ZAITEN2021年11月号

《みずほ行員「自宅待機5年」退職強要の戦慄》に新展開

【みずほ特集】みずほ「自宅待機で解雇行員」提訴の逆襲

カテゴリ:企業・経済

 本誌5月号と7月号で報じたみずほ銀行が男性行員に退職強要を繰り返し、5年超の自宅待機を強いた問題が新たな局面に入った。

 男性の元に5月28日午前、みずほ銀の藤原弘治頭取名で封書が届いた。そこには27日付の解雇通知が同封されていた。

 男性は代理人弁護士を通じ、懲戒解雇は無効であるとして、撤回を求める文書をみずほ銀に送付。しかし、みずほ銀が応じなかったことから、男性は「残された道は提訴しかない」と決意した。

 懲戒解雇から3カ月余りが経過した9月9日、男性はみずほ銀行を相手取り、解雇は無効であり労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、未払い賃金や慰謝料など約3600万円の支払いを求める訴訟を東京地方裁判所に起こした。

 男性は居住している関西地方から上京し、厚生労働記者クラブで開かれた会見に代理人弁護士とともに臨んだ。笹山尚人弁護士が、この裁判の意義を次のように説明した。「この問題が非常に特徴的なのは、私どもが自宅待機と言っている期間が2016年4月7日から解雇に至るまで、5年と約2カ月に及んでいることです。銀行側は自宅待機が20年11月14日に解消されたと解雇の直前になって勝手に言い出しています。そこも争いになると思いますが、銀行が言っている期間だけでも4年7カ月に及びます。こんなに長い自宅待機は見たことがありません。しかも、自宅待機と言っても図書館くらいには行ってもいいけれども、後は仕事中は自宅にいろと指示していて、文字通り人身拘束状態です。そういうことを日本を代表するメガバンクがやっていいのかということが、当然、大きな問題になると思います」

 続いて男性本人がマイクを握った。退職強要が始まってから100回近くも心療内科に通院し、懲戒解雇後も精神的に不安定な状態が続いていた。それでもしっかり前を向いて、提訴に至るまでの思いを語り始めた。 「5年間家族の支えがなかったら、私自身がここにこうしていられることはありませんでした。それほど苦しい思いをしてきました。よく周りからは『あなたが何か悪いことをしたのではないか?』、もしくは『それなりの事がないと5年間の自宅待機なんてありえないのではないか?』と言われました。私の話は信用してもらえなかったのです。私も相当の理由を説明していただいて、何らかの処分が出ていたのなら踏ん切りがついたと思います。しかし、ある日突然『明日から来なくていい』『辞めて欲しい』『3カ月給料を払うから就職活動をして欲しい』と言われて、5年以上も自宅待機をさせられたこともいまだ納得ができません。その挙げ句に懲戒解雇です。なぜ私が退職金も受け取れないほどの重い処分を受けなければならないのでしょうか」

上司へのメールに対する報復

 男性は現在52歳。働き盛りの40代後半に自宅待機を強いられた。それでも屈しなかったのは、自宅待機や退職強要に明確な理由がなかったからだ。

 ここで経緯を振り返ってみたい。男性は07年、38歳の時に地方銀行からみずほ銀に転職し、関西エリア限定の行員として勤務していた。社内で多数の表彰を受け、その年度の優秀な行員が選出される「アウォード賞」を10、13、14年と3度受賞。男性も仕事にやりがいを感じていた。

 状況が一変したのは京都支店の課長代理だった14年12月。上司に〝1通のメール〟を送ったことがきっかけだった。

 送信した相手は同じフロアにいた旧みずほコーポレート銀行京都営業部長の須見則夫。旧日本興業銀行出身で、人事に強いと言われる人物だった。須見が来店客から見える場所で、足を組みながら新聞を大きく広げていることに苦情が入ったことから、改めてもらうようにお願いするメールを送った。

 ところが、ここから男性の身に思わぬ事態が起きる。直後に人事部による「臨店」が支店に入る。男性を調査するためだった。その後、男性は本部へ異動させられ組織的な嫌がらせが始まった。そして、明確な理由も告げられないまま16年4月から自宅待機を命じられた。退職強要と自宅待機の原因は、どう考えても須見にメールを送ったこと以外には見当たらなかった。当の須見はその後も出世を重ね、現在はみずほ銀の常務執行役員の職にある。

 男性は自宅待機が1000日に達しようとしていた18年12月、自分が受けている仕打ちの異常さと違法性を内部通報した。しかし、制度に基づく適切な対応は取られず、みずほ銀の代理人弁護士が事実と乖離した調査報告書を出したこともあり、事態は膠着。みずほ銀は20年秋から態度を硬化させて、就労継続の意思などについて男性が回答しなかったなどとして、10月に厳重注意、11月に譴責の懲戒処分を出した。

 ただ、みずほ銀は懲戒処分を相次いで出すものの、迷走を見せる。今年2月には給与を約6割減額する処分を出し、続く3月分の給与は停止した。3月分の支払日は、本誌編集部が男性の件について初めて取材を申し入れた日だった。すると、3月分の給与は後日、日付を本来の支払日に改竄した上で約6割カットの金額で支払われた。さらに4月分の給与は、満額の支払いとなった。給与額が変化した理由は分からない。そして翌月、男性の元に5月27日付の解雇通知が届いたのだ。

 男性が須見にメールを送った内容は正当な指摘だった。その一方で、みずほ銀の退職強要と自宅待機、懲戒処分などは、正当性を欠いた対応に終始した。

......続きは「ZAITEN」2021年11月号で。

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