ZAITEN2023年12月号

政府や経済界に振り回される最高学府

東京大学「10兆円ファンド大学落選」の衝撃

カテゴリ:事件・社会

 政府が創設した10兆円規模の大学ファンドの運用益を配分し、世界最高水準の研究大学の実現を目指す触れ込みの国際卓越研究大学制度が本格的に動き出した。最初の支援対象大学を決める公募に10大学が応募し、今年7月の時点では候補が東京大学、京都大学、東北大学の3大学に絞られていた。少なくとも国内トップレベルの東大は選ばれるだろうと、多くの大学関係者は予想していたはずだ。ところが9月1日、文部科学省は東北大だけを最初の支援候補に選んだと発表し、東大は落選した。  

 大学ファンドは当初、年3%で運用し、毎年3000億円の運用益を数大学に配分するなどと喧伝されていたが、2022年度の運用では604億円の赤字を出した。1大学しか支援候補に選ばれなかったのは、この赤字も要因の1つだろう。一方で、審査への疑問もある。国際卓越研究大学の審査の状況は議事録が公開されていない。東大は「全学組織としてのCollege/School of Design創設」を軸に、インクルーシブな研究基盤の整備、人的資本の高度化に向けた改革を進め、「公共を担う組織体」として成長することを掲げた。この構想に対して、審査結果の概要を見ると、College/School of Designの創設を評価しながらも、『既存組織の変革に向けたスケール感やスピード感については必ずしも十分ではなく』と指摘。『総長とプロボスト(教学担当役員)の役割分担や「最高価値創出責任者」の責任や権限の明確化が必要である』と意見をつけた。ガバナンス体制だけが問題視されたとも言える。  

 この審査を担うのが「国際卓越研究大学アドバイザリーボード」の10人。このメンバーのいかがわしさについては、本誌でも6月号掲載の『10兆円ファンドを利権化するワルい奴ら 国際卓越研究大に群がる「門外漢」の政商たち』などで言及してきた。制度全体をコントロールしているのは岸田総理が議長を務め、閣僚6人、有識者7人、日本学術会議会長で構成される「内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)」。このCSTIからアドバイザリーボードに「学者政商」上山隆大ら4人が入っているほか、「稼げる大学」を唱えたITコンサル企業フューチャーの代表取締役社長の金丸恭文もいる。東大の落選理由は見方を変えれば、こうした門外漢の人間が指示したことが即座に実行される独裁体制になっていなかったから、とも受け取れる。だとすれば、それは健全なことではないだろうか。審査結果について東大総長の藤井輝夫は、次のようにコメントを出した。 〈認定候補として選定されなかったことは残念に思います。(中略)自律的で創造的な活動を拡大する「新しい大学モデル」の実現を目指して、引き続き全学を挙げて改革に取り組んでまいります〉  

 東大広報課に今後も応募するのかどうかについて質問すると、次のように回答があった。 〈第1回公募申請の総括やアドバイザリーボードからの意見への対応の検討、そして第2回公募への対応についての方向性検討のために新たにタスクフォースを設置して調査検討することにしました〉

......続きはZAITEN12月号で。

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