ZAITEN2023年12月号

小林美香『ジェンダー目線の広告観察』

【著者インタビュー】『ジェンダー目線の広告観察』

カテゴリ:インタビュー

小林美香_ジェンダー目線の広告観察_書影.jpg『ジェンダー目線の広告観察』
現代書館/2,000円+税

こばやし・みか―1973年生まれ。大阪大学文学部卒業、京都工芸繊維大学大学院修了(博士)。東京造形大学、九州大学非常勤講師。著書に『写真を〈読む〉視点』、『〈妊婦アート〉論:孕む身体を奪取する』(ともに青弓社)。

―「歴史は繰り返すから広告を観察し、記録する」に関して
 元々、美術館で仕事をしていて、展示される作品としての写真を扱っていました。いわゆる美術館にある作品を鑑賞する人の見方は能動的ですが、広告はどちらかというと受動的です。電車の中の広告も気にしなければ、通り過ぎてしまいます。  

 第二次世界大戦前のプロパガンダを目的に開催された展覧会について論文を書いたこともあり、東京五輪招致段階から、全体主義的な流れを感じていました。歴史は繰り返すので、最初は今起きていることを忘れないために広告を観察して、記録しておきたいという気持ちが本書の出発点でした。  

 ある時期に支配的な価値観があって、それを踏まえてこの広告が作られていると判断するには、時間と相対化が必要だと思います。美術の仕事をしていた時、作品が残るというのは時間の試練に耐えることだと感じる場面が多かったです。どのような創作物であれ、同時代の人々の記憶に刻まれるのは困難なことなのですが、世代を超えて伝承され、美術館のような場所に保管されるには様々な人の手を介さなければなりません。広告も人の手を介さないと残すことはできないですし、残らなければ後に検証することもできません。  

 広告研究には様々な手法があると思うのですが、私は、ある広告がそれを含む環境としてどういう状態を作り出しているのか、広告と環境の関係を視野に入れて考察しています。  

 例えば、電車で脱毛の広告の隣に増毛の広告があった時、出稿企業がどこまで意図しているかわかりませんが、体毛・頭髪をコントロールすべきという価値観が非常に強い支配力を持っているという見方をします。そして、その価値観の中で消費者の身体はどのように扱われているのか、ということを考えます。

―組織へ従属することでしか輝くことが認められないことへの違和感に関して
 大塚製薬のCMがその傾向が強いと思うのですが、学校や企業のような帰属する組織に従属し、その中で活躍・達成感を味わうことを繰り返し描いて称揚しています。  

 例えば、カロリーメイトのCMで野球部の先輩後輩の男性たちの絆を描いたものが好評を博していたのですが、厳しい部活やブラックな就労環境でのハラスメントを背景に「絆」を美しく描く発想がグロテスクだと感じます。〝青春〟を美しく描いている広告なので、共感する人がいるのもわかりますが、ホモソーシャルな関係を美化して描くその方法には違和感しかありません。



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