2021年06月号

「旭日中綬章」垂れて“愛娘”たちに一等地プレゼントの裏側

ミツカン中埜和英会長「表参道地上げ」の現場【6/8全文無料公開】

カテゴリ:事件・社会

 5月、長女・裕子氏をミツカンホールディングス(HD)の社長に据えた、ミツカングループ8代目にして総帥の中埜和英会長。会長本人は「環境が整い、次世代への継承をスタートさせたい」と抱負を語ったが、豈図らんや、この老舗企業の世代交代を伝えた晴れがましいネットニュースには罵詈雑言のコメントが並んだ――。曰く「会社の私物化」、曰く「闇深い会社」、曰く「孫を略取したミツカン殿」......。

 本誌「ZAITEN」は匿名のネットコメントに与するつもりは毛頭ないが、中埜和英会長が会社だけではなく、その莫大であろう資産も着実に愛娘たちに"承継"させようと血道を上げていることだけは確かなようだ。

 そこで今回、本誌編集部は「ZAITEN」2021年6月号(5月1日発売)掲載のレポートを無料公開する。非上場で愛知・半田の地方企業とはいえ、勲章を垂れる名士と思しき中埜和英氏の不動産取得にしては、何とも穏やかではない現場をレポートした。

ミツカン_中埜和英会長カラー.jpg中埜和英会長(ミツカンHD会社資料より)

愛知・半田で200年超の歴史を刻む大手食品メーカー、ミツカン。中埜家が代々当主を務める非上場の創業家企業だが、その8代目、中埜和英が愛娘のために都心の超一等地取得に血道を上げているという。昨年叙勲の勲章が色褪せるその〝所業〟とは――。

 旭日中綬章――。勲章の色ほど市井の人に判別し難いものはないが、試みに内閣府のサイトを開くと、旭日章と瑞宝章の授与対象は〈国家又は公共に対し功労のある方〉とある。瑞宝章が公務に携わった者が対象なのに対し、旭日章は〈功績の内容に着目し、顕著な功績を挙げた方〉に授与されることになっているのだそうな。中でも中綬章は大綬章、重光章に続く3番目の格式があるものらしい。

 こう説明されてもよく分からないものの、功成り名遂げた者は勲章の色を気にし出すというから、左様に有難いものなのだろう。

 そんな旭日中綬章を昨年11月に贈られた42人の中にミツカンホールディングス(HD)代表取締役会長の中埜和英(70)がいる。「酢」でお馴染みのミツカングループの総帥にして、酒造・酢醸造を手掛ける中埜又左衛門家の8代目。なお、自身も2003年に「又左衛門」を襲名したが、14年にはなぜか元の和英の名に戻している。

 他方、ミツカングループの20年2月期の売上高は2407億円、償却前営業利益(EBITDA)は257億円に上る。また、海外売上高比率は5割超に及び、テレビCMをはじめ、広告宣伝活動も旺盛に展開。全国区の会社であるが、いまだ非上場を貫き、本社も創業の地、愛知県半田市に構えたままの〝地方企業〟である。

 そんな中埜の叙勲理由は「産業振興」とされるが、「1804年創業の社齢や企業規模に加えて、それなりの〝努力〟を払ったはずだろうし、ま、妥当な色だろう」(財界筋)。なお、昨年の叙勲では経済界からはトヨタ自動車会長の内山田竹志、パナソニック元社長の中村邦夫が2段階上に当たる大綬章を、1段上の重光章をデンソー元社長の深谷紘一が受章していることを考えると、ミツカンの社格も分かろうというもの。

 しかしながら、尾張半田で勲章を垂れ「食酢の王国」の主として納まっていないのが、この御仁。なんでも東京の都心一等地の不動産を熱心に物色し、いわゆる「地上げ」にまで乗り出しているというから穏やかではない。


逮捕者も出た〝垂涎のビル〟


 東京・渋谷区神宮前――。「表参道ヒルズ」の真向かい、表通りに面した超一等地のビルがその舞台である。一見すると、1階には海外ハイブランドのショップがテナントとして入り、最新ファッションの発信地という光景とは裏腹に、今、このビルを巡って〝泥沼の争い〟が起きているのだ。

 渦中のビルは1971年の築。当初は銀行家一族が建造し、5~6階部分を居宅にしていたが、やがて没落。賃貸部分も含めてすべての所有権を手放し、平成に入ってからは「ハナエモリ」の森英恵一家と、不動産業を手掛けるA家の2家が所有してきた。モデル・タレントの森泉の生家でもある。

 バブル崩壊後、森家が所有部分を売却すると、このビルを巡って数々の不動産ブローカーたちが暗躍することになる。00年代に米ゴールドマン・サックス(GS)が一部を取得する傍ら、所有者から売却を委任されたように装って土地を騙し取ろうとしたとして、コンサルティング会社社長ら4人が東京地検特捜部に逮捕される事件まで発生。有象無象の輩が狙いを定めて跋扈してきたこのビルだが、GSが撤退した14年以降、一気にキナ臭さを増していく。

 不動産登記を確認すると、15年から16年にかけて、GSが手放した2~6階の計9部屋をそれぞれ別名義の法人が購入する。だが、購入9部屋のうち8部屋は同日付の取得であり、法人登記を見ると、設立は9社中8社が同一の年月日。さらに8社の法人設立時には同じ税理士が代表取締役に就任している。つまり、不動産を取得するにあたって〝何者〟かが9社のSPC(特別目的会社)の設立を指示し、それぞれの部屋を購入させたことが強く窺われた。

 ところで、当時の状況を整理すると、このビルの残る区画の主だった所有者は、平成初期から森家と分け合う形でビルを所有してきた先述A家のSのみである。

 そのSにSPC9社を取りまとめた窓口として、不動産ファンドやコンサル業務を手掛ける「タイタンキャピタル」「タイタン・リアルティマネージメント」のグループCEO(最高経営責任者)を名乗る金澤幸緒が接触してきたのは16年10月のことだった。

 金澤はSに対して「購入意向表明書」と題したA4版1枚の紙を差し出した。そこには「タイタンキャピタルがSの所有不動産を50億円で購入したい」と記載されている。突然の申し出をSは拒絶したが、その後も執拗に売却を迫り続けたという。Sの目には、それがある種の「地上げ」行為に映り、恐怖を感じたというが、この金澤については後述する。

 タイタングループの規模や業務からして、同社が不動産購入にかかる莫大な費用を自ら用意し、一連の行動を取っているとは考え難い。誰かの意向を受けて動いていると見るのが自然である。そしてSが人伝に耳にしたのが中埜、その人の名前だったのである。


中埜本人との〝直接交渉〟


 果たして本当に黒幕は中埜なのか―。その真相を自ら確かめるべく、Sは昨夏、半田のミツカン本社へと向かった。そして中埜に面会を求めると、案内された会議室に中埜本人が現れたのだ。

 Sは中埜に問い質した。

「私が所有する不動産について、タイタンが執拗に購入を迫ってくるが、中埜会長の指示なのか」

 そして、もし中埜の指示であるなら、「誰かを挟むのではなく、直接遣り取りして欲しい」と。

 中埜は、タイタンが自らの意向で動いていることを事実上認めた上で、Sとの直接の協議について「のちのちゴチャゴチャになっちゃう可能性があるから」と拒否。さらに、ビルは自らのためではなく、70歳を迎えた中埜が娘2人に不動産を相続させるために取得を目指していると発言したという。

「ご息女お二人に物件を将来的に継がせる時に、きちんとした形で子どもにそれを託すと?」

中埜「まったくその通りです。だってそうしないとね、困るじゃないですか、次の人が」
「(中埜側でビルを1棟所有したいという意味で)『一緒に共同で土地をやりたくないね』っていうのが、まずは私の素直な気持ち」

 ちなみに、中埜には長女の裕子と次女の聖子という40代の娘がおり、ともにミツカンHDの専務を務め、跡取りとしている。

 中埜との交渉は決裂しSは帰京した。のちにSが耳にしたところによると、中埜はこのビルだけでなく、隣接する民家などを含め、周辺一帯の土地取得を目指しているといい、すでに一部を取得しているという。他方、この面会の前後から、ビルを巡るタイタン=中埜側の動きは活発化していく。

 タイタンはビル管理組合の〝実効支配〟を画策し、それまで理事長だったSを解任。タイタン側の複数の人間を理事に据えた。なぜ組合を支配できたのか。

 ビルの管理組合規約によると、複数の区画を所有していたとしても、同一の所有者であれば、組合での議決権は1票となる。だが、中埜側は1区画につきSPCを1社、合計9社設立し、それぞれが所有する形を取っているため、議決権の〝水増し〟が可能なのだ。

 当然、Sは中埜側の議決権は1票に過ぎないと抗議したものの、覆らず、その後は次々とビルの規約が変えられていった。さらに、ビル新築時から組合員がプールしてきた1億円に上る積立金のうち約5000万円がコンサル費用などの名目で、わずかな期間に支出され、Sには事後報告しかないといった状況に陥る。


ミツカンは「答えられない」


 中埜側の動きは止まらない。それまでSPC9社で所有する9部屋のうち5部屋を分割して登記、新たに別法人5社が所有する外形を取ったのだ。所有権の移転日は5部屋とも同じ昨年10月28日で、さらに分割の持分割合は荒唐無稽と言える「1万分の1」。買い戻し特約まで付けられている。

 この不可解な動きが見据えていたのは、ビルの「建替え決議」に他ならない。仮にSの主張が認められ、先行のSPC9社が同一の所有者と見做されれば、議決権は1票にとどまる。しかし、新たに5社を設立すれば、決議に必要な「5分の4以上の賛成」ラインをクリアできる。なお、中埜側はSPC9社については自らの資産管理会社「中埜産業」の子会社と認めているが、新たな5社との資本関係は一切ないと主張する。

「ビル丸ごと1棟所有を目指す」と宣言している中埜側が建て替えを〝強行〟し、仮にSが反対すれば、法律で認められている「売渡請求権」を行使することでスムーズにビルを取得できる、という算段だ。事実、今年を迎えてから中埜側が実質的に支配する管理組合はビルの建替え決議を実施。Sとの議論が最後まで平行線を辿った結果、Sは決議の無効を求めて提訴、法廷闘争を含めた局面へと移行することになった――。

 ここまでが一連の経緯だが、やはり気になるのが、中埜が使っているというタイタングループCEOの金澤なる人物の素性である。ある大手不動産幹部が語る。

「都心一等地にある不動産を中心に活動するブローカー。デベロッパーやゼネコンの間ではその剛腕ぶりを知られており、金澤に狙われると、非常に手強い。そんなこともあってか、不動産をまとめて取得したい一部資産家の間では重宝がられている。00年代には勇名を馳せていたが、中埜さんが金澤と組んでるなんてねぇ......」

 それでは中埜側はどう答えるのか。本誌はミツカンHDに中埜と金澤との関係やその認識についても質したが、「お答えすることはできない」(グループ広報部)。

 件のビルの眼前に広がるのは先述の通り、表参道ヒルズである。同潤会青山アパートの跡地を森ビルが主導して再開発、06年に開業した。森ビルの実質的創業者、森稔は都心の再開発に生涯を捧げたが、六本木ヒルズにせよ、存命中に開業を見られなかった虎ノ門ヒルズにせよ、地権者たちに街づくりの理を説き、長い歳月をかけて新たな街を出現させた。片や中埜側のやり口はまさに「地上げ」と呼ぶに相応しく、同地で生まれ育ったSはその強引な手法に強い嫌悪と忌避を抱いているという。

 森は死後、旭日重光章を遺贈されたが、彼我の差は勲章の色だけではあるまい。

(敬称略、肩書他は掲載当時)

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