2021年04月号

評論家・佐高信が語る

【特集・東京五輪】"恥の五輪"には「恥ずかしい森喜朗」しかいなかった

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 結局、五輪組織委員会会長を辞めることになったが、森喜朗の女性蔑視発言のニュースを見て、真っ先に思い出したのが、件の「買春疑惑」だった。

 これは、1958年2月17日に当時20歳だった森が売春防止法で検挙されたという『噂の真相』(2000年6月号)のスクープだ。8日後に森は起訴猶予になるが、記者の西岡研介は犯歴番号、指紋番号まで入手していた。

 記事が出た時、現役首相だった森は『噂の真相』に対し、1000万円と謝罪広告の掲載を求めて名誉毀損の裁判を起こした。けれど、『噂の真相』側が裁判所に調査嘱託を申し立て、警視庁に対してデータを提出するよう命じたところ、警視庁はこれを拒否。

 警視庁が「シロ」と応じていれば、森は自分が潔白であることを証明できたのに、それをしなかったわけだ。

 裁判自体は『噂の真相』の休刊もあって、最終的に和解に終わってしまった。そんなこともあるからなのか、今回、どこも森の買春問題を報じるところはなかったけれど、これほど、森は恥ずかしい男なのである。

日本の「不幸」の始まり

 そもそも、森が首相になってから、日本はおかしくなってしまった。森が首相になれたのは、前任の小渕恵三が亡くなる際、青木幹夫、村上正邦、野中広務、そして森本人を含めた「5人組」が密室で談合したことによる。そしてこの時、蚊帳の外に置かれたのが、自民党宏池会である。

 当時の宏池会は、会長だった加藤紘一と、小渕政権で総務会長を務めていた池田行彦の間で対立があったこともあり、派閥全体として「森後継はおかしい」ということが打ち出せなかったのだ。

 本来、自民党の主流は、田中派の流れを汲む経世会(竹下派)と宏池会で、その路線はハト派。しかし、この時から、清和会の森が首相に就いたことで、その後の小泉純一郎、安倍晋三という清和会を中心にした政権が続くことになる。つまり、ハト派からタカ派への自民党主流の転換点が森。それが日本にとっての不幸の始まりだった。

 清和会は、岸信介以来のタカ派だが、その実は「反共追米」というイデオロギーしかない。さらにその行動原理は、森に象徴される体育会系のバカ派。だから、下の者が上の者に逆らえない「問答無用」になってしまうし、そんな連中しか集まらない。森の女性蔑視発言もここから来ていると考えると、分かりやすい。

 政治は本来、「問答有用」であるわけで、経世会出身の小渕もパーティーの席上、散々悪口を書いていた私に近づいてきて、「どんどん批判してくれ」と言ってきたほど。ところが、清和会は問答無用で、批判はまったく受け付けない。安倍の政治は、まさにこの典型だった。

 そういう点では、「サメの脳みそ、ノミの心臓、オットセイの下半身」と言われた森だが、己が首相の器でないことくらいは分かっていたように思う。

 田原総一朗から聞いたが、森は国会で演説する直前になって田原に電話をかけてきて「不安で不安でしょうがない」なんて弱音を吐いていたという。森には、そういう正直さはあると言える。

 私自身も、80年代に森が文部大臣だった時、『夕刊フジ』の「師弟」というテーマの連載で森をインタビューしたことがある。森の出身の早稲田大学ラグビー部の監督、大西鐵之祐との関係を聞く内容だったが、取材後、森は記事のお礼にとネクタイなんかを送ってきた。

 さらに、社民党の土井たか子のお別れの会に参列した際、初当選同期だった森が話しかけて来て、しばし立ち話をしたこともある。その時は、一緒にいた作家の落合恵子から「どんな関係なの?」と訝しく見られたが。

 そんなで、森にはマメなところがあるのも確かだ。ただ、それだけしかないのである。

余人をもって代え難い森

 森が五輪組織委会長になれたのも、そんな性格によるところもあるのだろう。それに加えて、「史上最低」と言われながらも、今でも生き残る〝現役〟の首相経験者でもある。

 嫌な過去を知る人間は死ぬか、引退するか、初当選同期の小沢一郎のように別の方向に行くかしている。「森を首相にしたのは最大の間違いだった」と、のちに後悔していた「5人組」の一人、村上も昨年亡くなってしまった。二階俊博だって、森に会えば、「森先生」となってしまう。言うなれば、「長生きは三文の得」というわけで、森に役職が転がり込んできたとも言える。

 ただし、組織委会長として森は「余人をもって代え難い」などとベンチャラを言う世耕弘成のようなのもいたが、そもそもドブ川でしか人を探していないのだから、森のようなのしか見つかりようがないのである。

 しかし、別の見方もできる。

 IOC(国際五輪委員会)の委員に賄賂をバラ撒いて無理くり持ってきたのが、今回の東京五輪である。招致したJOC(日本五輪委員会)前会長の竹田恆和や電通出身の高橋治之などは、国外に出れば逮捕されかねない身だ。言うならば、東京五輪は世界に顔向けできない「恥ずかしいオリンピック」なのである。

 そういう意味では、森が組織委会長だったことは「余人をもって代え難い」ものだった。そんな恥ずかしい五輪を、しかもこのコロナ禍の最中に強行しようとするには、森のような恥ずかしい男でないと土台無理だったのである。

 しかし、森が去り、橋本聖子が会長になった。森とは「父と娘の関係」という橋本も十分に恥ずかしいが、やはり、森の恥ずかしさには到底及ばない。

 やはり、恥ずかしい五輪はやるべきではないのである。

〈取材・構成=特集班〉

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