ZAITEN2021年07月号

【全文掲載】古賀茂明インタビュー

古賀茂明インタビュー「暴走する菅政権は 『官邸官僚』も止められない」【6/9全文公開】

カテゴリ:インタビュー

 日本学術会議任命問題、長男の総務省接待問題、後手後手のコロナ対応。菅義偉を取り巻く官邸官僚たちは政策面でまったく機能していない――。経済評論家の古賀茂明氏に話を聞いた。

60855726ef84db51f1d16b30757cbaf4eb92fe17-thumb-240xauto-507.jpg「菅政権には致命的欠点がある」と語る 古賀茂明氏

 昨年9月に「安倍政治の継承」を掲げて発足した菅政権は、当初、70%前後という歴代屈指の支持率を記録しました。この異様に高い数字の理由はなんだったのか。6月10日発売の『官邸の暴走』(KADOKAWA)では、その謎解きをしながら、安倍晋三政権から菅義偉政権へという流れの中で、日本の政治と経済が今後どうなっていくかを論じています。  

 そもそも、第2次安倍政権を支えたのは、当時の今井尚哉首相秘書官や長谷川榮一首相補佐官に代表される、いわゆる〝官邸官僚〟たちです。本書を書き始めたのは、ちょうど安倍氏が総理を辞任する頃。順調に滑り出した菅政権でも引き続き、和泉洋人補佐官ら官邸官僚たちが重要な役割を果たすのではないかと見られていました。  

 ところが、日本学術会議の任命問題で早々に躓き、総務省の菅長男接待問題などスキャンダルも続出、そして後手に回った新型コロナ対応により政権支持率は急落しました。もともと、私は菅義偉という政治家の能力を評価していませんでしたが、意外なほど早く化けの皮が剥がれたという印象です。同時にそれは、これまで大きな存在と見られてきた官邸官僚が、実は政策面でほとんど有効に機能していなかった事実を裏付けたとも言えるでしょう。

菅政権下での官邸官僚

 たとえば、今井氏が主導した一斉休校を見ても分かるように、彼らの政策立案能力はかなり低い。実際、「外交の安倍」と嘯いたものの、ロシア外交で北方領土問題はゼロ回答、対米国では貿易協定で大敗、北朝鮮の拉致問題も何ひとつ進展しませんでした。  また、安倍政権が最重視した経済でも、マクロ政策によって株価や不動産価格が上昇したに過ぎず、実質賃金の下落で格差を広げ、大多数の国民を貧しくしました。1990年代から2002年まで世界ランクで一桁だった1人当たりのGDPは、20年にはなんと世界23位まで転落しています。

 企業レベルで見れば、時価総額世界トップ100に入る日本企業はトヨタ、ソフトバンクグループ、ソニーグループの3社だけ。DXや再生可能エネルギーなど重要分野でことごとく世界から遅れをとっています。かつて圧倒的シェアを誇った日本の半導体産業の落日はその典型です。落ちぶれた日本経済の舵取りを後継の菅政権に託してよいのか。本書ではそのリスクの検証にも力を入れました。  いずれにしても、こうした醜態から、安倍政権は「レガシーなき長期政権」と言われたわけですが、逆に、私は4つの〝負のレガシー〟があったと考えています。それは「官僚支配」「マスコミ支配」「戦争のできる体制づくり」、そして「地に落ちた倫理観」です。  

これこそ菅政権が「継承」したものの本質です。とりわけ官僚支配については、安倍政権時よりギアが一段上がっています。

 実は安倍氏は〝思い込み〟で政権を運営していたので、憲法改正や安保法制、いわゆる「アベ友案件」といった首相の関心事がはっきりとしていました。逆に関心の薄い事項には出張らず、基本的に各省庁へ丸投げ。つまり、官僚たちからすれば〝安全地帯〟が見えている分、ある程度は好き勝手に動きやすかったのです。

"負のレガシー"を断ち切れ

 ところが、菅首相にはこだわりのようなものが見えない。心の底からやりたい政策があるとは思えないのです。逆に言えば、菅氏の場合、官房長官時代からいろいろな人間と会食をしてきて、そこで自分が面白いと感じた事柄がいわば〝思いつき〟で重要政策となる。官僚側からすれば、どこが「菅案件」になるか予想がつかない。すると、官僚は何をやるにしても、事前に「念のため官邸にお伺いを立てておこう」となります。しかも、菅氏は首相就任時に「反対する官僚は異動してもらう」と宣言までしている。安倍氏でさえここまでは言い切りませんでした。前政権以上に官邸主導が強まり、各省庁の忖度が横行して、行政がねじ曲げられるでしょう。  

 もっとも、民主主義の原則論としては、官邸主導は決して間違っているわけではありません。内閣が国民のために一生懸命働いている場合には、言うことを聞かない官僚を更迭してもよい。ただし、安倍内閣や菅内閣は選挙に勝ったとしても、決して国民のために働いているとは言えません。そうなると、官邸主導の政治の中で、官僚は国民のためではなく、権力者個人のために働かされることになります。その最たる例が、官僚による公文書の改竄でした。

 森友問題を巡り、国有地売却の決裁文書を改竄させられた近畿財務局の赤木俊夫さんは、その経緯を記した「赤木ファイル」と呼ばれる資料を残しました。ニュースなどで赤木さんが紹介される際、「公文書改竄を苦にして自殺した」と説明されることもありますが、彼は決して精神的に弱かったから命を絶ったのではない。  赤木さんの手記を読んで分かるのは、佐川宣寿氏ら財務官僚がみんな逃げる中で、悪いことをしたと認める勇気を唯一、持っていた役人だということ。彼は本当に国民のために働くことを生きがいとする、強い人だった。赤木ファイルは、真実を伝えるための命懸けの告発だったのだと思います。  これまで国側は赤木ファイルの存否の公表すら拒否していましたが、5月6日にようやくその存在を認めました。ところが、それでも菅首相は、赤木ファイルを踏まえた事件の再調査を否定しています。実は、菅氏は昨年9月の自民党総裁選を控えた討論会でも、「財務省の調査と検察の捜査で結果は出ている」との理由で再調査はしないと明言していました。

 要するに「逮捕されなければ問題ない」という論理です。安倍氏が地に落とした倫理観は、確実に菅政権へと受け継がれました。総務省の菅長男接待問題で、官僚たちは「利害関係者という認識はなかった」と誰でも分かる嘘をつきましたが、これも安倍氏が加計学園問題の時に国会で示した言い訳に倣ったものです。

 菅政権では、とにかく頑迷な首相に対し、優秀な官僚が提案をし難いという致命的欠陥も抱えています。安倍から菅へつながれた〝負のレガシー〟を断ち切らなければ、この国に未来はありません。

◆プロフィール◆

こが・しげあき―1955長崎県生まれ。東京大学法学部卒業。政治経済評論家。古賀茂明政策ラボ代表。元経済産業省官僚。産業再生機構執行役員、経済産業政策課長、内閣審議官など改革派官僚として活躍。主な著書に『日本中枢の崩壊』『日本を壊した霞が関の弱い人たち』など多数。

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