ZAITEN2021年11月号

望月衣塑子インタビュー

東京新聞記者・望月衣塑子「総裁選報道ばかりで本質を伝えないマスメディアの堕落」

カテゴリ:政治・国際

望月衣塑子_撮影2021.jpg東京・中日新聞記者 望月衣塑子
もちづき・いそこ―慶應義塾大学法学部卒後、東京・中日新聞社に入社。社会部でセクハラ問題、武器輸出、森友・加計学園問題などを取材。政権中枢のあり方への問題意識を強め、著書『新聞記者』が、19年にドキュメンタリー映画として公開。同年「税を追う」取材チームでJCJ大賞を受賞。

 8月に『自壊するメディア』(講談社+α新書)を上梓しました。ドキュメンタリーディレクターの五百旗頭幸男さんとの共著です。五百旗頭さんは富山ローカル局のチューリップテレビ時代に、富山市議会の政務活動費不正問題を追ったドキュメンタリーを撮り、2020年に映画版『はりぼて』(共同監督=砂沢智史)を公開しました。これが面白く、ロングインタビューを申し込んだのが出会いです。「権力の監視」というメディアの使命について、私たちの経験から見つめ直しています。  出版からまもなく、菅義偉首相が自民党総裁選への不出馬を表明したことで、図らずとも安倍・菅政権を総括する本になりました。  この間、8月6日の広島平和式典では原稿を読み飛ばすなど動きに精彩を欠き、お膝元である横浜市長選でも惨敗。内閣支持率は30%を切り、自民党内でも「菅さんでは選挙に勝てない」という声が大きくなっていきましたが、それでも菅氏の性格を考えると、自ら降りたのは驚きでした。  菅氏は人事の〝飴と鞭〟を繰り返すことで上り詰めた政治家です。言うことを聞かない人間は徹底して干しあげる。そんな菅氏らしく、最後もやはり人事権を駆使して自らの権力維持を図ろうとしました。  下村博文氏には「総裁選に立候補するなら政調会長を辞任しろ」と圧力をかけ、岸田文雄氏が「党役員は1期1年、連続3期まで」と表明すると〝争点潰し〟で二階俊博幹事長交代の方針を打ち出し、解散総選挙をチラつかせながら総裁選前の党役員人事を模索しました。まさになりふり構わない人事で政局を乗り切ろうとしたのです。  しかし、結果は周知の通り。8月31日夜に毎日新聞が〈首相、9月中旬解散意向〉と報じ、これが党内で反発を招きました。一説には情報の出どころは二階氏周辺とも言われています。その日の夜、安倍氏から「いま解散をやるべきではない」と電話がきて、翌日、菅氏は必死で火消しをせざるを得なくなりました。外堀を埋められ、4日連続で面会した小泉進次郎環境相は幹事長打診を拒絶、事実上の最後通牒を突き付けたと取り沙汰されました。その小泉氏が記者の囲みで菅氏の不出馬を涙ながらに語ったのですから〝茶番〟以外の何ものでもないでしょう。

総裁選報道ばかりのテレビ

 この記事が出る頃には次期総理が決まっていますが、今は総裁選の報道が加熱している最中です。「テレビが自民党総裁選ばかりでウンザリ」「政局より先に報じるべきことがたくさんあるだろう」という声も聞こえてきます。  私の所属する東京新聞では、まず新型コロナの〝第6波〟に備えるべきという立場から、原則として朝刊トップは総裁選でなくコロナ関連のニュースを伝えています。たしかに総裁選の政局報道の比重が増えすぎると、人々の生活から乖離して、特定の政党や政治家の宣伝になりかねないという危惧は私自身も抱いています。  1年前の総裁選を思い出してください。二階氏がいち早く菅支持を表明したことで、勝ち馬に乗ろうと主要5派閥が固まり、総裁選の前に趨勢が決しました。メディアも菅氏が新総理で間違いないと踏み、他の立候補者の政策論や争点をおざなりにして、菅氏の来歴や「パンケーキおじさん」などのエピソードに注力しました。  結果的にメディアは菅氏の国家観や弱者に向ける目線の乏しさ、そして、目的は自らの権力維持でしかないという空虚な本質を、見落としてしまったと思います。  しかし、今回もそうですが、政権交代への道筋が見えづらい中の自民党総裁選は、事実上、次の総理に一番近い人物を決めるイベントになります。また、同じ自民党議員でも、直接取材すると実はリベラル寄りであるとか、高市早苗氏のように過度にライトウイングだとか、いろいろな人がいます。今後、党の中心に誰が入って影響力を発揮するかという面においても注目に値します。

安倍に擦り寄る候補者たち

 重要なのは、取材対象に対し、どこまで客観的に批判できるかということです。五百旗頭さんはもともとキャスターでありながら記者的な取材をやってきました。スポーツ担当の時は地元のプロバスケチームの給料未払い問題を報じ、社内や同業他社からも浮いていたといいます。監督から嫌われ、会社幹部から白い目で見られても取材し続けた。記者クラブ制度に慣れているマスメディア記者に求められるのは、まさに五百旗頭さんのような姿勢ではないでしょうか。  たとえば河野太郎氏にしても、出馬会見でかつての持論である「原発ゼロ」を封印したことを記者に質され、「カーボンニュートラルを2050年前までに達成する」などと言い訳しましたよね。彼が何に忖度しているのか、真の権力の所在はどこか、そうした論点が浮かび上がると思います。  1年前の組閣時、「安倍政権の継承が使命」と語った菅内閣が倒れたことからも、世間には〝安倍・菅的なもの〟から離れた自民党の変化を期待する雰囲気があります。しかし、蓋を開ければ、候補者は揃いも揃って安倍氏に擦り寄りました。  岸田氏は森友問題について強気な姿勢で調査するようなことを言っていたのに、「再調査の必要はない」と転向し、改憲についても積極的な発言をするなど、党内のリベラル派閥である宏池会とは思えない姿勢を打ち出しました。  河野氏もまた、「原発ゼロ」以外に「森友再調査」も封印しています。取材すると、側近たちは「安倍さんに忖度したふりをしているだけ」だと言います。安倍氏が支援する高市氏側に引き寄せられる右派層の支持を得ようと、表向きすり寄っているに過ぎないと。しかし、裏でいくらエクスキューズしたとしても、政治家は言葉が命。吐き出した表向きの発言を飲み込むことはできません。  本来なら、正々堂々と主張し、政策を戦わせるのが総裁選のはずです。しかし、実際はメッセージを送る相手は国民でもメディアでもなく、キングメーカーたる安倍氏だった。これでは誰が新総裁になっても、安倍・菅政権の延長でしかありません。そこをしっかり批判することが私も含め、メディアの役割だと思います。

......続きは「ZAITEN」11月号で。

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