2021年07月号

“異星人会長”はどこまで切り込めるか――

小林喜光会長就任で経産省が焦る「東京電力」解体シナリオ

カテゴリ:企業・経済

 福島第1原発事故から10年を経て、東京電力ホールディングス(HD)の再建計画(総合特別事業計画=総特)の行き詰まりが浮き彫りになっている。長期にわたる一時国有化で社内には「親方日の丸」ムードが蔓延。生え抜き社長の小早川智明以下の経営陣は「保身に汲々」(中堅幹部)とし、事実上の"オーナー"である経済産業省の顔色ばかり窺う始末だ。現場の士気もダダ下がり状態で、総特で「経営再建の切り札」に掲げた柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働はテロ対策の不備という「自滅的なエラー」(経産省幹部)で一層遠のき、経営は八方塞がりの状態だ。  

 総特の見直しすらままならない現状に、行政責任の追及を恐れる経産省は「窮余の一策」として経済同友会代表幹事を務めた大物財界人、小林喜光(三菱ケミカルHD会長)を東電HD会長に招聘、世論の目くらましを図ろうとしている。ただ、「晩節を汚さないか」との周囲の心配を余所に敢えて火中の栗を拾った小林は「東電の解体処理と福島原発事故処理への血税投入しか解決策はもはやない」と腹を括っているといい、今後は責任逃れに躍起の経産官僚や小早川らプロパー経営陣とのバトルに発展しそうな様相だ。

会長を放擲した日立の老人

「東電の企業体質・文化に国民から厳しい目が向けられている。小林氏には新しい視座から、組織全体としての体制強化を先導していただけるものと期待している」  

 経産相の梶山弘志は4月28日の記者会見で小林会長就任の意義をこう強調した。2012年に公的資金による1兆円の資本注入が実施されて以降、東電のボードには嶋田隆(前事務次官、1982年旧通商産業省)ら経産省有力幹部が次々と送り込まれ、事実上、経営を牛耳ってきた。

 しかし、業績や組織体質は一向に改善していない。国は被災者への賠償や廃炉など福島事故処理の費用を総額21・5兆円と見込む。経産省は、事故当時は設立すらされていなかった新電力にまで費用の分担を求め、電気料金への転嫁で全国の消費者に負担をしわ寄せる姑息な措置まで講じたが、それでも東電の負担分は16兆円もの巨額に上る。

 経産省の別動隊である原子力損害賠償・廃炉等支援機構(原賠機構)と東電は17年の総特で、事故処理費用のために毎年5000億円程度を確保することを柱とした再建計画を示した。しかし、21年3月期に確保できた事故処理費用は3800億円弱にとどまり、このままでは再建どころか、廃炉作業にも支障が出かねない惨状だ。このうち福島の除染にかかった4兆円の費用は、国が持つ東電株を売却して回収する算段だったが、足元の株価は300円台と、回収の前提となる株価1500円の約5分の1の水準で、「絵に描いた餅だったことが白日の下に晒されている」(霞が関筋)。  

 しかも今年に入ってからは、柏崎刈羽原発で安全対策工事の不備や杜撰なテロ対策が発覚したり、福島第1原発で地震計の故障が半年以上放置されていたことが露見したりと、「安全文化や組織の劣化も深刻化」(電力業界筋)している。4月には原子力規制委員会から柏崎刈羽原発の運転禁止命令を食らい、世論や原発立地自治体・住民からの不信も極まる。自らに批判の矛先が向かいかねない状況に危機感を強めた経産省が、その〝目くらまし〟として小林を会長に起用したのは見え見えだ。  

......続きはZAITEN2021年07月号で。

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