ZAITEN2023年12月号

岸田文雄に翻弄される「和製バーナンキ」

植田日銀「岸田放漫財政」で孤立無援

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 日銀総裁に初の学者出身となる植田和男(元東京大学大学院経済学研究科教授)が就任して半年以上が過ぎた。7月には金融緩和策の柱である「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)」を柔軟化し、長期金利(10年物国債利回り)を抑え込む上限を0・5%から1・0%に引き上げた。この時はひとまず長期金利の急騰や株価急落など市場の混乱を招かず金融政策を修正できた上、「悪い物価高」を助長する円安進行も一時的に止まったように見えたため、植田ら日銀執行部は「上々の滑り出しだ」などと自画自賛していた。  

 しかし、そんな「僥倖」は長く続かなかった。8月には円安がぶり返し、10月3日には一時、政府が「防衛ライン」とする1ドル=150円を突破した。エネルギーや食品の輸入コストの一段の上昇で、今春闘での賃上げ効果も吹き飛んだ。さらに、債券市場では長期金利がじわじわと上昇。足元では約10年ぶりの高水準(0・8%台)となっており、市場からYCCの再修正を催促されているのが実態だ。  米国のインフレがなかなか収まらず、米連邦準備理事会(FRB)が追加利上げを示唆する中、市場では「日銀がYCCの上限の再引き上げに動かなければ、日米の金利差拡大の思惑から1ドル=155円台を超えて円安が進み、歯止めがかからなくなる」(米証券アナリスト)と懸念する声も出始めている。  

 一方で、国内総生産(GDP)比260%を超える借金を抱えた国の財政事情を考えれば、長期金利の大幅な上昇は容認できないだろう。まさに「雪隠詰め」とも言えるような植田日銀の苦境をよそに、内閣支持率アップに血眼の首相の岸田文雄は、思い付きのように所得税減税をぶち上げるなど放漫財政にひた走り、金融政策の正常化に協力しようとする姿勢は皆無だ。米プリンストン大教授出身でFRB総裁を務めたベン・バーナンキになぞらえ「和製バーナンキ」などと持ち上げられてきた総裁の植田だが、今は名誉欲から火中の栗を拾ったことをさぞ後悔していることだろう。

「口先介入」も虚しく「単なるこけおどし」

「賃金上昇を伴う持続的な物価上昇に確信が持てた段階になれば、マイナス金利解除を含め色々なオプションがある」「賃金の上昇が十分だと思える情報やデータが年末までにそろう可能性もゼロではない」。植田は9月上旬の読売新聞の単独インタビューでこんな踏み込んだ発言を連発し、早期の金融政策の正常化に向けた意欲をアピールして見せた。

......続きはZAITEN12月号で。

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