ZAITEN2022年1月号

5000億円補助金も“二軍クラス”の工場誘致

【経済安保特集】TSMCにカモにされる「経済安保」

カテゴリ:企業・経済

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甘利明 自民・前幹事長(写真は公式サイトより)

「21世紀はデータの時代であり、半導体戦略が命綱になる」

 自民党税調会長だった甘利明が産経新聞の独占インタビューで「半導体戦略推進議員連盟」設立を唐突にぶち上げたのは2021年5月12日。今にして思えば、台湾積体電路製造(TSMC)の工場誘致がヤマ場に差し掛かっていたはずだが、極度に不人気だった元首相の菅義偉を退陣に追い込んだ政局で巧妙に立ち回った甘利が10月1日に党幹事長の椅子を手にすると、わずか2週間後にTSMCの熊本進出が内定、〝戦略〟は順調に滑り出したかに見えた。

 だが、10月末の衆院選で甘利は小選挙区で落選し比例復活。主役の失脚とともに生臭い利権話の全体像が露わになってきた。

中身はスカスカの半導体戦略  10月4日に第100代首相の座に就いた岸田文雄は、新鮮味に乏しい内閣の目玉として経済安全保障の閣僚ポストを新設。初代の経済安全保障担当大臣に開成中・高の後輩で財務官僚出身の小林鷹之を据えた。小林は就任当日、記者団に対する第一声で「半導体など先端技術製品の供給網の再構築を急ぐ」と表明。「半導体」と「経済安保」の繋がりをマスコミに刷り込み、その印象が冷めやらぬ8日夜、〈政府、半導体誘致で数千億円支援へ TSMCとソニー〉という通信社電が流れ、翌日一斉に報じられた。

 工場と研究開発センターを合わせ「総額1兆円規模になる」と岸田は胸を張り、政府はその半額、約5000億円の補助金をTSMCに拠出する見通しだ。単独企業、しかも外資にこれほど巨額の支援を行うのはもちろん前例がない。工場誘致に動いたのは経済産業省であり、岸田内閣の経産相に就いた萩生田光一も「必要な予算を措置したい」と無難なコメントを発したが、永田町・霞が関で指揮を執ったのはあくまで商工族のボスである甘利だ。前出の半導体議連に名を連ねた安倍晋三、麻生太郎の元首相コンビも甘利演出の舞台で踊らされたに過ぎない。

 岸田政権の自民党幹事長という「誰もがあっと驚くポスト」の猟官運動で甘利が成功を収めた背景を与党内で探ると、「半導体という〝カネのなる木〟を携えていたから」(商工族OB)といった声が漏れてくる。通常なら単一企業への数千億円規模の補助金など実現性に乏しいが、20年来のコロナ禍で電子部品の世界的なサプライチェーンが混乱し、半導体不足で自動車工場などが操業停止になる事態が頻発。加えて中国脅威論の高まりで台湾との関係強化を見据えた「経済安保」がクローズアップされるようになった。

 岸田が党政調会長時代の20年6月、経済安保を議論する「新国際秩序創造戦略本部」が設置され、自身が本部長となったが、実際に議論を切り盛りする座長は甘利が務め、そのサポート役が経済安保担当相になった小林だった。

......続きはZAITEN1月号で。

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