ZAITEN2023年4月号

【新連載】井川意高の時事コラム「どの口が言う‼」 第6回

井川意高の時事コラム『どの口が言う‼』6「セクシー田中さん事件」

カテゴリ:事件・社会

「大王製紙と北越コーポレーション、大王海運の確執」が編集部からきた今月のお題だったが却下。一部の業界関係者しか興味無いだろうということと、私は深いところまで知っているから書きにくいというのが理由。「自分のYouTubeのネタにするためだろう」と言うのは下種の勘繰りなのでやめて欲しい。(本当はそうだけど)

 というわけで、私から提案したお題は「セクシー田中さん事件について」。小学館の「姉系プチコミック」の人気連載マンガ『セクシー田中さん』を日本テレビがドラマ化したのだが、脚本が原作とかけ離れていたことを苦にした原作者が自ら命を絶った事件である。  

 X(旧Twitter)など、SNS界では大きな議論を巻き起こし、私もいくつかポストして数多くのインプレッション(閲覧)があった。

 問題となったのは、小学館が当初、対外コメントは出さないと社内通達した事実がわかったこと、日本テレビが実質コメント無しなこと(この原稿を書いている2月15日にやっとコメントを出した)である。  

 SNSが大荒れで非難の嵐となり、原作者が亡くなって10日経った後、小学館が公式サイトに小学館(会社)と担当編集部が同時にコメントを出し、件の脚本家もコメントを発表した。しかもその内容は、互いに大きく食い違うものだったのだ。小学館(会社)は「芦原先生(原作者)のご要望を担当グループがドラマ制作サイドに、誠実、忠実に伝え、制作されました」と主張するのに対し、脚本家は「芦原先生がブログに書かれていた経緯(原作から大きく改変されていることを苦にしていること)は、私にとっては初めて聞くことばかりで、それを読んで言葉を失いました」と述べている。

 悪質なのは日本テレビだ。上述のような原作者と脚本家の齟齬は、原作者の意向を取り次ぐべき小学館にももちろん責任があるが、日本テレビ側(恐らく担当プロデューサー)が真摯に受けとめず、脚本家に伝えていなかったのだと推測される。「面倒な原作者ですみません。まあ、こちらで適当にいなしときますので先生(脚本家)の思うように面白いドラマにしてください」などと言っていたのだろう。その日本テレビが、世間の轟々たる非難にも拘わらず2週間以上も頬かむりしたあげく、出した声明文では「社内特別調査チーム」の設立である。「第三者委員会」ではなく「社内特別調査チーム」だ。どんな調査報告書が出てくるか、もう見え見えではないか。

 自民党の裏金還流問題もそうだが、この国は壊れかけている。政治家もメディアも、問題を起こしても明らかに嘘だと万民がわかる言い訳を堂々する。もはや保身と呼ぶレベルを超え、己の尊厳を自ら踏みにじっているとしか思えない。しかも、今回は人ひとりの命が失われているというのにだ。情けない。  

 余談だが、X上では多くの漫画家達が小学館とその兄弟会社である集英社の社風の違いを指摘していた。その社風が今回の事件の遠因ではないかというのである。

 私が大王製紙時代、両社に出入りしていた時に感じたのは、集英社は本当に優しい会社、社風だなということ。小学館は創業家の相賀昌宏社長(当時・現会長)はユーモアもあり、出入り業者である私にも紳士的に接してくれたが、やはり創業家社長が君臨する緊張感のある会社だと感じた。先代の徹夫社長が生真面目だったことも社風に関係あるのかも知れない。  

 私の父、高雄が先代徹夫社長と軽井沢でゴルフをプレイした時、私も同伴したのだが、相当気難しい性格の父の、徹夫社長への気の遣い様に驚いたものだ。

井川意高(いかわ・もとたか)――大王製紙元会長。1964年、京都府生まれ。東京大学法学部卒業後、87年に大王製紙に入社。2007年に大王製紙代表取締役社長に就任、11年6月~9月に同会長を務める。著書に『熔ける 大王製紙前会長 井川意高の懺悔録』(幻冬舎文庫)など。

......続きはZAITEN4月号で。

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