ZAITEN2022年1月号

中東経由で中国に販売する“特別なスキーム”

三菱自動車「パジェロ」中国輸出が大頓挫

カテゴリ:企業・経済

 三菱自動車が製造・販売していたSUV型乗用車「パジェロ」。1982年に初代車が誕生し、85年には「パリ・ダカール・ラリー(パリダカ)」で初優勝すると、2001年からは7連覇の偉業を達成、その名を世界に轟かせた。国内では90年代のRVブームで一世を風靡した人気車だったが、19年8月に惜しまれつつ国内向け仕様の生産を終了、現在は海外専売となっている。

 そんなパジェロの在庫処理を巡って、三菱自で一騒動が起きている。三菱自関係者によると、19年以降、パジェロを中東経由で中国市場に販売する一大計画が頓挫し、約1万台もの完成車の販売見込みが立たず、長期在庫扱いとなっているというのだ。

 当初は廃車処分まで検討され、損失総額は約100億円とも囁かれたが、21年秋に中東ディーラーへの販売契約が成立。このディーラー経由で最終的にはアフリカでの販売方針が固まったという。バッテリー交換などをしないため、販売額は「破格の安値」(関係者)だったようで、数十億円の損失が生じた可能性が指摘される。この失策はすでに取締役会でも報告されたといい、本来なら加藤隆雄社長兼CEO(最高経営責任者)の経営責任も問われるところだ。

三菱商事出身本部長の影

中東経由で中国市場に販売する手法は、正規代理店ルートとは別のルートで真正品を輸入する「並行輸入」と呼ばれる商取引の一種。合法的な流通経路を通しているものの、製造元が意図していない商取引で、中東経由の中国並行輸入事業も「販売後のアフターサービスなどで三菱自は関与せず、中国の販売店が全責任を負うという特別なスキームになっていた」(前出の三菱自関係者)。しかも、中国の国内法規が変更されたため、結果的に現行法に合わない車が在庫になったという。

 その後、曲折を経て、パジェロはアラブ首長国連邦(UEA)の大手自動車販売代理店「アル・ハブトゥール・モーターズ」への販売が決定。三菱自とすれば、本来は販売できずに廃車も視野に入れていた大量の在庫車問題を中東を経由してアフリカ大陸で、事実上〝廃棄処分〟できた格好だ。

 長期在庫となっていた約1万台の内訳は、国内生産分とタイの製造・販売会社「ミツビシ・モーターズ・タイランド(MMTh)」生産分がほぼ半数で分け合う形。このうち、タイ生産分の全数に近い4500台程度が保管場所だった現地のモータープールからすでに船便での輸送が始まり、21年12月末までに出港する見通し。国産分約5000台も22年以降、順次中東へ向けて出荷される予定だ。

 これで在庫処理はひとまず一件落着かと思いきや、失策の背景には意外な人物が隠れていることが分かった。その人物とは、事業の統括責任者とされる倉橋政嗣。現在の肩書は欧州・中東ア本部長。20年4月に三菱自に中途入社し、同年8月に欧州・中東ア本部長補佐から本部長に昇格している。

 勘の良い読者ならもうお分かりかもしれないが、この倉橋欧州・中東ア本部長、三菱商事の元執行役員で、インドネシア三菱商事会社社長兼スラバヤ支店長も務めた御仁だ。19年4月に東京・丸の内本社の石油・化学グループ石油本部長として"凱旋帰国"が決まっていたが、人事発表からわずか1カ月半余りで退社した経緯がある。「依願退職」とされたが、実際は「暴力事件」を起こした疑いがあることは、本誌19年4月号が報じた通り(三菱商事側は否定)。

......続きはZAITEN1月号で。

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