2021年08月号

元金融庁長官「森信親」も蠢動する――

【無能首長 特集】地方を殺す「地銀"菅"製再編」の悪い奴ら

カテゴリ:政治・国際

「地銀の数は多過ぎる」――。首相の菅義偉の鶴の一声で昨秋以降、地銀再編が一気に金融行政の最優先課題となった。金融庁は経営統合や合併で地域の融資シェアが突出しても独占禁止法の適用を除外する「合併特例法」やシステム統合への補助金を用意。日銀も統合・合併した地銀が日銀当座預金口座に預ける資金に上乗せ金利を付ける異例の優遇措置を打ち出すなど、あの手この手で再編を迫っている。

 金融庁は「再編で経営基盤が強化されれば、金融仲介機能が円滑になり新型コロナウイルス禍で打撃を受けた地方経済の復活にも寄与する」などと喧伝する。だが、業界や専門家は「再編しても(業績回復につながる)トップラインやコスト面の効果は限定的。むしろ顧客利便性を損なう弊害が大きい」などと非常に懐疑的だ。

 実際、近年の再編は、リーマンショック後に注入された公的資金の返済期限が迫る中、他行との合併に追い込まれた例や、日銀のゼロ金利政策の長期化と地方経済の衰退を背景に慢性的な赤字体質に陥った末に止むに止まれず異業種との資本提携に動く事例が目立つ。「ゾンビ地銀」を再編させ破綻リスクにフタをすれば、金融庁にとって注入した公的資金を回収したり、当面の金融システム不安を回避したりできる大きなメリットがあるのは確か。

 ただ、金融庁の有識者会議が2018年にまとめた報告書が「県内1行になっても23県では不採算で生き残れない」と分析したように、多くの地方では再編を進めても地域経済の再生への貢献などは期待できないのが実情だ。

 それどころか、メガバンク誕生が大企業の再編・淘汰につながったのと同様、地銀再編が加速すれば融資先の選別がさらに進み、地元の中小・中堅企業から病院、大学まで淘汰の波に襲われるのは必至との見方も出る。 「生産性の低い中小企業はゴミ」と公言する元米証券アナリストのデービッド・アトキンソンを信奉する首相が進める〝菅製〟再編はかえって地方経済を殺しかねない危うさを秘めている。

「再編も有力な選択肢」
地銀首脳らに氷見野長官

「(コロナ後の)地域経済の新しい成長に対し、リスクを取り、関与していくには強い経営基盤が必要だ。再編も有力な選択肢で、腹を決めて取り組んで欲しい」  

 金融庁長官の氷見野良三(1983年旧大蔵省)は6月14日の通信社主催の金融懇話会のオンライン講演で画面越しの地銀首脳らにこう迫った。中国の「易経」やギリシア悲劇などを愛読する文化人で、主要国の当局者でつくるバーゼル銀行監督委員会への出向経験もある国際派。金融庁トップの王道とされる監督局長を経験せず、金融国際審議官から長官に就いた経緯もあり、当初は「地銀再編で豪腕を振るえるのか」(有力OB)と不安視されていた。

 そんな評判を意識してか、氷見野は昨夏の長官就任以降、週2回、約100行ある地銀・第二地銀トップらと順番に30分間オンラインで面談するなど、地銀政策に精力を注いできた。首相の菅が昨秋の自民党総裁選で地銀再編の必要性をぶち上げて以降は「文化人や国際派の仮面を脱ぎ捨てたかのように地銀問題に執心してきた」(周辺筋)というほどだ。

 涙ぐましい努力が実ってか、この講演の1カ月前には、青森県を地盤とする青森銀行とみちのく銀行が22年4月に持ち株会社を設立し、経営統合すると発表。24年に両行の合併を目指す方針も打ち出した。再編後の県内融資シェアは7割に達すると見られ、昨年11月に施行した独禁法の適用を除外する「合併特例法」の適用第1号となる見通しだ。この法律は氷見野を金融行政トップに押し上げた元長官の森信親(80年旧大蔵省)が官房長官時代の菅に直談判し、公正取引委員会の反対を抑えて閣議決定・国会提出してもらった経緯がある。このため、活用実績を早期につくることが氷見野に課せられた使命となっていた。

 ただ、昨春に両行の統合構想が前打ち報道された際には、みちのく銀内で反発の声が広がり、頭取の藤沢貴之が否定コメントを出すなど紆余曲折があった。それだけに、統合合意発表には氷見野も胸を撫で下ろしたことだろう。

......続きは「ZAITEN」2021年8月号で。

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