2020年10月号

四半期初の赤字決算〟発表当日に――

キヤノン御手洗「赤字決算」でも野球観戦

カテゴリ:企業・経済

 この9月で齢85になるキヤノンの御手洗冨士夫。1995年の社長就任から25年、今なお「代表取締役会長兼社長CEO(最高経営責任者)」の地位にある。

 確かに4月までは会長CEOだったものの、5月1日、社長COO(最高執行責任者)の真栄田雅也(現・技術最高顧問)が突如、「健康上の理由」で退任、御手洗が社長に返り咲いた。実に3度目の社長登板(会長兼務も含む)。キヤノンが依然として「御手洗商店」であることと同時に、後継人材が一向に育っていない現状を改めて内外に見せつけた。

 そして、7月28日。キヤノンはこの日、2020年4~6月期の四半期決算を発表したが、最終損益は88億円の赤字(前年同期は345億円の黒字)。キヤノンにとっては四半期ベースで初の赤字転落となった。結果、6月末の配当は40円と前年同期から半減、20年12月期の純利益予想は430億円の黒字ながら、前期比で66%減。新型コロナウイルスの感染拡大に直撃された格好だ。

テレビ中継でも...

 ところで、この日の決算発表は副社長CFO(最高財務責任者)の田中稔三が、コロナ禍を受けてのリモート会見で対応し、無論、御手洗本人が出席することはなかった。ところがその夜、御手洗は意外なところに顔を出していた。東京・後楽園の「東京ドーム」である。

 読売ジャイアンツvs.横浜DeNAベイスターズ戦――。そのバックネット裏の特等席で、マスク姿の御手洗が野球観戦に興じていたのだ。その日の昼に自らの会社は赤字決算を発表したばかりにもかかわらず、である。

 午後6時スタートの同試合の映像を確認すると、1回表から御手洗が供の者を連れて最前列で試合を見守っていることが分かる。3回表までには、御手洗と通路を隔てた隣の席にスーツの男2人が加わり、4人揃っての観戦に。そして、4対2で巨人が勝利する9回表の試合終了まで、そんな光景が続いた。ちなみに試合映像を見る限り、御手洗含め全員がマスクを外すことはなく、表情は読み取れなかった。しかし、熱狂的な「巨人ファン」の御手洗には、さぞや楽しい一夜だったに違いない。

 さらに複数のキヤノン関係者に確認すると、通路を隔てて御手洗の隣に座ったのは、キヤノンマーケティングジャパン社長の坂田正弘であることが分かった。他の2人もキヤノンの関係者といい、バックネット裏を御手洗一行で占めていたというわけだ。

 それでは、社員の目には御手洗の野球観戦はどのように映ったのか。その観戦風景を実際に見たというキヤノン関係者は、

「会社は赤字決算で惨憺たる状況にあるというのに、会長兼社長の本人は呑気に野球観戦。しかも、赤字決算発表の当日に、です。さすがの御手洗会長でも、テレビで中継されていることを知らないはずはないでしょうから、ステークホルダー(利害関係者)に見られても〝我関せず〟だったということ。そんな態度に、社員たちは怒りを超えて呆れ返っています」

 と憤りを隠さない。

観戦は「読売からの招待」

「観戦は、東京ドームで開催された今年初めての有観客試合であったことから、読売新聞社様からご招待いただいたもの」

 キヤノン広報部は本誌の取材にこう回答した。また、読売は「カメラ事業を中心に大変重要なお客様」(同)といい、赤字決算発表当日にトップの御手洗が観戦したことについても「重要なお客様から招待を受けて終業後に観戦に行くことと、弊社の経営に関することとは別次元」(同)という。

 確かに、読売・巨人はキヤノンのみならず、御手洗にとっても重要な存在だ。10年から御手洗は読売新聞グループ本社の監査役を務めている上、財界人による巨人応援団体「燦燦会」の会長も10年にわたって務めている。「東京ドームで子息と思しき男と一緒の姿をよく見かける」(別の関係者)という御手洗は、燦燦会事務局の運営でも社員を動員することがあるのだとか(広報部は否定)。

 たとえ招待であろうが、自社の苦境を尻目に巨人軍に興じる御手洗を、多くの社員が苦々しく見つめていることに変わりはない。

「会社の戦略はコストカットばかりで、社員の給与も下がり続けている。この期に及んでも本人が社長を続けるほど、人材が払底しているというのも、元はと言えば、会長が後進を育てて来なかったから。いまや会長の周囲はイエスマンしかいない状況です」(同)

 コロナ禍のニューノーマル(新常態)で、主力のオフィス事業の大幅な見直しが求められるキヤノン。しかし、御手洗の視線の先にあるのは、齢94の読売の最高権力者だけなのかもしれない。とすると、あと10年は〝旧常態〟が続くことになる。(敬称略、肩書他は掲載当時)

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