2021年02月号

問われる“経団連会長企業”の広報対応

【特集・コロナ禍広報】日立「広報が取材無視」東原社長に質問状

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 本誌では前号2021年1月号において《大手企業「ハラスメントの実態」》と題する特集企画を展開した。20年6月1日より「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」が施行され、また三菱UFJ信託銀行の子会社で、上司からのセクハラなどで女性元社員が労働基準監督署から労災認定されたことが10月に代理人弁護士から明らかにされたこともあり、日本を代表する大手企業がハラスメントに対してどのような施策を講じているかを報じることは、公共の利益につながると判断したからである。

 取材対象に際しては、各業種を代表する大手企業を抽出した。また、本誌が過去にハラスメント関連で報じた企業に関しては別途ページを割いて報じた。

 各社に一様に問うたのは、「ハラスメントをどのように位置づけているか」「ハラスメント被害の訴えを聞く部門などはあるか、訴えはどう処理されているか」「ハラスメント防止に施策を行っているか」などについて、である。

 常識的に考えて、上場企業、ましてや大企業として答えられない質問とはとても思われない。事実、本誌が経営問題を追及することも少なからずあるみずほフィナンシャルグループやキヤノンといった企業でさえ、取材意図を伝えると自社の取り組みについて、微に入り細に入り回答。大企業としての矜持を垣間見たと言える。

 とはいえ、日本を代表する企業の広報として、自社のハラスメント対策を満天下に知らしめることがコンプライアンス意識の高さを示すことになる以上、今回の取材に誠心誠意対応することは、当然と言えば当然である。

 翻って、その〝当然〟さえも分からなかったのか、もしくは企業内にハラスメントが横行し過ぎてとても回答する気にならなかったのか、不誠実な対応を見せた企業もあった。「当社では法令に則り、適切に対応を行っております」というあまりに適当な回答をすぐに返してきたJR東海、回答期限に遅れた挙げ句、「ホームページを見てください」と電話してきた三菱商事などである。

 これらの広報対応は落第点と断じざるを得ないが、まだ何らかの意思は示してきた。しかし、何の回答も寄せることもなく、再度の問い合わせにも「完全無視」という度し難い態度に終始した企業があった。他ならぬ、〝財界総理〟中西宏明経団連会長が会長を務める日立製作所である。

なぜか不在の東原社長

 詳細な経緯は以下の通りだ。

 日立への取材も他の企業同様、まず広報部に架電し、担当者のメールに質問状を送付した。しかし回答期限を過ぎても何の反応もないことから、再び広報部に架電、出てきた広報部員に連絡がない旨を伝えると、「担当者がいないので分からない」とのことなので、回答期限が過ぎているので至急確認して欲しい旨を伝えた。

 しかし、それでも梨の礫だったので、再度担当者のメールに「回答しないなら、その理由を知らせて欲しい」「回答がないということは、御社はハラスメント問題を一切考慮しない企業であると見做すしかなく、そのように掲載させていただくことになる」旨をメールしたものの、やはり一向に連絡がないままに締め切りを迎え、1月号の刊行となった。

 日本企業の模範となるべき経団連会長企業の不可解かつ不誠実な取材対応―。「広報は経営トップの考えを投影する部門」と認識する本誌は、かかる対応を東原敏昭社長兼CEO(最高経営責任者)はどのように考えているのかを知るべきと考えた。そこで法人登記簿に記載されている東原社長の自宅住所へ、本誌編集長名の質問状を配達証明郵便で発送した。質問内容は―

・本誌取材に対し、一切の対応を取らなかったことは正しい対応だと考えるか。

・東原社長は日立の広報部が正常に機能していると考えるか。

・今回の広報対応から、日立は対外的に発表できるハラスメント関連施策をまったく持っていないと判断できるが、どう考えるか。

・あるべき広報像について東原社長の考えを拝聴したい。

 しかし、なぜか数日に及ぶ「不在のため」自宅に質問状が届かない。当該住所に東原社長が住まっているのか否かを検証する時間もないので、改めて質問状を東京・丸の内の日立本社に送付したところ、日立側が受け取ったことを示す配達証明書が編集部に届いた。

名乗らない男の〝回答〟

 一般の取材ならば、後は期限まで相手からの回答を待っていればいいが、すっかり日立の対応に疑心が芽生えていることもあり、本誌から確認の電話を入れた。代表電話のオペレーターに、社長に質問状を送ったので担当者と話したい旨を伝えると、何度かの数分間の保留状態の後、「担当者が不在」「また後で電話して欲しい」云々と一向に埒が明かない。

 再度掛け直しても、「担当者が不在」を繰り返す。回答期限を過ぎてもこうした不毛な遣り取りが繰り返されるに及び、とりあえず社長室の誰かを電話に出して欲しい旨を伝えると、何度かの保留音の後に、やっと電話口に男性が出た。男性は自分の名前、所属はおろか、東原社長が手紙を確認したかも「一切答えられない」とし、何も答えないと決定したのは「会社として」と繰り返した。名乗らない以上、どこの誰かも分からないが、一切何も答えないという頑なな姿勢は異様という他ない。

 ハラスメント取材に端を発した今回の問題は恐らく、リモートワーク下にある広報担当者個人のサボタージュから発したものである可能性は否定できない。しかし、日立広報部にはそれをカバーする体制もなければ、そのような意志すらなかったと言える。その証左に、先の〝名乗らない男〟との問答の後、本誌は改めて広報部にも架電したが、コールもなく留守電案内に。数十分後に再度架電しても何度かのコールの後、再び留守電案内が流れる始末......。

 本誌が広報部の些細なミスを大仰に東原社長に注進したとでも思っているのなら、思い違いも甚だしい。チームワークもなく、メディアから逃げ回った末、木で鼻を括る広報―。心ある者なら、日立はそういう会社なのだと認識を新たにするはずだ。東原社長、これが御社広報の真の姿である。

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