関する質疑応答があったとはいえ、あくまで同じ記者会見での発言。メディア側がどう繋げたところで、印象操作などと非難される筋合いのものではありません」

 この幹部の解説は続く。

「会見終了で気が緩んだ世耕議員は、『よいお年を』などとつい本音を出してしまった。ヘラヘラ笑っている自分の映像が使われたのを見て、事実上、自民党内に安倍首相だけしか後ろ盾のない同議員は、失点を何とか糊塗する目的でもっともらしい屁理屈を捻り出し、ネトウヨという味方が多数存在するネット上で難癖を付けることで、自己正当化を図ったのでしょう」

 あるテレ朝元幹部は「それにしてもあのレベルのイチャモンを何ひとつまともに検証せず、即座に全面降伏してしまうとは......。ロクな記者経験を持たない篠塚率いる今のテレ朝報道局が、政治家の言動や思惑に対処する能力を全く身に付けていない素人集団であることが如実に示された。報道機関という自らの立場を弁えない、露骨なまでの事なかれ主義は、OBとして情けない限り」と天を仰ぐ。

熟練スタッフ約10人を一斉解雇へ

 こうしたテレ朝報道局の"千鳥足"状態に危機感を強めたのが、報ステ枠を受け持つ大手広告代理店「電通」だ。関係者によると、前述した桐永のセクハラ問題が発生して以降、報ステの放送時間内のスポットCMに出稿を希望する企業数が減少し、CM単価が値下がり。加えて現在のスポンサー企業の一部からは、来年4月以降の降板を示唆されるところが現れた。そこで電通はテレ朝報道局長の宮川晶が世耕に謝罪するより前の時点で、問題続発の報ステに何らかの抜本的な対策をとるよう、テレ朝側に強く求めていた。

 これを受けてテレ朝報道局が12月20日の報ステ放送終了後の反省会で公表した措置は、過剰反応としか言いようのないハチャメチャなものだった。CP着任後わずか4カ月の鈴木の解任だけでなく(鈴木は来年3月末まで危機管理担当として報ステに残留)、制作会社から報ステに派遣されている、在籍10年以上の熟練ディレクター約10人との契約を、来年3月末で一方的に打ち切るというのだ。

 関係者によると、解雇対象となったディレクターが所属する制作会社には12月16日、報ステ担当部長の中村直樹から「報ステの人心一新を図るため、派遣契約ディレクターの3人に1人と来年3月末で契約を打ち切る」と通告があった。

 報ステの派遣契約ディレクターの担務はニュース、スポーツ、天気、スタジオ演出などと細分化されているが、解雇通告を受けたのは約40人のニュース班のディレクターのみ。その約4人に1人が看板報道番組から一斉に放逐され、しかもそれは"熟練工"ばかりなのだ。報ステスタッフによると、ベテラン派遣契約ディレクター約10人が来年3月末で解雇されたあと、補充されるのはその半数程度にとどまる。別の報ステスタッフが嘆く。

「今回の人事の悪影響は単なるマンパワー不足にとどまりません。VTR制作に習熟したベテランが去ることでVTRの質が下がり、桐永前CPの就任以降、ただでさえ失われつつある報ステの信用力は、いよいよ崩壊の危機に直面することになるでしょう」

 年度末までわずか3カ月というタイミングでの一方的な解雇通告に、該当するディレクターらは呆然自失の状態にある。前述の反省会では、解雇通告を受けた契約ディレクターの1人から「桐永前CPのセクハラ問題を何も説明しないうちに、こういう形で10人以上が大量解雇されるというのは明らかにおかしい。これまでも番組で派遣切りとか雇い止めとか散々問題視しておいて、これはどういうことなのか」と怒りの声が上がり、反省会は静まり返った。

 これに対して報道番組センター長の佐々木毅は「他番組を用意することもできる」と回答するにとどめ、局としての継続雇用に関する明言を避けた。ところがテレ朝は幹部社員宛てのメール上や、他メディアからの問い合わせには「その方々のほとんどについて、来年4月以降も別の報道情報番組などの制作に携わっていただけないか、派遣元の会社に提案している」などと釈明しているもようだ。

 また、今回の報ステ所属の社員の人事異動では、CPの鈴木や政治担当デスクの梶川のほか、4人のディレクターが対象となった(鈴木の後任CPは報ステ統轄デスクの柳井隆史)。そのうちの1人は、桐永の外部スタッフに対するセクハラの被害実態を集約し、コンプライアンス統括室に通報した女性ディレクターだという。ある中堅社員が驚きを隠さない。

セクハラ通報した女性社員も異動

「彼女は各番組に1人ずついるコンプラ担当の社員で、桐永前CPのセクハラの際には、果たすべき役割を忠実に果たしたに過ぎない。その彼女が桐永前CPのセクハラ発覚後の最初の人事で異動になった。これを見た女性の社員やスタッフの間で今後、『幹部社員のセクハラ通報はNG』といった空気が広がらないか不安です」

 要するに今回の暴挙は、テレ朝の経営陣と報道局上層部が電通からの圧力を背景に、不満分子と疑われる報ステのディレクターを一掃しようと図ったものとみて間違いはなさそうだ。その結果が吉と出るか凶と出るか、4月以降の報ステの視聴率が自ずと証明してくれるだろう。(敬称略)

 もはや報道の内容以前に、番組制作の舞台裏しか話題にならなくなった感のある報ステ。そればかりか、もはやこのテレビ局自体を巡る言説も、その類のものが目立つ。テレ朝の"メルトダウン"は、いよいよ次のフェーズに入ったようだ。