2021年06月号

NHKの現状に我慢も限界「いい加減にしろ!」 衆議院議員 後藤田正純インタビュー

【全文掲載】【NHK特集】NHK放送センターは「渋谷」から移転せよ!

カテゴリ:インタビュー

衆議院議員 後藤田正純インタビュー

 大前提として、私はマスメディアには権力の監視機能が求められて然るべきだと考えています。政治家がNHKの個別の放送内容や番組編成について介入することはあってはなりませんし、私も口出しするつもりは毛頭ありません。  その上で、私たち政治家が国民の代表として点検せねばならないのは、公共放送としてのNHKの透明性と公平性です。  放送法の規定により、受信可能な設備を設置すると自動的に受信料契約をすることになります。NHKの視聴を望まない人も存在しますから、民主主義国家としてこの規定をどう考えるかという議論には、古くて新しい話として真摯に向き合うべきでしょう。  代表的なのが肥大化する予算とコストの問題。NHKには年間7000億円の予算(事業収入)が計上されます。2019年度決算では受信料による収入が7115億円あり、民放在京キー局の売上高と並べると頭抜けた存在です。  一方、受信料の徴収コストである営業経費には759億円も費やされており、実に受信料収入の1割超に当たります。英仏などと比較して極めて高い比率です。これひとつとっても、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の中でもっとコストを削減し、経営のスリム化を図れるのではないかと思えてなりません。


開示されない番組制作費


 個別の番組制作費やスポーツなどの放送権料が非公表であるケースが多いのも問題です。コストがしっかり可視化されなければ、視聴者は半ば強制的に契約させられているにもかかわらず、その受信料が妥当か否かを正しく判断できなくなります。  また、「本社」である東京・渋谷のNHK放送センター建て替え計画には、1700億円の経費が想定されています。放送法ではNHKについて「主たる事務所を東京都に置く」と決められていますが、都心の一等地にあれだけ巨大な建物を構える必要性があるのか。私は地方に移転させて、より利益を生み出すプロフィットセンターの民間企業に土地を売る方が良いと思います。政府が進める成長戦略を考えても、その方が合理的ではないでしょうか。

 戦後に国営放送から公共放送となったNKHは社会の公器であり、コストセンターと言えます。社会インフラ産業を担う公益的な企業は、やはり自社の利益のみを追求すべきではないというのが私の基本的な考え方です。  他方で、「民」ができることと「官」がなすべきことの区切りを見定めるのが政治のひとつの役割ですが、これまで「官から民へ」と組織改変しても、言わば「喉元過ぎれば熱さを忘れる」パターンが多かったこともまた事実です。  例えば、私の大叔父の後藤田正晴(05年死去)は、1980年代の中曽根行政改革で国鉄(現JR)、日本電信電話公社(現NTT)、日本専売公社(現JT)の3公社の民営化を推し進めました。サービス面の向上や経営の健全化など、ひとつのステップとして評価されています。しかし、私から見れば、旧3公社民営化から35年が経過した今日も、そのグループ会社や関連会社も含め、実質的には〝競争なき〟業務独占と地域独占の傾向が強いと言わざるを得ません。  その観点から、放送事業をどう考えるべきか。周波数帯は公共物ですから、民放も含めて電波利用料が安すぎると昔から言われ続けています。
 また、現在はインターネットの発展による競争の激化で、テレビも厳しい状況に置かれています。「競争」によって、価格だけでなくコンテンツの強度も洗練されていくはずなので、視聴者にとっては喜ばしいでしょう。  ですが、前述したように、民間でありながら公益的な要素の強い業界には、いまだ独占的業態が故に「健全な競争」が働き難く、消費者のニーズが十分に反映されるとは限りません。一方で、それは必ずしも市場を最優先しないという意味において、公共放送のメリットにもなるはずなのです。  つまり、コストセンターだからこそ、現代の時代性や社会風潮の中で、公平性と透明性を前提に、NHKの存在価値があらためて確認されねばなりません。


「大相撲中継」の正当性は...

 例えば多様性の時代において、番組自体のジェンダーバランスはどうなっているか。NHKは大相撲の年間6場所を中継していますが、いまだに角界では女性は土俵へ上がるべきではないという差別的価値観が温存されている。あるいは、スポーツ放送の男女比率の問題も同根です。サッカーや野球など、圧倒的に男子スポーツの放送量が上回っています。  米国の場合、教育機会の均等などを定めた連邦法「タイトル・ナイン」で、学生スポーツにおける男女差別や格差を是正するようになっています。ところが日本では、公共放送において男女格差を助長するようなスポーツ放送になっていないか。大相撲中継が「国民的番組」という認識は正しいのか。年間数十億円ともされる放映権料があるのならば、女性スポーツの中継にもっと予算を割くのが公共放送の責任ではないのか。  あるいは、生活に不可欠な災害報道などの情報インフラと分割した上で、エンターテインメントについては民間の広告を導入するという「ハイブリッド型」の経営も今後のNHK改革の方向性として私は否定しません。であるならば、なおさらNHKの放映権料が市場原理を歪めていないか、我々はチェックすべきでしょう。

 今回、NHKは受信料の値下げを表明しました。同時に放送法改正案は、受信料値下げに関連する積立金制度と、未納受信料の割増金制度の新設を柱にしています。受信料値下げの議論自体は自民党内でも以前から相当行われてきたのですが、同床異夢でどこか及び腰の人たちも若干数いました。結局、一部の政治家の側にも「NHKや総務省と懇ろでありたい」という気持ちが無きにしも非ずなのかもしれません。  しかし、繰り返しますがNHKは公益的なコストセンターです。立法府と総務省が、その事業の公平性と透明性をチェックしなければ他に誰がやるのでしょうか。公共放送を巡る構造問題として、今後もNHKが抱える問題に切り込んでいきたいと思っています。

ごとうだ・まさずみ―衆院議員。1969年生まれ。93年慶応大学卒業後、三菱商事入社。2000年衆院選挙で初当選。以降、連続当選7回。内閣府副大臣や自民党副幹事長などを経て、現在党政務調査会長代理。

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