ZAITEN2024年02月号

小泉悠『終わらない戦争 ウクライナから見える世界の未来』

小泉悠「国際秩序を維持するためのウクライナ戦争の出口戦略」

カテゴリ:インタビュー

2402終わらない戦争_書影.jpg『終わらない戦争 ウクライナから見える世界の未来』
文春新書/¥850+税

こいずみ・ゆう―1982年生まれ。東京大学先端科学研究センター准教授。専門はロシアの軍事、安全保障。おもな著書に『ウクライナ戦争』(ちくま新書)など多数。

 2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻がはじまった段階では、ウクライナはロシアに対して抵抗しきれないだろうと考えていました。ロシア軍が全力で攻め込むことに、ウクライナ軍の組織的抵抗は長くは持たないと予測したのです。つまり、首都キーウが占領され、ゼレンスキー大統領は退陣させられ、ロシアによる傀儡政権みたいなものが樹立されるだろうと。アメリカをはじめとした西側諸国もそういう想定だったし、ロシア自身もその想定で軍事侵攻を始めていたと思います。

 ところが、1、2週間を経てもウクライナ軍は抵抗を続けました。そして、1カ月を過ぎた段階でロシア軍は首都攻略を諦めます。この段階で、ウクライナは「国家として滅びることはない」と私は認識したし、おそらく西側諸国もそう認識したからこそ、当初の傍観的姿勢から大規模軍事支援に舵を切ることになります。この初めの1カ月という期間が大きなターニングポイントでした。  

 一方で、西側諸国からの軍事援助がはじまると、これはもう「普通の戦争」、つまりある程度長期的な軍事衝突になると多くの有識者が予想したと思います。元々ロシアとウクライナは旧ソ連における№1と№2の国家です。ウクライナが両者の差を欧米諸国の支援で補正して戦うのであれば、当然戦いは長期化するでしょう

 さらに、この戦争が長期化する背景には、現実的な〝落しどころ〟が見えないことがあります。  

 ウクライナとしては最低でも軍事衝突以前の国境に戻すこと、つまり22年2月以前の領土回復が最低条件です。対してロシアは、占領地域についてはロシアが併合したと宣言している以上、その返還とは国土の消失を意味します。当然、プーチンがそんなことを許すはずはないでしょう。  

 また、開戦前のプーチンの言葉を素直に受け止め、「独立したウクライナはロシアにとって脅威」、「将来にわたる危険な状況」だとすると、ウクライナという独立国家が存続すること自体を認めないわけです。この両者の目的は根本的に両立しません。

 戦争の解決において、価値の可分、不可分が重要となります。この戦争がウクライナの何かしら資源をめぐる問題だとすれば、この価値は可分なわけです。資源について「権益の51%を譲渡します」といったように経済的な交渉が可能になります。しかし、プーチンはウクライナの独立をめぐって侵攻しています。親露政権を樹立するといったある種、妥協的な手段もありますが、現状をふまえると、かなりの程度でゼロサムゲームに近く、可分の可能性と比べると不可分な価値の妥協は極めて困難ということになります。

ウクライナの限界

 とはいえ、戦争はどこかで必ず終わりを迎えます。テーブルで決定した政治的合意が軍事的な戦場に反映させるプロセスで終わる戦争もあるでしょう。しかし、国家の存続が焦点となり、根本的に両者に可分な妥協点がない場合は、軍事的な環境がテーブル上の状況に反映されます。  

 では、具体的な解決はどこにあるかを考えてみます。

......続きはZAITEN2月号で。


購読のお申し込みはこちら 情報のご提供はこちら
関連記事

【著者インタビュー】『観光消滅 観光立国の実像と虚像』

佐高信 vs. 古賀茂明「石破総理は企業団体献金廃止を実現させよ!」

【著者インタビュー】『潜入取材、全手法』

【インタビュー】世襲という病、裏金という腐敗

【インタビュー】自衛隊の安定的な運用に貢献する防衛産業は「第4の自衛隊」

【インタビュー】「日大改革を妨げている林理事長〝忖度〟マスコミ」

佐高信 vs. 福島みずほ「家父長制への回帰を望む自民党は許せない」

特ダネ記者「放言座談会」

【著者インタビュー】『旧統一教会 大江益夫・元広報部長懺悔録』

【インタビュー】マスコミ批判の源流は「新左翼系総会屋雑誌」