2021年07月号

私が考える「言論の自由と名誉毀損訴訟」

全文掲載【佐藤優vs.佐高信「名誉毀損バトル」】落合恵子「活字での〝取っ組み 合い〟を読みたい」

カテゴリ:事件・社会

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落合恵子氏(撮影・神ノ川智早)

過去に共著もある佐藤優氏が佐高信氏を提訴した今回の騒動。言論人による、言論人への提訴は、同じく言論を生業にする者の目からはどう見えているのか。両氏のこともよく知る有識者に忌憚のない意見を聞いた――。

 わたしは臆病なので「権力」が嫌いです。あとどれくらい残っているかわからないこの人生を、権力と呼ぶものによって踏みにじられるのはごめんだ、と思うからです。支配と被支配が、悲しいかなワンセットになったこの構造に、どんなに小さくとも風穴を開けたい......。もしそうと呼んでよければ、それがわたしの「impossible dream」です。わたしにとっての「言論」とは、そのために使うものであり、明け渡してはならないものです。


 それで、反原発や反改憲の集まり等で「異議あり」と言っているのです。小さな声ですが。


 でも、「権力が欲しい」と思ったことが一度だけあります。東日本大震災、福島第一原発の事故時、さらにその後の日々においてです。もっと「権力」があれば、もっと拓かれた社会を作ることができる、なによりも、原発を止めることもできると思うからです。「正義を守るためにも力がいるんだなあ。力が欲しいなあ」そう言ったのは『ドラえもん』の、のび太だったでしょうか。何を「正義」と呼ぶかも議論百出といったところでしょうが、まずはシンプルに考えたいテーマです。


 今回の原告と被告になっている佐藤優さんと佐高信さんのお二人は類まれなるパワフルな論客。現代は骨のある論客が、減っているような気がします。政治も経済も、かくも脆弱になったいまこそ、論客が欲しい時です。


 そう考えれば、お二人はかけがえのない存在です。誹りを承知で敢えて言わせていただければ、「もっともっと論戦を交わしていただきたい」と。書き続けることで、問題提起をしていただきたいと願います。共著も出しておられるのですから、活字での取っ組み合いで読ませてください。


 佐高さんは以前からの友人ですが、著書を読んで、「やばい」と思ったたことが全くなかったとは言えません。しかし、より大きな力に向かって「待った」をかける姿勢と思想を持ち続ける意志の力には敬意を抱いています。


 言論はいかなる場でも、誰からも何からも「自由」でなければならないものです。


 とはいえ、「書かれた側の無念さ」は、かつて書かれた側にいたひとりとして理解できます。今回の原告、被告サイドには想像もつかないほど、メディアは「平場で、冠なしの女」には、高圧的であり、支配的です。「男にはわかるか」と「男メディアにはわかるか」は、当時のわたしの大テーマでした。歯を食いしばれば、「リブの女のヒステリー」と書かれました。「書かれた側」でないとわからない無念さです。わたしがメディアの片隅に居続ける理由のひとつもそこにあるのかもしれません。


 メディアの劣化が語られるいまこそ、わたしたちは言論を封殺する可能性をもったものに対してナーバスにならざるを得ません。名誉棄損に対する損害賠償「訴訟物の価格 金1064万円」。この金額を前に、メディアは提訴を恐れ、より及び腰になるでしょう。「言論の自由」のために、それは避けなくてはと思いつつ、「表現された側」のひとりとしては、名誉棄損は1000万円ではとても「合わない」とも、正直思います。
 

作家 落合恵子
おちあい・けいこ―1945年生まれ。執筆と並行して、東京青山、大阪江坂にクレヨンハウスを主宰。総合育児雑誌『月刊クーヨン』、オーガニックマガジン『いいね』発行人。社会構造的に『声が小さな側』の声をテーマにした作品が多い。主な著書『明るい覚悟』、『母に歌う子守唄』、『泣きかたをわすれていた』他多数。

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