ZAITEN2022年2月

東京機械製作所、関西スーパー、LIXIL……

株主を惑わす「議決権行使書一体型委任状」の姑息

カテゴリ:企業・経済

 経営陣と株主が対決する株主総会で、近年、奇妙な書類が出回っているのをご存じだろうか。総会前に株主に送付される「議決権行使書」と、受任者が白紙の「委任状」が一体となって連なっている書面(一体型書面)である。  この一体型書面は、創業家会長と解任された前CEOが対立した2019年のLIXIL、創業一族の争いとなった20年の天馬、大株主と経営陣が対立した同年の駅探、21年の東京機械製作所や関西スーパーなど、世間の注目を集めた大一番で使用されている。

 通常、株主の書面による権利行使は、総会の前に送付される招集通知に添付される議決権行使書面の各議案に、賛否を記入することで行われる。一体型書面は、半ば強制的に委任状で権利行使をするよう迫るものだが、これを「株主の合理的な意思決定を妨げる」と問題提起するのが、『金商法入門』(中央経済社)などの著書がある甲南大学の梅本剛正教授だ。梅本教授にその問題点を訊いた。

――一体型書面の問題点はどのようなところにありますか?  

 実質的に経営陣側に都合の良い書面となっていることと、株主にとって初めて使う書面であるにもかかわらず、記入方法の説明書が一般投資家にとって非常に分かり難い上に中立的でないということが挙げられます。

 まず、経営陣と株主が対立している株主総会では、会社提案か、株主提案か、どちらの議案が賛成票をより多く集めたかで勝負が決します。一般的に、経営陣と株主の対立となると「委任状争奪戦」を連想する方が多いですが、必ずしも委任状を集める必要はなく、原則的には、株主総会の事前に送付される招集通知で自らの提案をプレゼンし、総会に出席しない株主から送付される議決権行使書と、出席株主の投票でより多くの賛成票を得ればよいのである。

 それでも経営陣や株主が委任状を勧誘する理由は、委任状の場合、受け取った側は議案の賛成票を得るだけでなく、事前の議案に書いていない決議事項でも優位な展開ができるということです。即ち、株主総会では事前に招集通知で周知してある議案以外に、総会に臨場した株主から、当日に緊急動議が出されることがあります。

 例えば議長の不信任動議や、すでに提出されている議案の修正動議などです。この票決は総会出席の株主で行うことになります。この時、総会欠席の株主から委任状を受け取っていれば、その分だけ多数の議決権を有する株主として権利行使ができる。ただし、意思決定する株主からすれば、例年通りの議決権行使書で意思表示をするのが一番分かりやすい。それでも一方を勝たせたいという人は、委任状を送付すればいいのです。

 これまでの委任状争奪戦では、議決権行使書と委任状はあくまで別物として株主に送付されていました。しかし、天馬や駅探、東京機械製作所の議決権行使書は一体型書面となり、委任状による議決権行使を株主に迫っています。

 書面の体裁を見ると、法律の要請に基づいて議決権行使書と同じように各議案に賛否の記入欄があり、一見して、議決権行使書と同じような効力を有するものと判断してしまいます。ところが、この委任状に議決権行使書と同じような感覚で経営陣側の意向に反した記載をすると、ノーカウントとして取り扱わない会社があります。  例えば東京機械製作所の場合も経営陣の意に沿わない委任状は、提出を受けても取り扱わないこととされています=掲載画像参照。経営陣側に反対の権利行使をできるような体裁なのに、素直に記入すると、その株主意思を取り扱わないということができてしまう。

 では、一体型書面で経営陣側に反対の株主はどうすればいいかというと、わざわざ委任状を切り取って議決権行使書だけにして送り返さなければいけない。本来であれば、株主が例年通り受け取っている議決権行使書で十分に株主意思を反映できるのに、一体型書面の場合、誤解を招くだけでなく、経営陣に反対の株主には「ひと手間」かけさせているのです。  

 最近の関西スーパーの経営統合差し止め仮処分の申し立てがなされた事件では、株主総会当日の議決権行使のルールが非常に分かり難いことが問題になりました。一体型書面は、事前の議決権行使についてまで、議決権行使のルールを一般投資家にとって分かり難くするものです。当事者が勝ち負けにこだわるため、法律上可能な限界を試すのは理解できなくはないですが、そろそろ株主の真意を反映させるために議決権行使のルールを分かりやすくする努力が払われるべき頃ではないでしょうか。

......続きはZAITEN2022年2月号で。

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