ZAITEN2022年03月

“カバン持ち社長”が囃し立てるが……

IHI「アンモニア」が揮発する台所事情

カテゴリ:企業・経済

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井手博社長(写真は公式サイトより)

 国内重工業界が氷河期に入って久しい。世界的な脱炭素化の流れで火力発電プラントの新設計画が続々見直される一方、新型コロナウイルス禍で旅客需要が激減、旅客機用エンジンなど航空機関連ビジネスを枯渇させている。そんな中、IHIは社長の井手博の号令一下、アンモニア燃焼技術を「脱炭素化事業の切り札」と位置づけた。だが、二酸化炭素(CO2)を発生させないアンモニア燃料の開発はまだ緒についたばかり。実用化まで数千億円とされる研究開発投資のメドも立たず、株価も業績もジリ貧となる気配が漂う。

能天気社長にシラケ切る社内

「我々は『アンモニアでいく』と決めている」(1月1日付日経産業新聞) 「実用化までの道筋、現在の技術について多数の問い合わせが来ている」(1月12日付電気新聞)

 2022年の年明け、経済紙や業界紙の新春インタビューに登場した井手はIHIの〝アンモニア攻勢〟を声高にまくし立てた。  20年6月に社長に就任した井手は決算期でいえば、現在2年目の終盤。1983年慶大商学部卒で、同社では5代前の武井俊文以来、「20年ぶりの営業部門出身の社長」である。流暢な営業トークは文系社長ならでは、の感があるが、肝心の内容が伴わない。仮に一連のアンモニア技術が実を結んでも、業績に寄与するのは早くて3〜4年後。主力事業が総崩れの同社にとって必要なのは「明日の台所を維持する収益」(大手証券系アナリスト)。「能天気なセールスマン社長に社内はシラケ切っている」(同社関係者)という。

 直近の21年4〜9月期連結決算では、前年同期に97億円の赤字だった最終損益が151億円の黒字に転換したものの、営業損益を見ると、主力の航空・宇宙・防衛部門は航空機エンジンの不振が響き、123億円の赤字(前年同期は168億円の赤字)。株式市場は航空機事業の回復が予想以上に遅れていることに失望し、発表翌日(21年11月10日)の株価は7%安の2563円に急落。この決算ショックは年明け後も尾を引き、1月19日現在の株価は2374円と低迷が続いている。

 技術者優位の社風の中で、社長候補者レースの枠外にいた井手が抜擢された背景には、四半世紀以上繰り返してもいまだに終息しないIHIの構造改革の混乱がある。この半世紀の歴代社長は以下の通りである。

・真藤恒(72〜79年)九大工
・生方泰二(79〜83年)東大法
・稲葉興作(83〜95年)東工大
・武井俊文(95〜01年)早大政経
・伊藤源嗣(01〜07年)東大工
・釜和明(07〜12年)東大経
・斎藤保(12〜16年)東大工
・満岡次郎(16〜20年)東大院工
・井手博(20年〜)慶大商

 井手を含む最近5代の社長のうち、伊藤、斎藤、満岡の3人はいずれも航空機エンジンの技術者上がり。周知のように、幕末の水戸藩主・徳川斉昭が創設した西洋式軍艦建造所(後の石川島造船所)を祖業とする同社は長く造船部門が主力だったが、土光敏夫が社長を務めた60年代以降は度重なる造船不況に見舞われ、人員削減など合理化を繰り返してきた。「造船から航空・宇宙産業への構造転換」は稲葉が社長を務めた80年代からの経営課題だった。

......続きはZAITEN03月号で。

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