ZAITEN2022年03月

問われる業界2位の巨大通信企業の倫理観

KDDIに「裁判所が債権差押命令」の前代未聞

カテゴリ:クレーム・広報

KDDI_高橋誠社長_サイト.jpg高橋誠社長(写真は公式HP)

 業界を挙げての携帯電話料金低価格化に対応すべく、KDDIが昨年9月にスタートした新料金プラン「povo2・0」。この申込に絡んでトラブルが多発している現状を、本誌は昨年12月号でレポートした。

 静岡県在住の60代男性A氏も、povo加入後にトラブルに見舞われた1人だ。

 A氏によると、昨年12月頃から怪しげなSMSがスマホに大量に届くようになり、やがてA氏の番号で「5万円」を請求するメールが不特定多数の番号に送られていたことが分かった。着信したSMSの中にKDDIのカスタマーサポートを名乗るものがあり、これを信じてA氏がインストールしたアプリが、電話番号乗っ取り目的のマルウェアだったのだ。

 KDDIでは、こうした詐欺行為に対して各種の注意喚起を行っているほか、被害に遭ったユーザーへの対応として「規約への保障条項の盛り込みなども行っている」(広報)とのことだが、被害に遭ったA氏は語る。

「もう電話番号を変えるしかないと思い、povoのサポートセンターに連絡したものの、チャット対応しか受け付けていないと説明されました。仕方なくチャットで状況を説明すると途中で何度も途切れてしまい、その度に別のオペレーターに説明し直す無駄を強いられ、解約まで約50時間も掛かったのです。

 その間も詐欺メールは私の番号で送信され続け、SMS使用料は7000円近くになりました。この請求がいまだに送られてくる始末です。料金を安くするためにユーザーサポートをチャットに限定しているのは理解できますが、犯罪に巻き込まれてもチャットでしか対応してくれないというのは大手通信事業者としてあまりに無責任です」

5年間も不当に徴収

 同じ記事ではKDDIの手違いにより同社のインターネット接続サービスに加入したことにされてしまい、5年以上にわたって不当に料金を徴収されていた男性が、KDDIに対して料金の返金を求める裁判を起こし、勝訴したという民事事件についても詳報した。

 本裁判の原告となった愛知県在住の会社員B氏は、10数年前から携帯電話のauや識別番号の入力なしに固定電話を特定の電話会社で掛けられる「マイラインプラス」など、KDDIのサービスを複数利用。一方でインターネットのプロバイダは別の会社のものを利用していた。

 だが、B氏が2012年1月に自宅インターネットの回線変更工事を行った際、マイラインプラスの回線種別変更にかかわる情報をKDDIが取り違え、契約をKDDIのインターネット接続サービスに書き換えてしまうという事故が発生した。この料金はB氏が携帯電話料金の支払いに使っていたクレジットカードから引き落とされ、不当に徴収された総額はB氏が手違いに気づいた17年3月初旬時点で12万円を超えていた。

 B氏はすぐにKDDIに苦情を申し入れたものの、対応した同社「お客様相談室」はB氏を単なるクレーマーとして扱う傲慢な対応に終始。「B氏が自分で申し込んだ証拠がある」などと言い張っては、その後も請求を継続した。

 やむなくB氏は19年3月11日にKDDIが不当に引き落とした料金の返還を求める訴えを名古屋地方裁判所豊橋支部に提訴。審理の結果、同地裁は昨年3月にB氏の訴えを大筋で認め、KDDIに14万5206円(遅延損害金を含む)の支払いを命じた。さらには名古屋高裁も同9月16日に一審判決を支持し、この判決は確定した。

 前回記事では、KDDI側がすでに高裁の期日中から支払金額を法廷に持参し、B氏の面前で現金を「手渡し」しようとしていたのに対し、B氏側が支払いの記録が残る「口座振替」、しかも個人情報である自身の口座番号を代理人弁護士ではなくKDDIに直接伝えることにこだわるなど、料金の返還方法を巡り原告・被告の間に埋めがたい溝があること、そしてこの溝が埋まらないがためにKDDIの敗訴が確定した後も、依然として料金の返還がなされていないところまでを報じた。
 だがそれから2カ月を経て、この事件に新たな動きがあった。

事態はさらなる泥沼へ

 確定判決を受けて、B氏は昨年12月上旬までに債務者であるKDDIが三菱UFJ銀行に保有する口座の差し押さえ(強制執行)を東京地方裁判所に対し申請。その申し入れを地裁は12月10日付で受理し、KDDIに対して請求費用を含む16万円余りの債権差押を命じたのだ。

 これに対してKDDI側は、逆に命令の取り消しを求めて名古屋地裁豊橋支部に12月17日付で提訴。訴状には、KDDIが11月中旬、判決によって命じられた金額を現金書留でB氏の住所に送ろうとしたものの、B氏がこの受領を拒否したため、12月2日に法務局に供託したこと、この供託により債務は消滅しているため、強制執行は認められるべきではないという論旨が書かれている。

 東京地裁もこの提訴を受け、12月23日には命令を一旦は取り消したが、事態はさらなる泥沼化を辿っている。

......続きはZAITEN2022年03月号で。

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