ZAITEN2025年11月号
通常操業に数百万ドル
日本製鉄〝鬼っ子〟USスチールの「深刻な危機」
カテゴリ:TOP_sub
日本製鉄が米USスチール(USS)の買収代金140億㌦(約2兆円)を払い込んだのが6月18日。親会社として「100日計画」で相乗効果発揮の策を練ると宣言した。だが、8月11日、米ペンシルベニア州のUSS主力製鉄所で12人の死傷者を出す爆発事故が発生。かねて取り沙汰された設備老朽化の懸念が的中し、日鉄の描いたUSS再生プランに早くも暗雲が漂ってきている。
通常操業に数百万ドル
事故が起きたのは、USSモンバレー製鉄所クレアトン地区のコークス炉。8月11日午前10時50分頃、最初の爆発があった。爆発事故による死者は2人、負傷者は10人でこのうち5人は重傷だった。同月15日のUSSの発表では、コークス炉のガスバルブの洗浄を行っていた際にバルブが破損し、漏れたガスに引火して爆発した可能性が高いとされた。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』は同13日付電子版で〈試される日鉄の投資計画、USスチール工場爆発〉と事故の深刻さを報じた。 モンバレー製鉄所は米国内4カ所にあるUSSの主要製鉄所の1つで、高炉2基を抱える。日鉄は買収後、米国内で110億㌦(約1・6兆円)の設備投資を28年までの3年間に実施すると米大統領ドナルド・トランプに約束し、このうち22億㌦(約3200億円)をモンバレー製鉄所に投じると公表しているが、WSJによると、その投資計画リストにクレアトン地区のコークス炉の大規模改修は含まれていないという。
コークス炉では石炭を乾留(蒸し焼き)し、高炉の製鋼に不可欠な還元剤や燃料として使われるコークス(石炭の炭素部分だけを残した燃料)を製造する。クレアトン地区には6カ所の炉群があり、コークス工場として国内最大規模。モンバレー製鉄所やゲイリー製鉄所(インディアナ州、高炉4基)向けにコークスを供給していたが、今回の爆発で2つの炉群が停止したと報じられている。
結果としてクレアトン地区の6つのコークス炉すべてがストップする事態は避けられたが、今回の爆発事故により、地元ペンシルベニア州を中心に批判の多かったUSSの安全対策への疑問が再浮上している。同社のクレアトンコークス工場は、これまで度々事故やトラブルに見舞われてきた。
2010年に今回と同様の爆発事故が起き、20人の負傷者を出したのをはじめ、18年のクリスマスイブに大規模火災が発生し、その後数カ月にわたり工場の排出制御システムが停止。米紙『ニューヨーク・タイムズ』は〈この火災で4千万ドルの損害が発生し、多数の人々が呼吸器系の疾患で医療機関を受診した〉(8月12日付電子版)と伝えている。
今年に入ってからも、2月にコークス工場のバッテリー設備の故障で発生したガスが引火して火災を起こし、作業員2人が病院に搬送されたのに続き、6月には制御室の故障で二酸化硫黄の濃度が上昇するトラブルが発生した。
......続きはZAITEN11月号で。