ZAITEN2025年03月号

異次元金融緩和がもたらした「日米金利差」という負の遺産

【インタビュー】『誰も言わない日本の「実力」』藻谷浩介

カテゴリ:インタビュー

『誰も言わない日本の「実力」』
(毎日新聞出版)/¥1,700+税

もたに・こうすけ―1964年、山口県生まれ。地域エコノミスト。東京大学法学部卒業。日本総合研究所主席研究員。地域振興や人口問題に関して研究、執筆、講演を行っている。著書に『デフレの正体』(角川新書)など。

「国際競争力」や「過疎」という意味不明語に惑わされるな。 地域エコノミストが誰も言わない〝日本の実力〟を示す―。

―『誰も言わない日本の「実力」』(毎日新聞出版)は2016年から2024年までの毎日新聞の「時代の風」の連載をまとめたものですが、当時を振り返ってみていかがですか?

 2016年はまさに日本のターニングポイントでした。16年にそれまで〝無敵〟だった安倍晋三政権の「もり・かけ」の問題が明るみになり、安倍政権にほころびが出てきた。その後、「さくら」が出てくるわけですが、そこで政権を辞任に追い込んでおくべきでした。それに失敗した結果、検事総長人事への介入やコロナ初期の学校閉鎖など、いろいろ間違いが起きましたが、一番大きな問題は、日銀や年金基金に株や国債を買わせ、異次元金融緩和を引き返せない状況にまで進めてしまったことです。

 経済の具合は、株価でも日銀短観でもなく、GDPの増減(増えれば成長)で観測します。アベノミクスはインフレを目指した政策だったので、その成否を見るには、インフレ分を補正した実質GDPよりも、補正前の名目GDPが適当です。そして、世界の中での日本の位置は、円建てではなくドル建てで判断します。

 日本の名目GDP(ドル建て)は、野田佳彦氏が首相だった12年には6・3兆ドルで、バブル期の90年の3・7兆ドルを遠く上回り、史上最高でした。それがアベノミクス末期の19年には5・1兆ドルと、2割近くも減ってしまった。さらに岸田文雄政権下の23年には4・2兆ドルまで下がりましたが、これは岸田氏の責任ではなく、異次元金融緩和に伴う日米金利差が、ドル資産への資金流出を招き、円安が行き過ぎて、世界の中での日本経済の価値が大きく下がったのです。

 円安だと株価は上がります。しかし、それは大量のドル建て資産を持つ大企業(輸出企業)が、円換算での含み益を計算上増やしたことになるからで、実体経済はこれには連動しません。そもそも、GDPが下がっているのに株価が上がること自体、他の国ならありえない本末転倒です。

 他方で、円安は輸入燃料や原材料を高騰させます。そのため産油国への支払いが増え、内需対応型企業の採算や家計は悪化して、ますます消費は細ってしまった。

......続きはZAITEN3月号で。

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