ZAITEN2022年011月号

【対談】抗う社会部遊軍記者×気鋭の政治学者

望月衣塑子×白井聡「朝日新聞が捨てた新聞ジャーナリズム」

カテゴリ:インタビュー

日本解体論_書影.jpg『日本解体論』 朝日新書/¥910+税

―まずは今回の対談本『日本解体論』を上梓したきっかけからお聞かせください。

白井 初めて腰を据えてお話ししたのは、今年の年明けぐらいでしたか。

望月 その前に一度、白井さんが『国体論 菊と星条旗』を出された頃、田原総一朗さんの番組でご一緒したことがありましたが、その時はあいさつ程度でした。それまで私の中の白井さんのイメージは、書いている内容が骨太だから、きっと「憂鬱でややこしくてコワい人」(笑)。でも、実際にお会いするととてもソフトな方でした。それは性格だけではなくて、考え方も柔軟というか。たとえば本の中にも出てきますが、リベラル系のネットメディア「CLP(Choose Life Project)」問題の議論では、私と白井さんで意見が違いましたね。

白井 今年1月、CLPが立ち上げの際に立憲民主党から約1500万円の資金提供を受けていたと判明した件ですね。望月さんは抗議文を出してこの問題を公にした出演者の一人でした。筋論で言うと、CLPは最初から資金と人脈を公然とするべきだった。  しかし、この一点で叩きすぎると、そもそもこの国のメディアが抱えている根本的問題を見誤るでしょう。まず、リベラル・左派系は絶対的に資金が不足している。対して与党側はジャブジャブとカネを使えるわけです。国家権力と癒着した業界団体やスポンサーを多数抱え、さらに官房機密費なんてものもありますから。

望月 白井さんは、おかしい物事は徹底的に批判するけども、日本政治史の視点から、ある種の政治的妥協の状況を冷静に俯瞰していますよね。対談中に何度も「なるほど、左右でははっきり分けられない政治も、それはそれで重要なのだな」と思わされました。

白井 私には守るポジションがありませんから。どこぞの評論家と違って官房機密費を一銭ももらっていないので(笑)。

望月 それで言うと、大正時代にアナキストの大杉栄が、時の内務大臣である後藤新平からお金をもらっていたという逸話が興味深かったです。

白井 発行していた雑誌の発禁処分が繰り返され、困り果てた大杉が後藤に金を無心した。要は「こんなに俺たちが窮乏しているのはあんたたちのせいだ」という理屈で直談判したんです。後藤からは「アナキズムは激しすぎるから国家社会主義くらいにしてくれ」と言われたが、断って500円を手に入れた。そう大杉は自叙伝で書いています。  とにかく反対体制側にカネがないのは世の常。資金を受け取っても堂々としていればいい。それができないなら墓場まで持っていけ、と。CLPの問題の本質は、「言論の自由」を具体的にどう確保するかということに尽きると思います。

もちづき・いそこ― 1975年、東京都生まれ。東京新聞社会部記者。慶應義塾大学法学部卒後、東京・中日新聞に入社。東京地検特捜部担当を歴任。社会部でセクハラ問題、武器輸出、森友・加計学園問題などを取材。菅義偉官房長官への会見での質問が話題となる。経済部などを経て社会部遊軍記者。著書に『武器輸出と日本企業』、『新聞記者』、共著に『同調圧力』、『「安倍晋三」大研究』、『安倍政治 100のファクトチェック』など多数。

しらい・さとし― 1977年、東京都生まれ。思想史家、政治学者、京都精華大学教員。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院社会学研究科総合社会科学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。主にロシア革命の指導者であるレーニンの政治思想をテーマとした研究を手掛けてきたが、3.11を基点に日本現代史を論じた『永続敗戦論―戦後日本の核心』(太田出版)により、第4回いける本大賞、第35回石橋湛山賞、第12回角川財団学芸賞を受賞。著書に『未完のレーニン』(講談社)、『武器としての「資本論」』(東洋経済新報社)、『長期腐敗体制』(角川新書)など多数。

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