2021年04月号

「官製値下げ」で露呈した高橋誠社長の“政治オンチ”

菅政権に睨まれた「KDDI」に再編の波

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菅政権が掲げる携帯電話料金の値下げ圧力にNTTドコモ、ソフトバンクが恭順の意を示す中、社長の高橋誠が噛みついたKDDI。しかし、時の政権に抗し切れるはずもなく、すぐさま白旗を上げたが......。

菅義偉政権の一大看板である携帯電話料金の大幅値下げへの対応を渋った挙げ句、官邸や霞が関のみならずユーザーからも大顰蹙を買ったKDDI(au)。社長の高橋誠が「国に携帯料金を決める権利はない」と啖呵まで切った結果、今後は携帯電波の割り当てなどで総務省から〝制裁措置〟を課されることさえ取り沙汰されている。大幅値下げプランで先行したNTTドコモやソフトバンクへの顧客流出懸念の高まりから、高橋KDDIは1月中旬になってようやく対抗プランを打ち出したが、一度染みついた「顧客還元に後ろ向き」との悪印象は容易に払拭されない。3月から始まる企業の命運を賭けた顧客争奪戦で劣勢に立たされるのが必至の情勢だ。

「お騒がせして申し訳ない」

「(割引条件などの注釈を示す)※印だらけなど、今回の値引きにも裏があるんじゃないか」―。KDDIが主力のauブランドで「月間データ容量20ギガバイト(GB)・月額2480円」という格安プラン「povo(ポヴォ)」を発表した1月13日、SNSにはユーザーの疑念の声が溢れた。昨年12月9日、複雑な割引条件を付けたauの新料金プラン「データMAX 5G with Amazonプライム」でユーザーの反感を買った〝前科〟があったからだ。

 同「データMAX」プランは、ライバルのドコモが20GBで月額2980円という「従来より6割安い」という格安プラン「ahamo(アハモ)」を発表した直後に発表された。「月額3760円から」と安さをアピールしていたが、実際は家族4人以上で2年契約し、固定回線などとセットにしなければ最安値で契約できない「噴飯もの」(総務省筋)。ドコモへの対抗値下げを期待したユーザーの間に失望感が広がり、ツイッターで「#さよならau」「#au解約」がトレンド入りするほどの大炎上となった。

「(顧客の批判の)声をしっかり受け止め、月額2480円という大手キャリア3社で最安値のプランを仕上げた」。KDDI社長の高橋は1月13日のオンライン記者会見でこう見得を切った。ただし、ポヴォにはドコモやソフトバンクの新プランのように1回5分以内の無料通話分が含まれていない。この分を追加すると月額500円かかるため、実際はライバル2社と横並びの水準だ。高橋は「20代以下のユーザーは音声通話をほとんど使わない。料金を別建てにする方が選択の幅が広がる」と強調した。しかし、菅から「永田町随一の強面ぶり」を買われ、携帯値下げの牽引役の総務相に抜擢された武田良太は直後の記者会見で「最安値と言いながら、他社と結局同じ値段。非常に紛らわしい」と不快感を露わにした。

 KDDIが菅官邸や総務省から目の敵にされている背景には、昨年11月26日付の日経新聞朝刊のインタビュー記事に掲載された高橋の放言が影響している。KDDIは同10月にサブブランドのUQモバイルで「20GB・月額3980円」の割安プランを発表したが、総務相の武田は「多くの人が契約する主力ブランドで新プランが発表されておらず、羊頭狗肉だ」と酷評していた。これに対して、高橋はインタビューで「いきなり(主力ブランドの料金を)下げろというのは、従来の(政府の)話から逸脱する」と猛反発。「国に携帯料金を決める権利はない」と喧嘩を売った。

 京セラ創業者の稲盛和夫が立ち上げた通信ベンチャー第二電電(KDDIの母体の一つ)の1期生で「イケイケドンドンの性格」という高橋の真骨頂と言いたいところだが、相手が悪過ぎた。携帯会社は電波割り当てなど生命線を総務省に握られている上、時の首相は強権体質の菅。社内でも「自爆行為に等しい愚の骨頂」(有力OB)と嘆く声しきりだった。

 案の定、菅周辺から「高橋は何様のつもりか」と憤慨の声が上がり、総務相の武田から翌27日の記者会見で「公共性の高い事業を営む企業なら、国民にどんなサービスを提供しなければならないかくらい常識で考えて分かるだろう」と叱責された。「高橋の経営の師」とされる会長の田中孝司をはじめKDDI幹部は官邸や総務省への釈明に奔走した。高橋は同12月初めに開かれた総務省の有識者会議の席上で「お騒がせして申し訳ありませんでした」と謝罪したが、こんなことで菅政権のKDDI憎しの感情が消えるはずもない。ちなみにこの日の有識者会議は、NTTによるドコモ完全子会社化を受けて携帯市場の公正な競争環境の確保を話し合う初の会合だったが、高橋の舌禍事件で意気消沈したKDDIはNTTの市場支配是正などまともに主張できる状況になかった。

......続きは「ZAITEN」2021年4月号で。

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