ZAITEN2022年09月号

【対談】玉木正之

玉木正之 vs. 小林信也 「高校野球〝夏の甲子園〟を廃止せよ」

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こばやし・のぶや――作家・スポーツライター。1956年新潟県長岡生まれ。慶応大学法学部卒。高校では野球部の投手として新潟県大会優勝。大学生の頃から『ポパイ』編集部スタッフライターをつとめ、卒業後は『ナンバー』のスタッフライターを経てスポーツライターに。著書は『高校野球が危ない』『子どもにスポーツをさせるな』など多数。

玉木 私はスポーツライターとして40年以上、高校野球を批判してきました。それは高校生の部活動をプロスポーツのように扱うのは間違いだと思うからです。そこへ小林さんが、小生の批判よりも過激な「甲子園大会廃止論」を言い出された。その真意は?

小林 直接的には夏の暑さです。真夏の炎天下で野球をやるのは、やはりおかしい。NHKの画面に《熱中症危険。野外での運動はやめましょう》と文字の流れる中、高校野球だけ例外なのか? 3年前、コロナ禍の前年に甲子園球場で取材した際に、高野連(日本高等学校野球連盟)の方に案内され、専任のトレーナーが試合の前後に選手たちにストレッチを徹底させているとか、凍らせたペットボトルを用意しているとか、扇風機やエアコン、ミストの装置を据え付けたとか、涙ぐましい暑さ対策を見せてもらった。何が何でも真夏に大会をやりたいことが分かりました。

玉木 それは何故でしょう?

小林 甲子園球場を無料で借りられる時期で、高校生も夏休み、と理屈は色々あるようですが......。

玉木 一方で、地方大会は1学期の期末テストの時期とぶつかる。それに、秋の国体の出場校の生徒には学校を休ませている。

小林 僕は新潟で小学生の頃から野球をやり、母が高校の教師をしていたので、その高校の野球部の試合をよく見に行きました。そこで高校野球に魅了され、中学で軟式をやったあと、高校の野球部に入りましたが、昔も夏の暑さは酷かった。練習中にサボって田んぼの小屋の陰に隠れて休んだり(笑)。でも野球が大好きで、なかなか今の「甲子園大会廃止」の考えには到らなかった。

玉木 私の家は京都の町の小さな電器屋で、夏休みになるとNHKから大きな紙のスコアボードが届き、テレビの並んだウインドウのガラスに貼り付けて、イニングごとに得点を書き入れるのが小学生時代の私の仕事。だから高校野球もプロ野球のように見て楽しんでました。でも、高校生になってバドミントンでインターハイを目指した時に、なぜ野球部だけが新聞に大きく取り上げられるんだと嫉妬混じりの違和感を覚えました。

小林 高校野球は教育だと言われますが、全然教育的じゃない。夏の大会には、今年は参加校が3782、合同チームがあるのでチーム数は3547。初戦が終わると半分になる。半数が1試合しかできない。どこが教育的なのか。

負けることに意味がある?

玉木 高校野球に「教育」を持ち込んだのは1911(明治44)年に東京朝日新聞が『野球と其害毒』というキャンペーンを1カ月以上にわたって続けた結果です。新渡戸稲造や乃木希典などの執筆陣が、野球は巾着切り(スリ)のようにベースを盗もうとする、程度の低いゲームだ、ボールを手で受ける振動で脳を悪くする......などと野球を非難した。ところが反論する新聞社も現れて大論争になり、結果的に野球人気が急上昇。そこで大阪朝日新聞が15(大正4)年に全国中等学校野球選手権大会(現在の夏の甲子園大会)の開催を決めた際、今度は社説で野球が優れて教育的なことを力説。さらに、試合開始時に両チームがホームベースを挟んで礼をすることを決めたり、優勝校にコンサイス英和辞典を贈るなど、「教育的な野球」を強調したのです。

小林 以来、1回戦で強豪校と当たった高校が2桁得点を奪われ、完封負けで終わるケースも多発するトーナメント戦が100年以上続けられている。すべては甲子園大会の「伝統」の継承で、高校野球関係者は思考停止状態です。


......続きはZAITEN9月号で。

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