ZAITEN2026年3月号
人生の困難を超克する松本清張のバイタリティ
【インタビュー】『松本清張の昭和』文芸評論家 酒井 信
カテゴリ:インタビュー
『松本清張の昭和』
講談社現代新書/¥1,100+税
さかい・まこと―明治大学准教授。早稲田大学卒業後、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了。博士(政策・メディア)。慶応義塾大学助教などを経て現職。専門は文芸批評・メディア文化論。おもな著書に『松本清張はよみがえる』(西日本新聞社)、『吉田修一と『国宝』の世界』(朝日新聞出版)など。
―松本清張の作家としての成功について多角的に分析している点が非常に興味深いです。
『松本清張と昭和』(講談社現代新書)は、朝日新聞西部本社時代は貧しく汚い風貌から「よごれ松」と呼ばれた清張が、「国民作家」へとのし上がっていく姿を描いた「初の本格評伝」です。貧しい幼少期から給仕、印刷画工を経て社会に出たのち、41歳で作家としてデビューし、長者番付の作家部門で長年トップに君臨する偉業など、その生涯について記しています。本書では、清張の人生を決定付けたさまざまなエピソードを紹介しながら、彼の特筆すべきバイタリティの源泉に迫ることを試みています。
清張の人生を読み解くキーワードの1つとして、「運」という言葉を挙げることができます。人生の折々に訪れる「運」―それは人との出会いに恵まれていたことです。彼は人生の節々で目をかけてくれた人との関係を通して、運を手繰り寄せ、大きなチャンスを掴み、次のステップへとのし上がっていきます。
たとえば、清張は高等小学校卒業後、九州・小倉で印刷画工の職人として働きます。彼はもともとは幼少期から新聞記者になりたいという夢を持っていたため、印刷画工として朝日新聞社に職を求めます。その際、「巻紙に毛筆」の手紙を支社長に送り、採用してくれるようにアピールするのです。職人だった清張にとって、大卒者の超エリートがひしめく新聞社で働くことは簡単なことではなく、同社は狭き門でした。彼は他者の真似ではない、コミュニケーション上の工夫を行い、見事に採用されるのです。
......続きはZAITEN3月号で。







