ZAITEN2022年05月号

中国・ロシア・北朝鮮の〝攻撃〟に晒される「すでに戦時下」の日本

【インタビュー】渡部悦和「日本はすでに戦時下にある」

カテゴリ:インタビュー

書影_日本はすでに戦時下.jpg「日本はすでに戦時下にある」ワニ・プラス刊(¥1800+税)

渡部悦和 元陸上自衛隊東部方面総監
わたなべ・よしかず―前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長。1978年東京大学卒業後、陸上自衛隊入隊。外務省出向、陸上幕僚副長を経て東部方面総監。2013年退職。元米ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。『米中戦争』など著書多数。

「日本はすでに戦時下にある」
 そう聞いて、多くの人は「一体どこが?」と思うかもしれません。しかし、日本は毎日、途切れることなく「見えない攻撃」に晒されているのが現状です。  例えばサイバー攻撃。日本企業のうち、実に52%が何らかのランサムウェア(身代金型ウイルス)攻撃を受けた経験を持ちます。さらには「情報工作」や「経済戦」など、多くの人の目に見えないところで、日々戦いが繰り広げられている。私はこうした現状を「オールドメイン戦=全領域戦」と呼んでいます。

 かつて戦争と言えば「陸海空」の領域で、軍人により、戦車や戦闘機を使って展開されるものを指しました。さらには「有事」と「平時」もはっきり区別されていた。しかしその後、領域に宇宙空間、さらにはサイバー領域が加わると、私たちが考慮すべき「戦い」の形は大きく変わりました。

サイバー空間は常に〝戦時下〟

 特に認識しなければならないのは、サイバー空間で展開される「情報戦」で、戦時だけでなく平時から、途切れることなく戦いが繰り広げられている点です。中でも重要なのは、多くの一般国民に対する「認知領域」、脳に対する攻撃です。ここでは実に私たち一人ひとりが、常時、攻撃や工作に晒されることになったのです。  こうした現状を多くの人に知ってもらわなければならない。そんな思いで、『日本はすでに戦時下にある』を上梓しました。  

 発売から間もない今年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、彼らの言う「特別軍事作戦」を開始したため、日本でも「戦時下」という響きがより現実味をもって捉えられているようです。しかし厳密に言えば、ロシアのウクライナに対する「攻撃」は、この日に始まったのではありません。軍事作戦を開始するはるか以前から、ロシアは常態的にウクライナに対する情報戦、サイバー空間を通じての情報窃取、社会システムへの攻撃を行っていました。  

 中でもロシアは、先に示した認知領域、つまり人間の脳を巡る戦いをソ連時代から得意としています。ロシアは積極的にフェイクニュースをネット上に拡散し、「何が事実で、何が嘘なのか」を曖昧にさせることで、自国に有利な状況を作り出そうという工作を継続的に行ってきました。

 今回のウクライナ侵攻でも、駐日ロシア大使館のツイッターアカウントが、ウクライナが「生物化学兵器を製造」「核開発をしていた」「ロシア系住民に対するジェノサイドを行っていた」などの偽情報を毎日発信しています。

 こうしたロシア偽情報は一見、荒唐無稽ですが、「工作情報・偽情報」を鵜呑みにした日本の「陰謀論者」たちは、ウクライナ侵攻に対して「ロシアは悪くない」「プーチンはトランプと一緒にディープステート(影の政府、黒幕)との戦いを展開している」などと真剣な顔で主張しています。しかも、こうした陰謀論者には、過去にウクライナ大使や防衛大学校の教授まで務めた馬渕睦夫氏のような影響力のある人物まで含まれます。こうした認知の歪みが広範囲に広がれば、世論や政策にさえ影響しかねません。  

 例えば昨年1月には、陰謀論を信じる「Qアノン」と呼ばれる人たちが米議会を襲撃、死者まで出る大事件になりました。日本も決して他人事ではありません。今、日本における戦いの最前線は認知領域の戦い、つまり陰謀論者との戦いだと言っても過言ではないのです。

......続きはZAITEN5月号で。

購読のお申し込みはこちら 情報のご提供はこちら
関連記事

池田清彦「決定的になった日本の凋落〝自己家畜化〟への提言」

佐高信 vs. 石破 茂「石破茂は田中角栄の〝感覚〟を受け継いで決起せよ‼」

【著者インタビュー】俺たちはどう生きるか

特ダネ記者「放言座談会」

特ダネ記者「放言座談会」

【著者インタビュー】『情報公開が社会を変える』

小泉悠「国際秩序を維持するためのウクライナ戦争の出口戦略」

佐高信 vs. 寺田俊治「メディアは『反体制』の人で構成した方が健全だ」

小塚かおる「安倍晋三 vs. 日刊ゲンダイ」

【著者インタビュー】『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』