ZAITEN2024年11月号
「マスコミが終わると〝もっと野蛮なもの〟が来る」
【インタビュー】マスコミ批判の源流は「新左翼系総会屋雑誌」
カテゴリ:インタビュー
ジェレミー・ウールズィー―ハーバード大学東アジア言語文明学科の博士課程(後期)に在籍中。専門はメディア文化史。主に70〜90年代の日本の雑誌文化・メディア批判の言説に関心がある。
―いわゆる「新左翼系総会屋雑誌」を研究するに至った経緯を教えてください。
以前は、東京芸術大学で新興宗教と美術についての研究をしていました。より一般向けのテーマに興味を持ち始めてからは日本の雑誌を研究するようになりました。1990年代以降だと現在に寄り過ぎるので、そこでさらに遡って、60~70年代の雑誌を研究することにしました。
すると、大澤聡さんというメディア研究者による新左翼系総会屋雑誌について先行研究がありました。そこで新左翼系総会屋雑誌の存在を知ったのですが、大澤さんの研究は、『流動』という雑誌についてのものでした。しかし、私には『現代の眼』が同種の雑誌では一番重要と思えたので、こちらの雑誌を研究の中心に据えることにしました。
―今やほとんどの日本人が関心のない、存在すら知られていない分野ですが、具体的にどういう所に興味を持たれたのでしょうか?
当時の70年代にあっても非常にマイナーな雑誌で、部数はおよそ6万部くらいだったと思います。その一方で、学生運動上がりで、元々は週刊誌などに関わっていた方が実名入りで「バイト原稿」を稼げる場所として機能していました。
そこから、猪瀬直樹さんや田原総一朗さん、田原さんの番組でお馴染みの高野孟さんといった、後に有名になるジャーナリストや作家が数多く輩出されています。そして、その人たちが後のメディアの状況を大きく変える存在にもなります。日本の新左翼の運動については、多くの研究がある英語圏の中でも見過ごされてきたので、研究する意義があると思ったのです。
私が主な研究対象にした『現代の眼』の編集長だった丸山実さんは、総会屋雑誌として企業から取る広告と編集は別という「二元論」を提唱しました。それはある意味で、広告から自立して自由な言論空間を形成する意味では重要だと思います。しかし、経営者は実際の総会屋である木島力也さんの総会屋活動とはどうしても無縁ではいられません。新左翼系総会屋雑誌から出た人はその辺りがかなり自覚的です。
また岡留さんは元々、業界紙の出自で、総会屋系の雑誌から出た人ではありませんが、同じチャンネルから出てきた人です。そして、その岡留さんの『噂の真相』は、広告がほとんど入っていない分、実売部数で勝負をし、熱心な読者を獲得することに成功しました。つまり、共に新左翼の運動から出てきた人が総会屋雑誌を経て、商業主義で成功を収めることを求める背景には、マスコミ批判のスタンスがあったわけです。
マスコミ批判については、その形態を研究している伊藤昌亮さんという方がいます。おおよそ日本のマスコミ批判は紙媒体から始まって、90年代にネットに移ったといったことを伊藤さんは書いているのですが、その元を辿れば、今申し上げたような新左翼系総会屋雑誌から出た流れが大きくあるわけで、その過程を追う事に非常に興味を感じています。
......続きはZAITEN11月号で。