ZAITEN2025年10月号
月刊ゴルフ場批評96
「富士クラシック」批評
カテゴリ:月刊ゴルフ場批評
山梨県富士河口湖町にある「富士クラシック」だが、河口湖畔から25㌔ほど富士宮方面に向かう。高速を降りてからの下道が長いのには辟易するが、一般道を曲がってコースへの進入路に入った瞬間、衝撃が走る。
いきなり広々とした空間が開け、正面のクラブハウスまで2車線の道路が真っすぐ伸びた先には、眼前に迫ってくる富士山頂の勇姿が飛び込み、圧巻の迫力だ。
コース用地は元牧草地で樹々も疎らだから、とにかく空が広い。その広い空の一角を常に富士の頂きが占めている。富士山の眺望が望めるゴルフ場は他にいくらでもあるが、「富士山でゴルフをしている」という表現がピッタリなのは希少。移動距離を犠牲にした甲斐があるというもんだ。
標高は1200㍍。避暑地といわれている河口湖の標高が833㍍で、それより400㍍近く高いから、気温が30度に達することは珍しく、ちょっと曇ると真夏でも肌寒い。この標高ともなると、気圧も低くなるから、下界よりかなり飛距離が伸びると言われる。
今では北海道でさえ灼熱の地と化した日本列島。ここは真の避暑地と言えるうえ、洋芝のフェアウエーやベントグリーンを良好なコンディションに保つことができる、国内でも貴重なコースなのは間違いない。
コース設計は、英国出身のデズモンド・ミュアヘッド。ゴルフコースに芸術を持ち込んだ鬼才だ。同コースも18ホール全体は葛飾北斎の「富嶽三十六景」をモチーフにしていて、その名画を題材にしていることで知られている。
中でも有名なのは、「神奈川沖浪裏」の波を池とバンカーで表した17番パー3、「駿州江尻」の稲穂が揺らめく様をフェアウエーのうねりで表現した3番パー4だ。
また、16番パー4は、フェアウエーど真ん中に配された卍型バンカーで有名。北斎の作品について勉強していくのも一興だろう。 コースの地形はなだらかな丘陵地。フェアウエーは広くアップダウンは少ないが、山麓を横切るように造られているため、わずかながらツマ先上がり、ツマ先下がりのライになるケースが多い。
ミュアヘッドの真骨頂ともいえる、大胆な池やバンカーの配置は強烈。美しくはあるが、うねりがあるフェアウエーはなかなかフラットなライから打たせてもらえない。正直、アベレージゴルファーにはしんどい。
加えて、高山特有の強風の吹く日も多く、特に向かい風のホールは一気に難易度が増す。うねりがある大きなワングリーンもやっかいで、富士山からのきつい芝目がプレーヤーを惑わせる。
素晴らしい眺望と理想的とも言える地形。この大地が持つスケールに対し、凝ったレイアウトのギャップがたまらない、という人もいるだろう。半面、ティーイングエリアとグリーンを配置するだけでも、素晴らしいゴルフ場ができるんじゃないかな。ちっぽけな人間があれこれいじり過ぎという、少しおセンチな気分になった。
もっと素朴なリンクスでもよかったんじゃないか? 決して大叩きした言い訳じゃないぞ。
●所在地 山梨県南都留郡富士河口湖町富士ケ嶺2-2 ●TEL. 0555-89-3300 ●開場 1995年10月1日 ●設計者 デズモンド・ミュアヘッド ●ヤーデージ 18ホール、7171ヤード、パー72