2020/10/15

安倍官邸に魅入られた外客誘致の〝イデオローグ〟

インバウンド「お雇い英国人」デービッド・アトキンソンの評判

カテゴリ:政治・国際

10月14日、菅義偉政権が新設する「成長戦略会議」の議員に選ばれた、米金融大手のゴールドマン・サックス出身で、小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏。本誌「ZAITEN」は菅政権発足前の2020年6月号(同年5月1日発売)でアトキンソン氏の「政治力」を詳報していました。ここに全文を無料で公開します。ちなみに、本文では記載していませんが、アトキンソン氏は「観光族のドン」二階俊博・自民党幹事長とも懇意であるとのこと。菅政権でその影響力は強まるばかりでしょう......。

 新型肺炎禍が深刻化していた最中の3月18日、観光庁のホームページでパブリックコメント実施のお知らせが掲載された。内容は《観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン(案)》についての意見募集――。

 とはいえ、「観光地域づくり法人」と言っても、一般には馴染みが薄いだろう。アベノミクス推進の柱として訪日外国人旅客数の拡大を目指す政府だが、外客が増えるほど、東京―富士山―京都・大阪の「ゴールデンルート」上の観光地に外国人が集中してしまうオーバーツーリズムの問題が深刻化。政府ではルート以外の地域へ観光客を分散させることが課題となっていたが、これまで決定打を欠いてきた。そんな中で期待されているのが、「DMO」とも呼ばれる地域まちづくり法人である。

 日本版DMOを支援するDMO推進機構などが中心となって、旅館や土産物店といった地元利害者の調整程度の役割しか果たしていなかった地方の観光協会の刷新を目指し、旅行者の主体である都市住民の視点でマーケティング活動をする組織として海外のDMOの概念を提唱。国がそれを取り入れる形で、2015年11月に観光庁が日本版DMOの推進を開始した。結果、雨後の竹の子のようにDMOが設立され、今年3月末で162もの法人が認定された。

 そんな中、日本版DMOの在り方に並々ならぬ精力を傾ける一人の英国紳士がいる。デービッド・アトキンソン、神社仏閣や文化財などの美術工芸工事を請け負う小西美術工藝社の社長である。

菅義偉に見込まれて勇躍


 アトキンソンは1965年、英国の生まれ。オックスフォード大学日本学科を卒業後、コンサルティング会社勤務などを経て90年に来日。米ゴールドマン・サックス(GS)のアナリストを務め、日本の金融機関が隠す不良債権問題を早々に指摘したとされる。当時、大手証券でファンドマネージャーを務めた関係者が語る。

「すでにバブル崩壊後だったが、景気はまだ底を打っておらず、金融機関が不良債権を隠しているというデービッドの指摘は当初、外国人ということもあって黙殺された。ただ、一部の外資系などは彼の提言に従い、日本株を売って結果的に難を逃れることができた」

 そんな凄腕アナリストだったアトキンソンが縁あって小西美術工藝社に入社したのが09年。会長、社長として創業300年超という同社の再建に努めた。中でも彼を勇躍させるきっかけとなったのが、『新・観光立国論』(15年、東洋経済新報社)の出版である。

 そして、この本に注目したのが官房長官の菅義偉だった。元来、観光事業も縄張りの国土交通族である菅は、アトキンソンと『週刊東洋経済』(19年9月7日号)で対談、「感銘を受け、すぐに面会を申し込んだ」と告白している。

 菅に見込まれたアトキンソンは時を置かずして官邸が主催する「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」に招かれる。その後に続く「観光戦略実行推進タスクフォース」、今では実質的に国の観光戦略の最高意思決定機関である「観光戦略実行推進会議」にも参加、有識者として大きな発言力を得ていく。17年6月には、観光立国の海外における実行部隊である日本政府観光局(JNTO)特別顧問に就任した。

 そんなアトキンソンの主張は、「情報発信より外客受入環境整備」。ところが、この主張が観光庁をはじめ、日本の観光業界関係者の間で物議を醸すことになる。 「JNTOで〝先生扱い〟された彼は、訪日旅客の4分の3を占める最重要ターゲットだったアジアの観光客から、一人当たりの旅行消費額が大きい欧米豪市場を攻めるべきと主張。実際に国の方針や予算付けもそのようになり、それまで欧米の事務所を閉じてアジアに新事務所を開設していたJNTOが今度は、ロシア、スペインなどに相次いで新事務所を開くことになった」(観光業界関係者)

JNTOへの権限集中を主張


 さらにJNTOの次に目をつけたのが、先のDMOだという。別の観光業界関係者が解説する。

「昨年、観光庁で『世界水準のDMOのあり方に関する検討会』が開催された際、JNTO特別顧問であるアトキンソン氏は大方の意見に抗って、DMOは外客受入環境整備に専念して情報発信はJNTOに一元化すべきとの主張を押し通し、DMOの情報発信機能を自分の息がかかったJNTOに集中させることに成功した」

 その主張ぶりが時に周囲から「威圧的」(同)と捉えられるというアトキンソンだが、「独自の情報発信に成功しているDMOもあり、その努力を無視するような決定」(DMO関係者)には批判も根強い。しかも、アトキンソンのその仕掛けづくりが冒頭のパブコメではないのか、というのだ。

 霞が関にも出入りする大手旅行会社の関係者によると、「観光庁は否定するが、今回のDMOガイドラインのパブコメは2週間の短期間で、観光庁がガイドラインを押し通すためのアリバイづくりだろう。その柱のひとつはCFO(最高財務責任者)の設置義務。地方にそんな人材がいるわけもなく、金融出身のアトキンソン氏の人脈が入り込む可能性が高い。また、JNTOの最大活用ということを明文化し国のお墨付きを得たことで、DMOの情報発信も実質的に手中に収めた格好だ」。

 別の関係者もこう声を潜める。

「今や観光庁DMO推進室の室長は裏で〝アトキンソンのポチ〟とまで言われている。地域のDMOの実情を熟知する立場にいながら、一気に登録要件の厳格化を推し進めれば、国の意向に沿って立ち上げたDMOの大半はついていくことができなくなってしまう」

 アトキンソンは国のDMOアドバイザーに、GS出身で民主党政権の協力者だった山崎養世を推しているとの指摘もある。

 そればかりか、観光庁で18年度から始まった地域観光資源の多言語解説整備支援事業(20年度予算約10億円)は「日本の文化財に関わりの深いアトキンソンを意識したもの」(関係者)といった疑念まで燻っている。ただ、小西美術工藝社と観光庁が否定するように同社が事業を受注したことはないという。〝やっかみ〟と見られるがアトキンソンは業者選定の「3人のアドバイザーの1人」(観光庁)といい、それほどまでに彼の権勢が増している証左とも言える。

 新型肺炎禍で外国人どころではない我が国の観光業界。安倍官邸が魅入られたこの英国人は〝時の人〟として忘れられるのか。あるいは、コロナ後の経済対策の担い手になるのか――。

(敬称略、肩書等は掲載当時)

なお、アトキンソン氏については2020年11月号でも続報しています。

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